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(綺麗だ。)
ずっと泣いていたのか目は赤く腫れており、目の端からさらに雫が溢れ、落ちていく。
(すごく綺麗だ。)
頬には赤い点が付いており、髪にもいくつか似たようなものがついていた。
(2度目だ。)
服には黒いシミがいくつかついており、黒い水玉かと最初は思ったが、その水玉は大きさがまちまちだった。
(前と同じ。いやそれ以上だ)
同い年くらいだろう。だが見た目が元と乖離しすぎているからか、全く覚えのない顔で、知らない女の人であるはずだった。
しかし、相手は僕の名前を知っている。それだけで相手が同じ学校の、同じ学年であろうことが予想ついた。
自転車を止め、降りる。そのまま手で自転車を押しつつ公園内、ベンチまで近づく。動作中もその女の人から目が離せない。離したくない。そのくらいすでに落ちていた。
女の人の前まで行き、声をかける。
「すみません。どなたでしょうか?」
努めて冷静に。心情を表に出さないように。しかし、久しぶりにまともに声を発したとは思えないほど、僕自身驚くくらいしっかりとした声をかけた。
「え?私、同じクラスの月宮冬陽です。覚えていませんか?」
正直な話。僕は同じクラスの人の名前を一人も覚えていなかった。ひとつも会話したことない相手の名前を覚えろという方がおかしいのかもしれないが。
「すみません。今覚えました。で、なんでそんな恰好でこんな時間にこの公園にいるんです?」
すでに涙は止まっていたが、こんな時間にしていい姿ではなかった。そのため真っ先に疑問をぶつける。いくつかここまでの経緯が思い浮かぶが現実感がなく、本人に聞いた方が手っ取り早いと考える。
「えっと。私もどうしてこうなっているのか。現実感がなくて今も夢の中にいて、ベッドの上で目が覚めるんじゃないかって思ってて。それなのに、天地君がきて、驚いて」
混乱しているのか早口に言う。
「ちょっと落ち着いてください。飲み物買ってくるので待っててください。何かリクエストはありますか?」
飲み物で一息付ければ落ち着いて話してくれるだろう。それに夜とは言え、夏の暑さで僕の喉が渇いていた。僕の心情が伝わるのはまずい。僕自身も落ち着く必要があった。
「じゃ、じゃあお茶で。緑茶でお願いします。」
少し驚きつつもリクエストをしてくる。
「わかりました。少し待っててください。」
そういいつつズボンから財布を取り出しながら、公園内にある自販機へと向かう。できるだけゆっくりと。僕がひとまず落ち着くように。
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右手に緑茶、左手に水を持って月宮さんに近づく。僕が落ち着いたように月宮さんもひとまず落ち着いた様子だった。
そして右手を差し出しつつより一歩、より一歩と近づいて
「はいこれ。リクエストのお「それ以上近づかないで!」
声をかけた時、僕の声をかき消すように叫ぶように怒鳴られる。夜ということもあり、声が響く。
「ご、ごめんなさい。でも、それ以上近づかないで」
自分の声に驚いたのか、小さく、でも強く囁く。
「わかりました。でもこのお茶どうしましょう?」
「そこに置いて、で少し離れて。私が自分で拾うから」
言われたとおりにお茶を地面に置く。そしてお茶から離れる。
「これでいいですか?」
「ありがとう。お金は後で返すわ」
「お茶の一本くらい返さなくていいですよ。」
律儀にもお金を返すという月宮さん。僕としては綺麗な姿を見せてもらったお礼も込められているため、遠慮したいところである。
「ごめんなさい。このお礼はどこかでするわ」
そういいつつ喉が渇いていたのか、拾ってすぐにお茶で喉を潤していく。
(そりゃそうか。結構泣いてたみたいだし混乱するほどのことがあったわけだし)
そんなことを考えながら僕も水で喉を潤す。そして月宮さんも僕も一旦一息つく。
(で、こっからどうなるか。楽しみだなぁ)
これからされる話に、浮足立つ心を表に出さないように僕は再度注意した。