5章 プロローグ 撮影会・12月号
「な? ちゃんと理屈で考えてみればおかしいだろ? 真冬にさ、こんなのあり得るわけないだろ」
天は物申していた。
難しい顔で腕を組み、この世界の狂気に切り込んでいた。
これまでずっと我慢してきた。
だが、今回ばかりは抗議するべきなのだ。
――衣装の露出に。
「んなこと言ってないでさっさと撮るぞミニスカサンタ」
パチンッ。
「ひゃうんっ!?」
露出した太腿を叩かれ、天は悲鳴を上げた。
「おっ。良い声で鳴くなぁ。ひょっとしてマゾか?」
「うっせぇ……!」
天は美裂を睨みつける。
今日は月刊ALICE12月号のための撮影会。
12月ということで、テーマはクリスマスだ。
そんな中、天に与えられた衣装は――
「だって! せっかく冬が来たのになんでミニスカなんだよっ!」
――ミニスカサンタ衣装だった。
それもなかなか際どい丈の。
「ほら。そんなモジモジしながら裾引っ張ってたら逆にエロいぞ」
「でも……見えるだろ……!」
現在、天はソリに座っていた。
ミニスカ。
そんな状態で座れば、裾あたりの三角地帯が危うく――
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
「イメージカラーが赤の時点でサンタ役になるのは分かっていたのではなくて?」
「だけど、だけどさぁ……!」
アンジェリカにそう言い返す天はすでに半泣きだった。
「ほら。ちゃんと脚閉じとけば見えねぇって」
「ふぁ……!?」
美裂に太腿を握られ、天は変な声を漏らした。
ちなみに美裂とアンジェリカはトナカイ衣装だ。
体のラインが出るデザインではあるが、どちらかといえばコミカルな衣装となっている。
あからさまに露出させているサンタ衣装に比べるまでもない。
「良い加減、これくらい慣れなさいよね」
青髪の少女――蓮華が身軽な動作でソリに飛び乗ってくる。
さらにもう一方から、彩芽が丁寧な動作でソリに乗り込んできた。
蓮華と彩芽。二人に挟まれる形となり、天は体を縮こまらせる。
二人もサンタ衣装を着ているが、細部はそれぞれに違う。
蓮華の衣装は天よりもさらに露出が多い。
丈の短さは当然として、首元から肩まで大胆に露出している。
かなり開けている胸元には小さいながらも谷間が見えた。
――多分、かなり寄せ上げた結果だろう。
一方で彩芽のサンタ衣装は露出が少なめとなっている。
脚は露出しているが、上半身は肌面積がかなり抑えられている。
肉付きの良い太腿と、対照的に肌を見せない上半身。
そんなコントラストを備えた衣装だった。
もっとも、隠してなお隠れきれない膨らみが布を押し上げているのだが。
(……これは)
それぞれ方向性こそ違えども美少女だ。
彼女たちと肩を寄せ合っているという状況。
それは天の緊張をもたらしていた。
だからか、かえって意味もないことが思い浮かんだりもするわけで。
彩芽。天。蓮華。
この並びはまさに――
「…………大中小」
思わずそんな言葉が口から漏れた。
「……ぃぎッ!?」
脇腹を襲う激痛。
無防備なタイミングでの痛みに天は跳び上がる。
「どうした天。イったのか?」
「イって……ないっ……!」
自分で言いながら、その恥ずかしさに赤面する天であった。
「何を――」
天は横目で下手人――蓮華を問い詰める。
いきなり彼女が脇腹をつねってきたのだ。
そのことを糾弾しようとして――蓮華のほの暗い瞳に封殺された。
「今度ふざけたこと言ったら…………ソリから落とすわよ」
目が本気だった。
多分、今日はもう一話投稿します。
それでは次回は『小さな歌姫』です。