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動き出す日常

入学式の翌日。今日から授業が始まる。別に特別偏差値の高い高校ではないが勉強はある程度はやっておかねえとな。もうあの時みたいな思いはしたくない。始業開始の10分前に俺は席に着く。隣の東は少し後にきた。

「今日は重役出勤じゃねえのか?」

「さすがに連続はやばいと思ってな。家族全員に頼んで起こしてもらった」

一戸、お前意外と言うのなと東が苦笑する。俺はいまだにパパやママに起こしてもらっているてめえに苦笑を禁じ得ないがな。

授業は一回目はどの教科も中学の復習から始まった。俺は実家にいる間は勉強とゲームを交互に繰り返すだけだったので特に難はなかった。東は見た目通りあほのようだ。期待を裏切らないやつだ。教師に当てられるたびに答えられず当てられそうになると俺のノートをのぞき込む。途中から俺はぎりぎり答えが見えないように隠すようにしていた。東は最初こそいろんな角度から見ようと努力していたが途中からはあきらめて俺に答えを教えてくれと頼みこんできた。俺が仕方ないとノートを見せてやる。ありがとうマジで助かる飯奢るわと俺の答えを写す。もちろん答えは間違いを書いているので当てられ自信満々に答えた東は教師の溜息とクラスの連中の笑いを引き出すのだった。



昼休みになって東たちと学食に来た。答えを教える代わりに昼飯という条件だったので金はもちろん東が出す。

「お前最初のとこわざと間違いを書いてただろ」

「それ以降はちゃんと正解を写させてやったろうが」

それはそうですね。ありがとうございます。と不本意そうに感謝の言葉を絞り出す東。けっ、だったらてめえで正解を導き出せってんだ。

「一戸君て意外とSなんだね」

俺と東のやり取りを見て西が可笑しそうに笑う。意外とってなんだ。他の連中もそれをきいてうんうんとうなづいていた。こいつらなんか腹立つな。

そこにおい!と敵意を丸出しの新垣がやってきた。俺は気づかないふりをして話を続ける。

他の連中は新垣にビビッて俺のほうを見てくる。無視する。

「そういえば俺の家の隣の姉ちゃんが美人でお近づきになりたいんだが一緒に妹が住んでてそいつが邪魔してきやがってなかなか…」

「一戸!てめえ聞こえてんだろ!」

食堂がしんとなる。俺の苛立ちはほぼマックスだった。だがここでなにかあれば目撃者が多くなりすぎるか。

「先輩。俺は食事中はしゃべっちゃいけないと躾けられていたんで返事ができなかったんですよ」

「てめえさっき隣の姉ちゃんがとか言ってたじゃねえか」

それを聞いて東が噴き出す。新垣が東をにらみつけると東の姿勢がピンとなる。

「それは気のせいですよ。わかった、わかったよ。もうちょっとで食い終わるからちょっと待っててくれ」

俺はたっぷり時間をかけて食べ終える。その間も新垣はその場に立ったままである。周りの連中は居心地悪そうにしていたので先に教室に戻らせる。東は去り際、なんかあったら連絡しろよと声をかけてきた。びびっていたくせに心配しているらしい。てめえに借りなんか作ったら飯を奢るはめになるじゃねえか。それはなんかやだ。

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。食堂には俺と新垣だけになる。新垣がしゃべりだそうとしたタイミングで俺はテーブルの脚を蹴る。大きな音が鳴り新垣が口をつぐんだ。

「なあ、新垣さんよ。俺は言ったよな反撃をするようなことがあればてめえの学校生活終わらせてやると」

「あんときは不意打ちでやられたが俺はてめえなんぞに負けねえぞ」

新垣は俺に対する恐怖を怒りで抑えているようだ。ほう。見掛け倒しってわけじゃねえってことか。

「俺は別に喧嘩をしたいわけじゃねえ。あんただってメンツがあるから引けねえってだけだろ。ここはお互いに矛を収めたほうがいいとおもうんだが」

理詰めで新垣を丸め込む。俺は強キャラの雰囲気を出して上からものを言う。実際タイマンじゃ勝てなさそうだ。まともに喧嘩もしたことねえただ口が悪いだけの高校生だぜ?俺は。

