第二話 早すぎる反抗期3
大男は私たちに近づいてくる。
その一歩一歩が私の心臓を鷲摑みするような恐怖を抱かせる。
よく見ると、いかつい顔は傷だらけだが、どことなく前世の私の顔に似ていた。
「バルフェルト伯爵、その言葉は看過できないよ。たとえ、君の子供であっても」
優雅にお茶を飲むカルマイン公爵は笑顔を崩さずにバルファルト伯爵に声をかけた。
一瞬伯爵は眉をひそめた。
そして、頭を下げ挨拶をする。
「カルマイン公爵様、なぜあなた様がここに?」
「先日貸した魔道具が返ってこないからその催促と、君への手紙を渡しに。それにたまには三人でお茶でもどうかと思ってね」
当主である伯爵自身、公爵が来たことを知らなかったようだ。
でも、そんなことがあり得るのだろうか?
家に入ってくれば少なくとも使用人たちは彼の来訪に気づくはずだ。
そうすれば必然的に当主であるこの人に連絡が行くはずだ。
「すみません。魔道具は王家の使者が持っていきました。何か急用で必要になったとか」
色々と疑問はあるが伯爵は苦言も言わずに公爵の対応する。
「分かりました。こちらで確認しておきましょう」
公爵はそう言って椅子を先ほど同様どこからともなく取り出した。
そして、バルフェルト伯爵に手で座るよう促す。
だが、伯爵は頭を下げた。
「お茶の件は、今日は都合がつかないのでまた別の日に」
「そうか。それは残念だが、そちらも了解したよ」
さほど残念そうに見えない。
それに椅子は出したがそれ以外のカップなどは出していない。
元々、お茶には参加しないのを知っていたか、それとも。
「それで、先ほどの言葉だが、誰もこの子の将来を決める事はできないよ。彼の未来は彼のものだ。それに君は別の子を跡取りにしたいようだしね」
そう言えば、そうだ。
最初の言葉の意味はどういう?
「それは公爵には関係が「あるんだなぁ」
「どういう事でしょう?」
どういうこと?
私事ではあるが、大人の間に入って重要なことを聞きそびれてしまわないように、息を殺して聞き耳を立てる。
「この子には魔力がある。鑑定なんてしなくてもわかるくらい強いのがね」
なんと!?
もしかして、魔法が!!
マーマンは使えない可能性があるって言ってたのに、これは嬉しい誤算だ。
「だから、なんですか?」
「魔法が使える可能性があるのであれば私の勤める魔法学院に入学することになる。これは国の法律で決まっていることだ。そんな貴重な種を入学前にダメにされるのは、許せないから、ね」
そんな法律があるのか。
だが、実際に私が持っている知識のような魔法が存在するのであれば、国で管理した方がいいのは火を見るよりも明らかだ。
それに、攻撃系の魔法が使えるようになれば立派な軍事力になる。
そう考えれば、そういう法律があってもおかしくはないだろう。
「まだ、祝儀の前です。魔力があっても素質がなければ意味がありません。鑑定も前の子供に過度な期待をするのはいかがなものですか?」
ここでまた素質か。
素質とはどういったものなのだろうか?
「それに、バルフェルトは代々騎士の家系だ。軍学校へ行かせる」
「待って!」
黙っていた母様が声を張り上げる。
よく見るとドレスの裾を掴み、震えていた。
「この子には平和に暮らして欲しいの。戦いなんて知らなくていい。学校というのであれば、王立学校に行かせます!」
「バルフェルト家の後継はアルベルトではない。ローグレイだ。後継でもない者を王立学校に通わせる訳にはいかん」
「ならば、家庭教師を!!」
なるほど、この世界には三つの学校があるのか。
聞いた感じだと魔法学校は、魔法の素質を持つ者が通う学校で国が管理している。
公爵の姿を見るに戦いだけでなく、魔法を使った技術進歩なども考えて作られたのだろう。
軍学校は文字通り軍への入隊を前提に考えられた学校なのだろう。
伯爵の言葉を借りるのであれば戦場で生き、戦場で武勲を上げ、戦場で死ぬために。
そして、王立学校は貴族の世継ぎが通い、社交に出る前に予め顔合わせや派閥の形成を考えた学校なのだろう。
全く戦いとは疎遠の場所。
ふむふむ、なるほど。
今だ大人三人は色々話しているが、その中に私の意見は入っていない。
悪いがこのままでは埒が明かない。
それに、私の意思は決まっている。
「ん! うん!!」
私の咳込みに大人達が視線を向ける。
「少しよろしいでしょうか?」
よし、意識すれば普通にしゃべれるな。
いつもの舌足らずな喋り方ではかっこがつかないしな。
まず、一番最悪な選択肢をつぶさないとな。
「母様、申し訳ありませんが、私は戦いに出ます。ただ、反抗とか憧れとかで選んだ道ではありません。大事な家族を守るためです」
私の言葉に母様はつらそうに顔を歪め、両手で隠した。
本当に申し訳ない。
でも、生ぬるい場所でいつまでも守られているだけではダメなんだ。
「当然だな」
バルフェルト伯爵は満足そうに頷くが、その表情に苛立ちを覚えた。
こいつ勘違いしてるな。
「一つ付け加えるなら、別にバルフェルト家の人間だからとかではありません」
「なに?」
私の言葉に伯爵は睨んでくる。
確かに四歳のお子様だったら足がすくんでしまうだろう。
でもな。
「あなたが父親だったことすら知りませんでした。初対面のあなたに言われたからと言って、従う義務も意志もありません」
坊主、お前と私では生きてきた年数も違えば、潜り抜けてきた修羅場の数も違う。
睨めば黙るほど私は可愛くないのだよ。
「なら決まりだね」
公爵が嬉しそうに話しかけてくる。
まあ、そうだな。
「すみませんが、しゅくぎ? で私の能力がハッキリするまで待って頂けないでしょうか? 伯爵の言う通り魔力を持っていても使えないでは笑う事もできません」
「確かにその通りだ。でも、もし魔法使いの素質があるなら」
だが、十中八九この人にお世話になるだろう。
前世の経験上この手の人間は確信か裏が無ければ、ここまではっきりと物事をいうことは無い。
つまり、祝儀を通さなくても魔法学校行きは決まったようなものだ。
「お世話になります。それが、国で決まっていることですから」
「ふん」
私は法律を盾に魔法学校行きを決めたのだった。
すると、伯爵は不機嫌に踵を返して屋敷に戻っていった。
さて、後は母様をどう説得するか。
「アルベルト!」
いつの間にか近くにいた母様は私を強く抱きしめる。
「どうして、私のいう事を聞いてくれないのですか?」
でも、魔王が現れるから。
女神との約束が無くても、私は。
「どうして、私の心配を理解してくれないのですか?」
痛いほど理解してます。
自分も親だったから。
そして、あなたの温かさを知っているから。
「どうして、私の愛を受け止めてくれないのですか?」
受け止めています。
だからこそ、守りたいのです。
「かあさま、ごめんなさい」
色々言いたい言葉はあった。
でも。
「でも、絶対に死なない。母様のもとに戻ってきますから」
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