第四話 祝儀と女神と勇者と3
「ゆうしゃ?」
はて、もう一人祝儀を受けていた子供がいたのかな。
とりあえず、勇者が誰なのか分からないという問題は解決したな。
これで私の使命が全うできる。
「急に勇者と言われて驚いているかもしれないが安心してください。教会と国が全面的にバックアップします。あなたには成功の未来しかありませんので、期待していてください」
そう言って神父は私の肩に手を置くのだった。
「ん?」
おいおい、神父よ。
手を乗せる相手を間違っているぞ。
私は勇者ではないぞ。
……
…………
……勇者じゃないよな。
頭上を確認すると、英雄、賢者、仙人の三つだった。
どう見ても勇者の文字はない。
「あの、ぼく、ゆうしゃのてんしょくは、ないですよ」
「おっと、知らないのですね。よく子供向けの勇者伝説には勇者は一人しか書かれていませんが、実は昔あった五大国はそれぞれ勇者となりうるもの五人を選出し、魔王討伐に向かわせたのです。その五人の天職の内一つは失われましたが、英雄、賢者、仙人、竜騎士だったのです」
これはロールプレイングで言う所の仲間も魔王討伐の功績から勇者認定されたパターンだな。
そして、失われたというが本来の勇者の職だろう。
美しい像の言葉を信じるなら、魔王が復活しないと生まれない天職らしいので、百年前の魔王が現れてから今まで生まれていないはず。
それに前回の勇者は魔王と同士討ちになっていたはずだ。
研究する暇もなかっただろう。
「ここ数年、他国でも勇者が発見されたと報告される中、我が国ではもう三十年以上勇者が現れていなかったので、これで国も安泰でしょう」
その言葉に嫌な予感が過る。
今の勇者と呼ばれる者たちの立ち位置について考え直さないといけない。
前世の世界大戦の際に核兵器は敵国に致命的なダメージを与える画期的な武器だったが、平和の世になると国を一瞬で滅ぼす兵器に成り下がった。
大国同士が持てば小国や他の大国が非人道的行動に出ないための牽制になるだろう。
でも、小国も作り方を知り作れる資金があればそれだけで持っていなくても暴虐を行うための後ろ盾になってしまう。
大国同士の牽制も結局は一大国が大虐殺を行ったとしても、核を使った後の被害を考えると使用できないのが現実だった。
この世界で勇者という存在がそういう存在だと位置づけられているのであれば、色々と考えなくてはいけないな。
「さあ、行きましょう」
神父は私の腕を掴み教会の奥へ連れて行こうとする。
やさしそうに笑う神父だが、その目は笑っていなかった。
「いえは?」
「アルベルト君は両親が離縁したのは知っているかな? それで、君はもう貴族じゃないんだ。そうなると平民の勇者は教会が保護することになっているんだよ」
なんだと。
最初はあんな父親のもとにいない方が私の母様も幸せになれると思って背中を押したが、それが今になって裏目に出るとは。
教会預かりでどのような生活が待っているか分からない。
教会は勇者や天職の情報を多く持っていはずなので、強くなるという点を考えればこのままついていくのも一つの手段としてはいいかもしれない。
だが、祖父の態度や母様の精神状態を考えると幸せという点では離れるのはあまりよろしくないだろう。
どうにか逃げることはできないだろうか。
「かあさまに、あいたい」
「君に授けられた使命は、そんな些細な感情に流されてはいけないものなのですよ」
神父の握る手が強くなる。
怒っている?
いや、少し早口だったり、手のひらが妙に熱かったり、焦っているのか。
ならば強く出るべきか。
「私は行かない! まだ、貴族としての矜持は持っている。教会ではなく国の為に生きるのだ。国の指示に従う。これは国の、ひいては国王の指示なのか!?」
貴族の矜持もなければ、国の為に生きるなどまっぴらごめんだ。
だが、国に報告はするものの教会の内部に入れてしまおうというのは、少しおかしい。
国として武力は自分の手元に置いておきたいはず。
そうなると、教会は国の法律として報告は行う。
でも、子供が教会の保護を訴えてきたから教会で面倒を見る。
そうすれば、後は教育で教会に都合がいいように教育、洗脳していけばいい。
「な、子供は大人の言う事を聞きなさい!」
神父は強引に手を引き教会の中に連れて行こうとした時だった。
私達が入ってきた扉が勢い良く開かれる。
そして、多くの兵士たちが流れ込んできた。
神父はなりふり構わず私を持ち上げて教会内部へ逃げようとするが、兵士に捕まり地面にたたきつけられる。
急な出来事に抱えられていた私も思わずしりもちをついてしまう。
そんな中兵士たちが間を開け道を作る。
そこを歩いてくる人物がいた。
「子供の誘拐はこの国では鉱山で永久労働でしたな」
そう言うのは私の祖父だった。
祖父の冷たい視線は神父を捉える。
「い、いや。誘拐だなんて」
「……」
神父は言い訳をしようとするが、すぐに止めた。
お爺様はもう神父を見ていなかったのだ。
その視線は私に向いている。
「神父は私を無理やり教会の中へ連れて行こうとしました」
「そうか」
そう言うと祖父は私を抱き上げ入ってきた扉から出て行く。
「こ、子供の言う事です! 私を、私を信じてください!」
神父が叫び続けるが歩みを止めることは無い。
もう、祖父はあいつに興味は無かったのだ。
次回は更新が少し遅くなります。




