第九話 グリフォンス家の晩餐2
あの後、私の様子を見に来たマーマンにいつもの落ち着いたコーディネートをしてもらい、晩餐へと向かっていた。
気分は最悪だった。
この気持ちを表すように外は曇りだし、ぽつぽつと雨が降り出していた。
そして、この屋敷へといくつもの馬車が向かっていた。
「今日は何かのパーティなの?」
「いえ、そのようなものは。ああ」
私の目線の先に気づいてマーマンは言葉を迷う。
しかし、小さく息を吐き出すと晩餐へ向かう足を止めた。
「あの馬車は先日亡くなった騎士たちの家族です。亡骸を一緒に連れ帰る為に多くの馬車を用意したのでしょう」
よく見ると馬車も貴族が乗るような装飾のある物ではなく、多くを乗せられるよう大きく、安価になるよう色さえ塗られていない馬車ばかりだ。
騎士たちが無くなるようなことがあったのだろうか。
「アルベルト様が生きていらっしゃって本当に良かったです」
「なぜ、その話が」
あ、なるほど。
死んだ騎士というのは、あのレベル上げの時に殿に残った騎士たちの事なのだろう。
「どれほどの騎士が亡くなったのですか?」
「……。馬車を運転していた騎士以外、全員亡くなりました」
「そうか」
レベル上げや、剣を教えてくれた騎士に礼が言えてなかったな。
屋敷に着いた馬車に次々と棺桶が積み込まれていく。
涙を流す家族たちと棺を入れた馬車が今度は一台、また一台と離れていく。
その姿を私は見送ることしかできなかった。
「急ぎましょう」
マーマンの言葉に止まっていた思考が動き出す。
晩餐へ向かう途中だった。
あまり遅れて行ってグリフォンス家の方たちの心証を悪くするのはいけない。
速足で廊下を進んでいくのだった。
食堂に着くとすでに祖父以外は集まっているようだった。
パンディナも前に座っていた場所にいる。
「こちらに」
マーマンに同じテーブルに向かうように促される。
私は母様に視線を向けると小さく頷いてくれる。
「マーマン。ぼくは母様の隣で頂くよ」
「かしこまりました」
前の朝食では母様に視線を向けるだけでここのメイドは笑顔を一瞬引きつらせたが、マーマンはやはり私たちを第一に考えてくれている。
母様の隣に席を用意してくれた。
「本当に大丈夫そうね」
母様の反対側に座っていたアマリリさんがそう言って頭を撫でてくれる。
「ご心配をかけました」
「本当は見舞いに生きたかったのに、アリアマが」
「重症だったのですから、面会謝絶で当たり前です」
「って」
ベットで寝かされていた二日間暇すぎてアマリリさんが遊びに来ないかと思っていたが、そういうことだったのか。
本当は嫌われてたとか、そういう事でないのならよかった。
でも、面会謝絶しなくてはいけないほど重症でもなかったような。
二日目には普通に歩くくらいはできたし。
「こんばんわ、アルベルト君」
急に話しかけてきたのは前の席に座る大柄な男だった。
初めて見るが、誰だろう?
「この前の朝食の時にいなかったし、初めましてだな。セグレット・グリフォンスだ。そこの姉妹の兄で、ベゼンタの弟だ」
そう言うが、見た目で言えばベゼンタの方が年下に見える。
ただ、目鼻立ちは祖父に一番似ている。
快活そうな男性だが、どこか見覚えが。
「後は、バンダスが悪かったな。この前の朝お前に突っかかったとか」
「あ、いえ」
そうだ、バンダスに似ているんだ。
つまりはこの方がバンダスの父親か。
「普段はいい子なんだが、初めて見る顔に驚いちまったみたいだ。ちゃんと叱っておいたから、仲良くしてやってくれな」
「はい」
セグレットはそう言うが、肝心の息子の方は少し離れた席からこちらを睨んでいるのだった。
それだけ話すとセグレットは彼の家族の席に戻っていった。
そのすぐに祖父が現れる。
皆の空気が張り詰める。
そして席に座るといつもの様に本を開いたのだった。
早速料理が運ばれるその時だった。
「アルベルトはこちらに座りなさい」
祖父直々に言葉を受ける。
本当はそちらの席に行きたくない。
でも。
「行きなさい」
アマリリさんがそう言う。
そして、母様に視線を向けるが何も言わなかった。
「はい」
私は祖父とパンディナのいる席に座る。
気づくと祖父は私をずっと見つめていた。
「アルベルトよ」
「はい」
「これからグリフォンスを名乗りなさい」




