第三話 親子で幸せを掴むため1
母様を泣かせてしまったあの日から、母様は忙しそうにしていた。
それでも、毎日会いに来てくれた。
私が寂しい思いをしないように気遣ってくれたのだ。
でも、金ピカ棒を使った剣道の修練は禁止されてしまった。
その代わりに、マーマンと一緒であることを条件に中庭の散歩を許してくれたのだ。
ずっと部屋に閉じ込められていた時と比べれば大分環境はいい方に向かっている、と思いたい。
それに、マーマンからは文字を習い、絵本であれば初見でも読めるようになったのだ。
この二ヶ月よく頑張った!
私自身を褒めてあげたい!!
さて、そんなわけで二ヶ月が経った今日この頃私は一大イベントである祝儀を前日に控えていただが。
「アルベルト様!! よく似合ってます!!」
「でも、さっきの方が凛々しかったかと!」
「さあ、次のも着てみましょう!!」
現在、マーマンを筆頭によく世話をしてくれている女性使用人に着せ替え人形にされている。
いつもの部屋で読書をしていると、母様と使用人たち、そして仕立て屋が突如入ってきてきたのだ。
明日の祝儀の際に着る服を決めるとのことだが、朝食を食べてから今に至るまでの二時間近くこの状態が続いているのだった。
そういえば、前世でも娘や妻の買い物に付き合った際、二人とも洋服を選ぶのが好きで何時間も待たされたものだ。
だが、私以上に大変だったのが孫だ。
色々な服を着せられて、最後には疲れはてた顔をしていた。
孫たちよ。
じいじも今その気持ちが分かったよ。
色々な服を着るのもそうだが。弄ばれてる感じがまた精神的に疲れるのだ。
「も、もう、かんべん、して」
「そう言わずに、この服なんてどうですか?」
「もう、なんでもいいよ」
「そんなわけないでしょ!!」
私の言葉に声を荒げたのは、母様だった。
その手にはたくさんの服が。
……、はい。着ますよ。着させていただきますよ。
あの日自分勝手に将来を決め、泣かせてしまった事が申し訳なく、なるべく母様のいう事を聞くようにしているのだ。
前世で父、祖父を経験しているからこそ、自分自身がどれだけ親不孝な決断をしたのかを理解している。
それに、私が前世の記憶が無ければきっと何の反抗もしないいい子のアルベルトだったかもしれない。
そういう意味でもこの女性に申し訳なさを感じていたのだ。
「どれか気に入った御召し物はありましたか?」
「えっと」
気に入ったと言えば、黒の落ち着いたそう欲の少ないのがいいのだが。
それ以前に自分が服を着た姿を見ていないのだ。
「かがみもないのに、わからないよ」
「かがみ、鏡!! そうですよね。ご自身の姿を見てないんですものね!」
鏡あるんかい。
私の部屋にはおろか、今世では一度も見たことが無いのでてっきりこの世界には無いのかと思ったよ。
急いで使用人が鏡を持ってくる。
だが、それは厳重な箱に入れられてそれを慎重に開けられる。
立てられる時も細心の注意を払って設置された。
それは、豪華な縁の割にそこまで大きくない手鏡のような鏡だった。
なるほど、前世でも硝酸銀を使われる前は作るのにも手間がかかり、高級品の一つだった。
この世界は文化が進んでいないとテラス様も言っていたし、これ一枚でどれほどの価値があるのだろうか?
「どうですか?」
おっと、そうだった。
服の試着をしているんだった。
「……」
だれだ、この不機嫌そうなガキは?
って、私か。
前世では病弱による苦痛を耐えていたせいでいつの間にか鋭い目になっていたが。
今世のこの目はどう考えてもあの男譲りなのだろう。
目と髪色は母親譲りで透き通るような青い目に金髪。
この両親から生まれてきた事は疑いようがない容姿をしていた。
日本の神が作った世界にしては随分西洋寄りな世界だな。
俺たち家族だけではない。
マーマンをはじめとしたここで働いてくれている使用人たちもどちらかというと西洋寄りの高い鼻に、堀のある瞳で日本人のようなのっぺりとした顔は一人もいない。
屋敷も洋館だったし、食事も服装もそうだった。
そういえば、他の神と一緒にと言っていたし、文化に関してはテラス様は関わっていないのかもな。
「どうですか?」
心配そうにマーマンが俺の顔を覗く。
そうだな。
「もうちょっと、すっきりなのが」
白を基調とした服はきれいな装飾が散りばめられて、細部にまで職人のこだわりが含まれている服だが、あまりにも可愛すぎる。
いうならば、絵本なんかで挿絵に書かれる王子様が着ているような服だ。
この顔には残念ながら合わないのだ。
「そう? かわいいのに」
母様、それは親フィルターがかかってますよ。
私も他人の子供や孫より七割は自分の子たちの方が可愛いと感じた。
いや、実際にかわいかった。
そう言うと妻に親バカだ、爺バカだと言われたものだ。
「このくろいのでいい」
軍服のようでありながら、必要以上に装飾がないのがスーツのようにも見える。
これに白のシャツとタイで十分だ。
「これ、ですか?」
「うん」
マーマンや母様は不満そうだが、これでいい。
「ならせめてこれだけは付けておいて」
母様にどこかの家紋の描かれた煌びやかなブローチを右胸に付けられた。
バルフェルト家は花が描かれた家紋だ。
それなのにこの家紋には二羽の鳥が向かい合うように描かれている。
「これは?」
「大丈夫。これでもう大丈夫だから」
私は理解できなかったがマーマンやほかの使用人たちもその意味を理解したようだ。
数人が目くばせすると私と母様、マーマンを残して部屋を出て行ってしまう。
「明日で、大丈夫だから」
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