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第八話 体力づくりと鬼教官

グリフォンス家の敷地は広い。

どれほど広いかというと本館から出口の門まで馬を使わないと一時間はかかってしまう。

その外周を人の足で走ろうものなら半日以上かかるだろう。

外周は大きな壁があるだけであまり補装はされていないが、本館から門までは馬を走らせるために綺麗に舗装されたいる。


「何ちんたら歩いてんだ! 走れと言っただろ!!」


「イエス、マム」


その道のりを今日は朝からかれこれ三往復させられていた。

もう、体力は残っていないし、足も感覚が無く、心臓も痛いほど鼓動を打っている。


「腹から声出せ!」


「イエス! マム!」


本当はもうやめてしまいたい。

だが、自分で言った事なのでやめたいとも言えない。

でも。


「そんなだらだらしてたら一日が終わっちまうぞ! さっさと根性入れろ! それとも尻を叩かれねえと本気が出せないマゾヒストか!」


言葉が厳しすぎます、母様。


時間は少し遡る。

あのレベル上げの日から二日ほど経っていた。

その間、大した怪我ではなかったものの大事をとって部屋での療養を母様に言い渡されていたのだった。

そして、今日医者からも全回復したお墨付きをもらいさっそく母様に稽古をつけてもらえるように頼んだのだった。

その時は「やっぱりやめない?」「もう少し休んだ方がいいよ」とやさしく止めてくれたのだが、早く強くなりたい私は自分の意志を通したのだった。


もう、無力なのは嫌だ。

それに母様を守れるほどの強さが欲しい。

母様を守る必要があるかは別にして。


そして、母様は言ったのだ。

「やさしめと、ハード。どっちがいい?」、と。


私がどっちを選んだかは察しが付くだろう。

そして、今、自分の言葉を大いに後悔しているのだった。

五往復もすると、よろめいた足がほつれて倒れてしまう。


「大丈夫? きちんと水分とって」


母様はやさしく水の入った水筒を差し出してくる。


「……は、はい」


一度に飲み干す。

水がこんなにおいしいと感じたのはいつ以来だろうか。

少なくとも今世では、無いな。

息が整い体の熱が程よく冷めていく。


「じゃあ、回復魔法使って」


「は、はい?」


「回復魔法は傷以外に体力も回復するの。まだ、走れるわ」


「あ、は、はい」


もう終わりだと思っていたのに、まだあるのか。

肩を落として回復魔法をかけようとする。


「惚けてないでさっさと取り掛かれ! 時間を無駄にするな!!」


「イエス、マム!」


すぐ回復魔法をかける。

そして、走り出す。

それを四回繰り返し、回復魔法が使えなくなったところで終わるのだった。

館近くの芝生で横になる。


「さて、勉強の時間ですよ」


母様よ、鬼か。


「そのままで大丈夫。こういった時【完全記憶】は便利ですね」


本当にそうですね。

寝てなければどんなことでも覚えているのだから。

ふて寝でもしようかとするが、母様は膝枕をしてくれる。

まったく、母親というのは子供の機嫌のとり方がうまいものなのだな。


「復習になると思うけど、天職とは職の中でも一番適性値の高い物の事。また、適性値が高いほどレベルアップ時に職に沿ったスキルをもらいやすくなるの。そこまで分かる?」


「はい」


「次にレベルアップは分かる?」


「えっと、全職で共通して魔物を殺していくとレベルアップする。後、職に合わせた実績でもあがる、と」


「そこまで知っているのね。さすが私の息子、おりこうさん」


そう言いながら頭を撫でてくれる。

心地い風が吹き抜ける。

この時間は嫌いじゃない。


「では実践的な話をするわ」


母様の声音が変わる。


「はい」


「まずはクイズです。私のスキルの数はいくつでしょう?」


「え?」


確か、レベル125だったよな。

単純計算すれば。


「三百個ほどですか?」


「惜しい。二百個くらいよ」


百違いは惜しいの範疇ではないですよ。


「というのも、職には発現するスキルに上限があるの。ある程度レベルが上がるとスキルが手に入りくくなるの」


「なるほど」


「では、次のクイズ。私が実際に使用しているスキルはいくつでしょう」


二百個あるのであれば、その全てを使い続けることはできないだろう。

だとすれば。


「百。いや、七十くらいですか」


「ぶっぶう。違います」


「答えは?」


「二十個くらい」


そんなものなのか?

でも、多用しないだけで必要に合わせて使えば。


「それ以外は使わないわ」


「なぜですか?」


「いざ必要に駆られて使用しようとしても使い慣れてなければ頭の中にそれが出てこないし、何より熟練度が足らないわ」


「熟練度ですか?」


「そう。アルベルトは剣術を持っていたわよね。それって、持ってるだけで達人並みに強かった?」


「そ、それは」


そうであれば、あの時あんなに苦労はしなかっただろう。

それに、あの時はモンスターの攻撃よりも先に体力の限界がきて剣を使えなくなった。

他にも使い所が分かっていなかったせいで攻撃が上手く当たらなかったり、浅かったりしていた。


「そういう事。私の話になるけど、魔法のスキルが手に入ったのが二十歳以降。あなたが生まれる少しまえだったの。でも、二十歳すぎると魔力が成長しにくくて、使用を諦めたわ」


そう言って指の先に小さな火をともす。

「これが精いっぱい」と苦笑いしていた。


「それにあなたの【能力向上(大)】みたいな永続発動スキルも含めて二十だから、実際に意識して利用しているスキルは十個もないわ。でも、極めようとするとその程度になるの」


「そうなのですね」


器用貧乏になるよりはいいのかもしれないな。

そうなると、スキルの取捨選択が必要になるな。


「さて、勉強はこれくらいにして夕ご飯にしましょう」


「はい」


その前にシャワーが浴びたい。






よろしくお願いします。

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