もういいかい? あんたの世話をしなくて。
様々な仕事を転職し続けた僕は既に四十代。
年の離れた兄は結婚して外に出た。
今頃は県外かな?
ここ数年は会ってない。
そして僕は他人を信用できなかった。
友人に金を盗まれたからだ。
しかもその友人は僕の恋人も寝取っていた。
恋人……だったと思う。
付き合っていたと思うが……。
御金の無心しかされて無い気がするが。
其処で此の裏切り。
友人と恋人を失った。
此れで僕は赤の他人を信用できなくなった。
そうして気が付けば此の年まで結婚していなかった。
実家暮らしをしていた両親からは早く結婚しろと言われていたのに。
「もういいかい?」
「何がだよ母さん」
「御前の面倒を見るの」
「はあ?」
突然の母親の言葉に僕は眉を顰める。
汚部屋と化した自分の部屋で僕はテレビを見ている時の事だ。
異臭の漂う部屋はもう何年も掃除をしてない。
当然だ。
以前親が掃除してくれる時に文句を付けたからだ。
好きなアニメの限定フィギュアを捨てたから。
「父さんも私ももう年だしね」
「だから?」
「何時死んでもおかしくないんだよ私ら」
「ふ~~ん」
「だからあんたの面倒は今度は嫁さんに見てもらいな」
「赤の他人は家に上げたくない信用できないから」
「ふ~~ん何時まで?」
「あと一年したら聞いてくれ」
「一年後にね」
「結婚できるまでもうあんたの面倒は見ないよ」
「別にいい」
この時から本当に両親は面倒を見てくれなくなった。
生活費は入れてたのに……。
そして此の日から両親は僕の前に顔を出さなくなった。
但し声だけはかけてくれたけど。
一年後。
「もういいかい?」
「まあだだよ……結婚する気は無い」
「そうかい……一年後に又聞くよ」
最近異臭が酷い。
家が汚い。
両親が自分の部屋だけではなく他の所も掃除してないみたいだ。
腹が立つ。
飯も作ってくれない。
生活費は机の上に置いてるのに持って行かない。
自分で飯を作るしかない。
メンドイ。
ああっ!
糞。
更に一年後。
「もういいかい」
「まあだだよ」
「はあ~~」
臭い。
本当に臭い。
近所から苦情が来る。
糞。
爺に婆が。
全然掃除しない。
生活費は机の上に置いてるのに全然持って行かない。
自分で飯を作る。
更に一年後。
「もういいかい」
「まあだだよ」
「はあ~~」
臭い。
本当に臭い。
近所から苦情が来る。
糞。
爺に婆が。
全然掃除しない。
生活費は机の上に置いてるのに全然持って行かない。
自分で飯を作る。
糞っ!
更に一年後。
「もういいかい」
「まあだだよ」
「はあ~~」
臭い。
本当に臭い。
近所から苦情が来る。
糞。
爺に婆が。
全然掃除しない。
生活費は机の上に置いてるのに全然持って行かない。
自分で飯を作る。
糞っ!
近所が煩い。
ああ~~。
糞。
そうして数年後。
兄が久しぶりに帰ってくる。
電話は僕が出た。
あの日から電話にも両親は出ない。
「兄ちゃんは何だって?」
「久しぶりに帰ってくるって」
「そうかい」
「ああ」
「もういいよ」
「はあ?」
「もうお前は結婚しなくて良い」
「はあ」
「御前は見捨てた」
「何言ってんだよ今更」
「最後まで心残りだったんだ」
「はあ?」
「だから……もういいよ」
「はあ」
此の日から両親はどんな事が有ろうと僕に声をかける事はなかった。
そう。
此の日から。
帰郷してきた兄は僕と家の惨状を見て絶叫を上げた。
腐敗した両親と共に暮らす僕を見て。
あの日。
そうあの日。
『結婚できるまでもうあんたの面倒は見ないよ』
あの日に両親は死んでいた。
心不全だった。
しかも両親ともども。
夫婦そろって。
偶然にも。
奇妙な偶然。
いや本当に偶然なのか分からない。
そして僕が聞いた言葉。
両親の言葉。
本当に其れは両親の言葉だったのか僕にはわからない。
兄に強制的に入れられた病院で僕は白い天井を見上げながら思った。
鉄格子の付いた病室でくつろぎながら。
……。
………。
…………。
此の作品の解釈は実は三種類あります。
2021年 10月30日 21時31分の感想と同日の活動報告のコメントの返しを見ていただいたら分かります。
興味のある方は見てください。