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入学式

 入学式の朝俺は早めの目覚ましで式の始まる30分前には教室にいた。まだ30分前なこともあり、教室にはほどんど学生はいない。何人かはもとから知り合いだったのだろう。顔を合わせてすぐ同じクラスになったことを喜んでいるようだ。10分前にはほとんどの席は埋まっていた。そしておそらく担任となるであろう教師が入学式の説明をしていく。それを遮るように教室の扉が勢いよく開かれる。

「すんません!寝坊しました!」

坊主頭のそいつは教師の注意も適当に受け流し唯一空いていた俺の隣の席へ着く。こんな奴が俺の隣かよ。悪目立ちは勘弁だ。

「お隣さん。よろしくな!」

鼻息荒く俺に話しかけてくる坊主頭。顔がちけえんだウニ野郎。

「ああ」

短く返事をしてすぐに切り上げる。

隣に座ったこの坊主頭こと(あずま)は教師に私語でまた注意されていた。こいつはお調子者タイプだとクラスの連中が考えていたのは言うまでもない。

その後体育館で長々と下らねえ御偉方の話を聞き流していくだけの入学式がつつがなく進行する。


俺は体調不良だと言って保健室へ向かうふりをして一服できそうな場所を探す。屋上の扉は鍵がかかっていたが古く、さび付いていたので軽く小突いたら壊れた。俺のせいではないな。誰もいないと思ったがすでに先客がいたようだ。プリン頭でオールバックのいかにもな不良が煙草をくわえていた。そいつからすぐに目を切って対角線上で煙草に火を点ける。少しして不良がこちらに近づいてきた。

「てめえ、ここは俺の特等席なんだが知らねえのか?」

「そいつは悪かった。お詫びのしるしとしてこいつをやるから許してくれよな」

俺は握りこぶしを出して不良が気をよくしてそれを受取ろうと手を伸ばす。もちろん手の中には何も入っていない。俺はそいつの手を取り捻り上げる。

「てめえ俺が誰だかわかってんのか!?」

「知らねえよ。つい最近引っ越してきたばかりでな」

さらに腕をひねり上げると不良は痛みで膝をつく。

「わかった、わかった!お前もここを勝手に使えばいい。だから手を放せ!」

「本当だろうな?放した瞬間とびかかってきたらてめえの残りの学生生活はただじゃ済まねえぞ」

そんな風なやり取りをしていたら屋上の扉が開いた。

「あなたたち!何をやっているの!喧嘩をやめなさい!それにここは立ち入り禁止ですよ!」

澪ちゃんだった。面倒なことになりそうだ。

澪ちゃんに気を取られて拘束が緩んだのか不良が抜け出し俺にけりを入れてくる。そして不良は走って去っていった。蹴りが鳩尾に入った俺は不良が去ったのを見届けた後に膝をつく。

「あなた大丈夫?」

澪ちゃんが顔を覗き込む。俺の顔を見てあなたは…と驚いている。

「5日ぶりくらいだな澪ちゃん…」

俺は愛想よく澪ちゃんへ挨拶する。すると澪ちゃんが顔を赤くしてぷりぷりと怒り出した。

「君やっぱりあの時の…。全然未成年じゃない!何が童顔でーよ!それにその花…。私より年下じゃない!喧嘩なんかして…。しかも澪ちゃんて私は先輩ですよ!」

やかましい女だ。しめちまおうか。

「ごめんごめん。さっきの不良がいきなり襲い掛かってきたから正当防衛だよ。あいつはなんなの?」

俺は澪ちゃんを遮って質問する。彼女は素直に先ほどの不良について説明する。

「彼は2年生の新垣くんだよ。ちょっと不良っぽいけどすぐに手を出すような性格じゃないはずだけど。一戸さ…一戸君が何かしたんじゃないの?」

ちっ。付き合いの長い新垣の野郎のほうが信用があるってことか。まあ俺には前科があるしな。

「あいつがいきなり吹っ掛けてきたんだよ。俺はあいつになにもしちゃいねえよ」

苛立ちから少し吐き捨てるように言葉が出たことで少し澪ちゃんはびくっとなる。

「わかった。じゃあ私のほうからも新垣君に言っておくから。君ももう大丈夫そうだね。早く自分のクラスに戻るように」

そう言って澪ちゃんと一緒に屋上を後にする。

屋上から教室へ戻る途中、入学式を終えたクラスの連中が通ったので何気ない顔で列に合流する。すると神妙な顔で東が声をかけてくる。

「なあ大丈夫か。うんこ間に合った?」

「間に合わなかった…。だから今ノーパン。お前のパンツ貸してくれよ」

東はぎょっとして俺の下半身を凝視する。俺は東の頭を軽くはたいて笑う。

「んなわけねえだろ。冗談だよ。俺は一戸陽だ。よろしくな東」

なんだ冗談か。と安心した顔をして俺たちは適当な会話のキャッチボールを教室に着くまで続けた。何となく友達っぽいものになった。つーかもし漏らしてたとしててめーのパンツなんか履くくらいならノーパンでいいわ。


