第七話 渇望する強さと守る強さ6
「――――!」
「―――」
誰かの声が聞こえる。
今の状況は?
分からないけど、温かい、心地いい。
私は、どうなったのだろう?
分からないけど、疲れた、眠い。
でも、起きなくては。
この声は大好きな。
「ナマ言ってると、ぶっ殺すぞ!」
あれ?
「かあ、さま」
「アルベルト! 起きちゃったのね。うるさくしてごめんね」
そう言いながら母様はやさしく私を撫でてくれる。
き、気のせいか。
たぶん、寝起きで聞き間違いをしていたのだろう。
やさしい母様が、まさかね。
よく見ると見覚えのある馬車が。
「す、すまないね」
馬車の窓から顔を出すベゼンタがいた。
私を置いていった張本人が。
とても怖かったし、痛かったし、つらかった。
なにより、死の覚悟をした。
こいつのせいで。
だが、馬車の御者席に座っている騎士を見る。
大きな狼と戦っていた騎士だ。
文句の一つでも行ってやろうと思ったが全体を見て言葉を失った。
全体的にボロボロで、着ていたはずの鎧が所々無くなっている。
なにより、彼の右手は肘より先が無くなっていた。
思わず嗚咽がこみ上げる。
「本来子供をこんな危ないところに同行させるなら親の私に少なくとも一言は伝えるのが常識ではないのではないのですか」
「でも、パンディナが必要だと」
「それで、私の息子が死にかけたのですよ! 私がどこに行ったか気になって探してなければ、今頃」
母様が言う事はもっとだ。
お茶会から私の手を引いて連れ出した時にパンディナ自身が一言あってもよかった。
屋敷を出る前に使用人の一人に伝えていれば、母様はもっと早く来てくれていたかも。
いや。
「ごめんなさい」
「あ、アルベルト!? どうしたの?」
「勝手に危ないことして」
「……」
母様は「後でお仕置きですよ」と、言いながら嬉しそうに笑った。
なんで、こんなに安心できるのだろうか。
「その子が『巫女』の。随分と親バカですね、お兄さまともあろう人が」
「その情報は、うぐ」
鋭い視線で母様はパンディナ達を見る。
その眼には向けられていない私でも分かるほど殺意が込められていた。
強い意志に充てられてベゼンタは言葉を詰まらせる。
その後ろではパンディナが震えている。
「確か【未来分岐】でしたか。パンディナさん」
母様の声掛けにパンディナは顔を真っ青にする。
この表情を見るに可哀そうなほどだが母は怒りを抑えるつもりはないようだ。
「自分さえよければいいという考えは捨てなさい。アルベルトに関わるのもやめなさい。でないと、ね」
「は、はい」
それだけ言うと母様は関心を失ったのか私を抱きなおして走り出したのだった。
その速さは馬車の比でもなく、次々に景色が変わっていく。
この事だけでも母様がモンスター達を屠った現実を身に染みて理解させられていく。
そうなると、少し疑問ができる。
「母様のレベルはいくつなのですか?」
「レベル? 冒険者以来測ってないけど、レベル125くらいだったかな」
母様の意外な面に開いた口が閉まらなくなる。
でも、それだけ高ければあの強さも分かる。
「でも、レベルが高いのが強いって意味でもないの。そういった所から教えてあげるわ」
「いいのですか?」
「私がダメって言っても強くなりたがるのだから、仕方ないでしょ」
「もう、勝手はしません」
「悪いけど、信じられないわ」
そこまで信用を失ってしまったのだろうか。
思わず泣きそうなほどに気持ちが沈んでしまう。
でも、母様は笑顔で私を見る。
「だって、私がそうだったのだから」
次からは修行編です!
また、全体のサブタイトルを変えますので、よろしくお願いします。