「てめえびびってんのか?」

新垣を俺の魅力的なプランはそっちのけで挑発をしてくる。

あ゛あ゛?!とドスの聞いた声で新垣をにらみつける。親父譲りの目つきの悪さは新垣にも効果はあったようだ。

「ま、まあお前がそういうならそういうことにしといてやる」

話は終わりだと新垣は食堂から出ていく。俺は授業に戻る気にもなれず一服するために屋上へ向かった。



屋上にはまた先客がいた。立ち入り禁止なのになんでいつも人がいるんだよ!!澪ちゃんちゃんとパトロールしとけや。俺は扉を乱暴に閉める。その音で先客もこちらに気づいたようだ。

「誰!?」

先客はショートカットの色白な女生徒でフェンスを乗り越えようとしていた。俺の記憶にはないので別のクラスか別の学年か。どうでもいいのでその声を俺は無視する。それに構わず女生徒は俺に声をかけてくる。

「止めに来ても無駄だから!私はもう死にたいの!それ以上こっちに来ないで!」

俺は無視して自らの特等席へ向かう。女生徒は身構えたが微妙に方向が違うことを察して肩透かしを食らったような顔になる。何か言いたそうだったが構わず俺は煙草に火を点ける。

「ねえ私が今どうしようとしてるかわからないの?」

女生徒が俺に尋ねる。暇だし返事でもしてやるか。

「自殺じゃないの?」

「…そうだけど…」

女生徒はそれっきりうつむいてしゃべらなくなった。

俺は気にせず煙草を吸う。一本目が灰になった。新しい煙草に火を点ける。

「自殺しようとしてる人がいるのによく暢気に煙草吸ってられるわね」

「人間なんざ毎日いっぱい死んでいっぱい生まれてんだ。てめえみてえなちんちくりんのメスガキが今日死んだところで俺には何の影響もねえよ」

ちん…!?メス!?と目を白黒させて固まる女生徒。二本目を吸い終えて俺は屋上を出ていこうとする。

するといつの間にか正気に戻っていた女生徒が慌てて俺に声をかける。

「ねえ!私井波成美(いなみ なるみ)ていうんだけど。君は?」

一戸とだけ答えて俺は屋上を後にした。



教室に戻るとすでに授業は終わっていて休み時間に突入していた。俺が席に着くとわらわらと東たちがやってきて質問攻めにあうことになった。

「なあ新垣先輩とはどうなった?」

「見ての通りだよ」

「傷もないし勝ったのか…?」

「おうよ。ロケットパンチをお見舞いしたら一撃だったぜ」

「すげー!!」

「んなわけねえだろ」

それからも新垣とのことを聞かれて俺は新垣とはとりあえず停戦した。そしてこのことは他言無用と言って話を切り上げる。それでも元木のチビがしつこかったが。こいつは俺のことが好きなんだろうか。悪いが俺はノンケだ。

そして最後の授業を受けた後俺たちはまたカラオケに来ていた。

今度は前のような大人数ではなく俺を含め4人だ。メンツは東、俺、西、そして生田という長身の男で寡黙で俺はあまり話していないのでどんな奴かよくわからん。

「なあ、一戸。今日はお前にリクエストがあるんだが…。これとこれってどっちか歌えるか?」

「まあ知らないこともないぞ」

「てことはこれとかも?」

「ああ。わかる」

「ちょっと歌ってみてくれないか?」

「?まあいいけど」

東にリクエストされた数曲を歌ってやる。東以外は画面を見て大人しくしていて何となくきまづかった。そしてすべて歌い終わった後東が拍手をしながら鼻息荒く西と生田とアイコンタクトを取る。

「なあ一戸バンドやろうぜ」

「バンド?お前ら楽器できんのか?」

「ここにいる奴らは全員少しかじってる。俺はドラム西はベース。生田はギターだ」

「ふーん。俺は歌しかできねえぞ。それでもいいなら付き合ってやるよ」

そう答えると3人は嬉しそうな顔で手を握りあった。

「いやー。お前は声もいいし歌唱力も抜群ときた。俺はもうバンドやるしかないと思っちゃったわけよ」

東は興奮を鼻息で表現していた。お前は鼻息でステータスが確認できるな。

「すぐに西に声をかけてさ。ギターをできる奴を探したわけよ。で生田も昨日のカラオケでお前の歌はなんかいいとか言ってたからワンチャンと思って聞いてみたらギター弾けるって言うもんだからもうこれは運命だね」

そこからはあれやこれやでバンド結成となった。バンド名は東がいくつか候補を挙げたが安直すぎたため西と生田に却下されいったん保留となった。

何となくOKしたがだんだん俺もワクワクしていた。高校で部活は何かやろうと思っていたが軽音楽部か。悪くないな。


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