その日はオリエンテーションで終了のため終わった後でクラスの連中の連絡先の交換や遊びの約束の会話で騒がしくなった。俺はその輪には加わらずにすぐに帰ろうとして東に声を掛けられる。

「一戸!もしこの後帰るだけならちょっと付き合えよ。親睦会をやることになったんだ」

東と男子共が俺のもとに集まる。

「まあいいけどよ」

顔見知りを作っとけば後々都合のいいこともあるだろうと判断し俺はそいつらについていくことにした。東はどうやら今日知り合ったクラスメイト数人のグループの中ではリーダーのようなポジションになっているようだ。こういう頭空っぽそうなやつってのはどうしてつるみたがるんだろうな。どうでもいいが。グループの中には東ともともと知り合いっぽいのがいてメガネの坊ちゃん刈りが西。東が馬鹿な事を言うたびに突っ込んでいる。東西コンビってことか。そして同じく坊主頭のチビが元木。こいつは東西コンビのやり取りをニコニコと眺めている。他の連中もそれを楽しそうに見ていた。少し歩いて駅の近くのカラオケ屋に到着するとクラスの女子連中も来ていたどうやらクラスのほとんどがここに集まっているらしい女側のリーダーっぽいやつと東が何かを話している。そして店の中へ入って少し待つと大部屋に通された。そこからは全員が時計回りに簡単な自己紹介をしていく。女のリーダー格は佐々木というらしい。俺の勘がかかわると面倒くさそうだと告げていた。いかにも仕切りたがりって感じだな。それからは各々適当に話す相手を探して親睦を深めているようだ。俺も何人かと適当に話したが胸の大きな豊島のことしか覚えていない。

「一戸君。みんなとは話せたかい?」

西が声をかけてくる。どうやらあまり溶け込めていない連中の相手をしているようだ。物好きな奴だな。

「ああ。何人かと話したよ。みんな気のいいやつで楽しい1年になりそうだ」

俺は心にもないことをいうと西は嬉しそうに破顔させてそれは良かった今日は楽しんでいってねと言って次の連中へ話しかけに行った。

マイクが2週目に入るころに俺はトイレと言って部屋を出る。すると東もついてきたのでついでにカラオケの代金を握らせて今日は帰ると告げた。東はしつこく今日は楽しかったか?とかかわいい女子と話せたか?と質問攻めをしてくるのでそれに適当に答えて帰るそぶりを見せるとそれ以上は何も言ってこなかった。

「お前歌上手いんだな。またカラオケ行こうぜ。今度歌ってほしい歌があるんだよ」

俺の背中に声をかけて手を振っていた。俺もひらひらと手を降り返しカラオケ屋を後にした。




家に帰ってすぐに呼び鈴が鳴った。居留守を決め込むつもりだったが一戸君いるんでしょ?と澪の声が聞こえたのでしぶしぶ玄関をドアを開ける。

「あれ?澪ちゃんなんで俺の家知ってんの?」

「お姉ちゃんに聞きました。一戸君お姉ちゃんとも会っていたんでしょ?今日の屋上のこと話したら隣の子も一戸君ていうんだよーって言うのでピンときました」

とうとううるさいのにばれてしまったか。だから私先輩なんだけどとぷりぷりと怒る澪を無視してなぜ家に来たのか尋ねる。

「あの後新垣君に聞いたけどなんでもないの一点張りで何も話してくれなかったの。だから一戸君にもう一回ちゃんと話を聞こうと思って」

学校外でも風紀委員の仕事とは恐れ入った。時間外でも発生するんだろうか。

「学校の外で先輩面するんじゃねえよ。早く家帰って糞してお姉ちゃんのおっぱいでも吸って寝てろよ」

驚いて口をパクパクさせている澪ちゃんを追い出してドアを閉める。そしてしっかり鍵をかける。しばらくはドアの前にいる気配があったが正気を取り戻したのか自分の部屋に帰っていく音が聞こえた。それを聞き届け俺はベッドに寝転ぶ。

今日はなんだか疲れた。新垣の野郎にけられた場所は少し赤くなっていたどうしてやろうかと考えながら俺は眠りに落ちた。




だんだん登場人物が増えていきます。

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