第一話 若さは宝、転生して身に染みる2
昨日の交渉では惨敗をきしたが、それでもやることは変わらない。
勇者をサポートできるだけの力を手に入れるのだ。
「えい、えい、えい」
「なにをされているのですか?」
「みてわからない? からだをきたえてるの」
部屋の中だからと何もできないわけでは無い。
スクワットや腕立てだってできるし、前世の記憶で剣道の心得くらいはある。
十分に身体は鍛えられるのだ。
剣はないのでおもちゃのよくわからない金ピカ棒を代わりに使っているが。
それでも、何もしないよりはマシだろう。
「やっぱり、まえのからだと、ちがう」
身体を激しく動かしても、痛みや咳が出たりしない。
あの頃、心から欲しかった物が今手にある。
だが、それが十分に生かすことができない今の状況がもどかしい。
「そろそろ、お休みになりませんか?」
マーマンは心配そうに私に止めるよう促してくる。
本当はもっと動かしたいのだが何事をやり過ぎはいけない。
過ぎたるは及ばざる如し、とはよく言ったものだ。
「わかった」
「よかったです」
「なら、よみかきおしえて」
「え?」
「きのう、いってたよ」
確かに、身体を鍛えるのは止めると言った。
だが、知能を鍛えないとは言っていない。
それに、亡くなる直前は私は九十近いジジイだった。
記憶力もだいぶ落ちていた。
そのせいで、買い物で買い忘れやものをなくすだびに、娘や孫に心配されて。
「にんちしょうじゃない!」
「!? どうされました?」
「な、なんでも、ないです」
でも、今ならスラスラなんでも吸収できる。
歳を取ってからでは遅いことは骨身に染みて理解した。
なら、今のうちに叩き込める事は叩き込んで置かなくては!
「じゃあ、今度は魔法についての本とかどうですか?」
「まほう!!」
そういえば、テラス様はこの世界には魔法があるって言ってたな。
孫のやっていたゲームの世界のように魔法が使えるなら攻撃の手段として利用できるな。
身体が動かせないなら、こういった面をきちんと準備しておこう。
「まほう、つかいたい!!」
「男の子って勇者と魔法が好きですね」
前の世界でいう、戦隊モノやロボットみたいなものだろう。
息子も好きだったが、それ以上に私も好きだった。
つい、子供と一緒に熱くなってしまい、妻に怒られたものだ。
「じゃあ、ぼくもまほうつかえるようになるかな?」
「それは、その、素質がないとできません」
マーマンは少し歯切れが悪そうに言う。
「そしつ?」
「はい。正確には魔力の質と量ですが、詳しくは専門の先生に習った方がいいかと」
まさか、魔法が使えない可能性が出てくるとは。
でも、ゲームでも誰もが使えるものではなかった。
魔法使いや勇者は使っていたが、格闘家や商人などは使えなかった。
「ぼ、ぼくは、つかえない?」
「そんな事は、無いと、思いますよ」
そう答えるマーマンの目は少し泳いでいた。
この感じだと、私が魔法の素質を持っている可能性はほぼ無いのかもしれない。
やはり、地道にコツコツと身体を鍛えるのが得策なのかもしれないな。
「でも! まだ、祝儀の前です。それまではわからないですよ! それに、魔法が使えなくたって、強い固有スキルが手に入るかもしれませんし!」
マーマンは励ますようにそう言うが、また私の知らない単語がパレードのように使われる。
「その、しゅくぎと、こゆうすきるってなに?」
「祝儀は五歳になる年の初めに行う神様へのお祈りです。その時に子供達はスキルや能力鑑定を受けるのです。そして、固有スキルは通常スキルとは違い、その人しか持っていないスキルのことです」
つまりはその祝儀で色々と自分のことがわかるということか。
あれ?
「もうすぐ、ぼくも?」
「はい、二ヶ月後ですね」
二ヶ月後が新年なのか。
この世界でも暦は十二ヶ月周期なのだろうか?
まだ、学ばなければいけないな。
「まほうも、つかえるかわかる?」
「あまり、期待はしない方がいいですが、そうですね」
なるほど、そう言うことならば使えないかもしれない魔法の勉強よりも、体力づくりの方がいいかもしれない。
勇者へのサポートが戦闘面になりそうであれば、魔法使いでも、格闘家でも体力は重要な項目だ。
であれば。
「しゅうれん、あるのみ!」
私は金ピカ棒を握り、再度振り稽古を始める。
「あ、アルベルト様!? もう、止めるのではなかったのですか!?」
「つかえないものの、べんきょうはいらない。からだをきたえます」
「あ、ああ。もし怪我をされてしまったら」
マーマンの心配など他所に私は身体を鍛えるのだった。
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