第五話 味がしない朝食(ストレスで)3
「かんぜん、きおく?」
字面だけではいまいち分かりづらいスキルだな。
でも、このスキルが私の知力向上に一役かっているのは明白だ。
「なるほど、一度で見たものを記憶し、忘れないスキルか」
本というのは読んでいるうちに何度も読み返し、記憶し、理解を深めるものである。
記憶するという点において大きなアドバンテージがある。
後は【能力向上(大)】で強化された知力で理解力を補ったといった所か。
「微妙なところだな」
祖父の言葉に隣の少女が首を傾げる。
「羨ましい。たくさん、本読める」
「そう言った面だけで見れば、いいスキルかもしれないね」
「ほう」
祖父はこちらに顔を向けて笑みをこぼした。
「では、どういった他にどういった側面を持っているのかね」
試しているのか。
理解して話しているのか、それともただ口だけのガキか。
「私は忘却という事象を人間が持つ防衛本能の一つだと考えています」
「ただの怠慢ではなく、防衛本能というのか」
祖父は忘れるという事を実力、努力不足による怠慢だというのか。
そういう事もあるだろうが、記憶と忘却という概念をそれでまとめてしまうのはあまりにも視野が狭いというしかない。
「記憶を思い出すという事象は例えると記憶という机の引き出しから自分の知識を取り出すようなものだと考えています」
「なに」
女の子は理解できていないようだが、祖父は笑みを浮かべたままこちらを見ている。
分かってて聞いたのか。
「そして、忘れるというのは引き出しを遠ざけるようなものなのです。辛い、悲しいといった記憶を思い出しにくくするために」
つまりは、この一度見たものを忘れないスキルは逆をいえばどんなことも忘れられないスキルという事だ。
精神的につらい場面が多くなるのは明白だな。
利点も多いが欠点も多いという意味では祖父が言う微妙という言葉がしっくりくるスキルだ。
「それであれば、昔の事を思い出しにくくなることや、学校のテストで差ができてしまうのはどうなのかな」
「引き出しだってずっと使わなければ開けにくくなりますし、元々引き出しに入っていないものはどうやっても取り出せません」
「面白い」
そう言うと祖父はまた本へ視線を戻してしまった。
何か面白いことを行ったか分からないが、機嫌を損ねなくてよかった。
「ねえ」
「はい?」
「あげる」
女の子はイチゴのような果物を私の皿の上に乗せた。
口に入れるが。
「すっぱ」
イチゴの味を想定していたがどちらかというとレモンの方に味が似ている。
世界が違うと味も違うのだな。
「ね、おいしい」
イジメとかではなく彼女と私の好みの違いか。
私は水で口の中を流し込むが、なかなか味が消えない。
やはりいじめだったか?
「ねえ、本当?」
「何がですか?」
「英雄、賢者、仙人、太陽の加護」
「そうですね。教会での祝儀が間違い出なければ」
私の言葉に長テーブルの方が騒がしくなる。
バンダスはこちらを睨んでいるし。
良い天職をもらった自覚はあるが、それがどれだけの価値があるのか今一ピンとこない。
部屋に用意された本は数多くあったが、天職、適性値、加護などにまつわる文献は無かった。
「教えて欲しいのですが、天職や適性値とは?」
「え?」
女の子は驚いた顔をする。
祖父もまた視線をこちらに向ける。
とても厳しい目で。
「天職、一番適した職。適性値、レベルアップ時にスキルが手に入る確率」
「天職以外のスキルも手に入るのですか?」
「うん」
レベルアップという新しい疑問は生まれたが、なんとなくは分かった。
つまりは、レベルアップ時にもらえるスキルは自身が適性がある職によって決まる。
その確率は適性値というものが高いほど高くなる。
天職とはその中でも最も適性値が高い職の事である。
といった所か。
祝儀では一番適性値が高い天職しか教えられないため、そのすぐ下の適性値に他の職業もあるかもしれない。
そう考えれば、一緒に祝儀を受けた男の子のお嫁さんや妻、お母さんの天職を貰ってはいたがその適性値が九十台であれば喜ぶだろう。
「教えてくれてありがとう」
「一般常識。普通、家庭教師が教えてくれる。平民でも教会が教える」
母様が色々情報制限してたからなあ。
「常識が無くてすみません」
「勉強すればいい」
「はい」
やることが決まれば、後は行動あるのみ。
私は止まっていた食事を急いで済ませるのだった。
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今日中にもう一話投稿したいと思っています。




