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 現実感などあるはずなかった。

 何が起きたのかも全くわからなかった。

 今起きていることを認めることができなかった。

 

 先ほどまで、私と喜びをともにしていた母親。

 それが今や、床に散らばっている。

 

 思考が止まる。





 どれほど、思考が止まっていたのか。数秒なのか数分なのか。

 しかし、頬を何かが伝う感触に気が付く。反射だった。頬を伝う何かの感触。拭うように触る。その正体には気が付いていたと思う。けれど、認めたくなかった。

 拭った手を見る。そして私は


 「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 声の限り叫んでいた。



 急速に思考が動き出す。

 なぜ?なんで?なにがおこったの?どうして?いみがわからない?まだこれはゆめのなか?でもなんでこんなにかんしょくがしっかりとしているの?でもこんなのがげんじつ?ゆめにしてもおかしくない?でもくるしいときにみるゆめはへんなゆめをみるきがする?でもかんしょくがゆめにしてはおかしくない?おかしい?じゃあこれはげんじつ?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?



 意味のない思考がどうどう巡りで埋め尽くす。現実感が全くしなかった。

 

 すると、廊下からドアの音が聞こえ、こちらに向かってくる足音が聞こえる。

 聞こえていたが、今の現状に思考が埋め尽くされ、反応できなかった。したくなかった。

 そうしているうちに、私の叫び声が聞こえたのか父親の声がする。


 「冬陽?!風邪は良くなったのか?!今の叫び声はどうした?!」


 フィルターがかかっているのか、声が遠くから聞こえるようだった。それにも関わらず、父親の声からは喜びと焦りの感情が伝わってくるようだった。

 しかし、私は反応できない。


 「真冬の部屋で何かあったのか?真冬はどうした?」


 私の姿を確認したからか、先の焦りの感情は薄らいだようだったが、変わりに現状に対する疑問の声が届く。

 しかし、私は反応できない。

 父親が近づいてくる。部屋の暗さと私に隠れて母親の状態に気づいていないようだった。

 そして、近づいてくる。


 「とにかくそんな恰好ではしたない。すぐに部屋に」


 肩に何かが触れる感触がした。その瞬間父親の声が消える。

 そして、先ほども聞こえたなにか柔らかいものが床に落ちる音。


 後ろを振り向くと、父親だった何か。


 私は、動き出した。見えない何かから逃げるように。

 

 ここにいたくない。どこかここではない場所へ。

 見えていた現実から目をそらすように。認めたくない現実から目をそらすように。

 肉塊へと変わった母親と父親を置き去りにして。肉塊を見たときに感じた感情を置き去りにして。


 現状が変わらないことはわかってはいたが、動く足に任せて。逃げる。






 そして、君と出会った。





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