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「これからカラオケ行かなーい?」「部活どうする?てか夏休み中って活動どうなんの?」「昨日の俺恋見た?よかったよねぇ」「今日ブレスの続編の発売日だからこれから買いに行く予定なんだよな」
教室が騒がしい。教室から教師が去ってすぐ、様々な言葉が教室内を埋め尽くす。他愛のない会話だ。遊びに行こうと誘う会話、部活に関しての会話、昨日のドラマがどうの、新作のゲームがどうのなど夏休みが始まるということもあってかどことなくその会話は浮足立っている。そんな中無言で椅子から立ち上がる。
僕は、天地月16歳、高校一年生だ。身長168㎝体重60kg。少し髪が人よりも長く、目元を少し隠してしまっている黒髪。運動系の部活に入っていないので筋肉は多くない。顔面偏差値は贔屓目に見て中の上。そしてぼっちだ。元々人見知りする質で人としゃべるのが苦手だった。小学生の頃はしゃべる友達がいたが、途中転校してしまいそれ以来他人としゃべることがめっきり減った。それを変えたいという目的もあって地元だった場所から離れたこの高校を選んだが、自分が想像していた以上に人見知りというものは手強く、入学当初の自己紹介以降この教室で発した言葉は各礼と教師に当てられた問題を答えるだけとなってしまった。だが人間は慣れるものである。そもそも小学生の途中から会話を碌にしていなかった僕は、ぼっちを苦痛に感じることなく夏休みに入ることとなった。
「他にカラオケ行く人いるー?」
なかなかに魅力的な誘いが聞こえてくる。が、その誘いに簡単に乗れるならぼっちはしていない。その言葉を流しつつ鞄を背中に背負い教室から出ていく。
(まぁテレビも見ないし、ゲームもしない僕が碌に会話なんてできるとおもわないけど)
そんなことを考えながら、自分を慰める。我ながら情けない。
(てか冷蔵庫の中身少ないし、帰りにスーパーよっていくか)
そして、教室から出ようとして、ドアに手をかける時。先にドアが開き、先ほど教卓で話をしていた教師が見えてくる。
「おっと、天地君。邪魔しちゃったかな?ごめんね」
ドアの前にいた僕にぶつかりそうになったことを謝りつつ、教師は横にづれて教室内に入る。
「高峰さんはまだいますか?」
僕に関係ない話のようなのでそのまま教室から出ていく。騒がしい会話と教師への返答を返す教室に背を向けて。
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土曜ということもあって人ごみが多かったが、目的の冷蔵庫の中身を無事に買って帰ってきたときには3時になっていた。夏の暑さもあって疲れたのでひと眠り。
そして夜。午後11時。僕は今自分が住んでいるマンションから外へと繰り出す。朝スマホで天気予報を見たときから決めていた天体観測をするためだ。まぁ何も考えずに月や星をただ眺めるのが好きなだけで天体観測と言えるかは甚だ疑問ではある。そんなこんなで月を見るため用の望遠鏡と懐中電灯を手に移動手段のママチャリに乗って駆け出す。外はじめっとした暑さがあったが、これからのことを考え少し浮かれて自転車を漕ぐ。マンション近くは駅に比較的近いためか人工的な光が多く、星を見るには適さない。そのためこちらに来た時に発見した、自宅から25分ほどの離れた光の少ない場所へと行く。
夜だが人とすれ違う。そしてすれ違う人が見えなくなったくらいで目的の場所につく。
(暗いからここちょっとこわいんだよなぁ)
望遠鏡を組み立て、天体観測をする準備をしていく。最近は物騒なことがよく起きている。ここ近辺で教師が言っていたように連続の殺人事件だったり、失踪事件が起きている。そのため今こうして一人でこんなことしているのは危ない気もする。
(ま、そんときゃ逃げればいいか。そんときがくるとは思わんけども)
そんな益徳もないことを考えているうちに作業が終わる。さぁ星を見るか。