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4章 18話 世界の影

「生きてやがったのか……!」

 天は目を疑った。

 目の前にいる少女たちは、かつて彼女たちが倒したはずの《ファージ》だったから。

「また随分とやられたな」

 グルーミリィはマスキュラに歩み寄る。

「帰るぜ」

 

「――――――陛下が待ってる」


(…………陛下?)

 グルーミリィの言葉に天は思考した。

 陛下。

 それは王。

 さらに話の流れからすると《ファージ》の王だ。

「《治れ》」

 ジャックが口にすると、断ち切られていたマスキュラの半身がつながる。

「うぬッ! さすがジャックッ! 口だけは立派だッ!」

「……それ、結構な暴言だよね?」

「だが筋肉がないのは駄目だッ! いつか大怪我の原因になるぞッ!」

「さっきまで真っ二つになってたマッチョに言われても説得力ないけどね」

 ジャックをよそに、マスキュラは筋肉を誇張するかのようにポージングしていた。

(これはマズイな……)

 天は内心で冷や汗を流す。

 一人でも強力な《上級ファージ》が四人。

 対して、天たちは蓮華とアンジェリカを欠いた状態だ。

 数で負けている現状に勝機はない。

 どうにかやりすごせないか。

 そう考えていると、

「うぬ? 帰るのか?」

 マスキュラが振り返る。

 すでにグルーミリィたちは天たちに背を向けていた。

「最初からそう言ってんだろうがハゲマッチョ」

「ミリィよッ! その不名誉な称号は撤回してもらうぞッ!」

「そうか。早く来いハゲ」

「マッチョは不名誉などではないッ!」

「まあまあ」

 マスキュラの抗議をジャックが諫める。

 ジャックは温かく微笑むと――

「ハゲだって不名誉じゃない。そう……不足の美なんだよ」

「なるほどッ! ミリィは食だけではなく、芸術にも堪能であったのかッ!」

「えぇぇ……」

 二人のやり取りをレディメアは呆れたように見ていた。

「――時間だぜ」

 グルーミリィの言葉が引き金になったかのように、彼女たちの足元から影が伸びてきた。

 影はベールとなり彼女たちを囲んでゆく。

「どこに行く気だ!?」

 天が問いを投げかける。

 そんな彼女に、グルーミリィは首だけで振り返った。

「マジで何回言わせんだよ。帰るんだよ」

 ――俺たちの世界にな。

 影はグルーミリィたちを呑み込んだ。

 彼女たちが現れた時のような現象。

 だが結果は、先程とは逆だった。

「……いませんね」

 彩芽はそう口にした。

 彼女の言う通り、グルーミリィたちは消失していた。

 影も形もなく。

「行っちまったな」

「……戦いになるよりはマシだったんじゃないか?」

「確かにな」

 美裂は笑う。

 天の言う通り、この場で戦うことが得策でないと分かっていたのだろう。

「陛下……ね」

 天はもう一度そう反芻した。

 これまでは現れた敵を倒し続けるだけだった。

 そんな中で明かされた統率者の存在。

「世界を救うのも楽じゃないな」

 どうやらまだまだ前途多難らしい。



「陛下……か」

 箱庭にある指令室で妃氷雨はそう呟いた。

 ALICEたちの会話はこちらにも送信されている。

 だから、《ファージ》たちが口にした言葉も分かっている。

 陛下。指導者の存在の示唆。

「問題ない。予想できていたことだ」

 氷雨は息を吐く。

 彼女が現役で戦っていた時代から感じてはいたことだ。

 下級や中級の際には感じない。

 だが、上級と戦うときのことだ。

 上級を殺そうとしたとき、邪魔が入ることがあった。

 影が伸び、《ファージ》を包み込んで逃がすのだ。

 明らかに目の前にいる《ファージ》とは違う能力。

 ゆえに、氷雨は感じていたのだ。

 貴重な戦力を保護しようとする思惑の存在を。

「――――――いらっしゃっていたんですね」

 氷雨は背後の気配に声をかけた。

 そこにいたのは男性だ。

 生天目厳樹。

 この事務所のトップを務める男だ。

「太刀川美裂の身辺整理を行うといったのはお前たちだろう」

「……そうですが」

 身辺整理を行う部屋は厳樹の許可なしには入れない。

 それほどに厳重に守られているのだ。

 外部から……そして内部から。

「それにしても興味深い話だな」

 厳樹は氷雨の隣まで歩いてきた。

 そして、笑う。

「《ファージ》の王か」

 彼の笑みは深まっていく。

「家臣の不始末は……償ってもらわねばな」

 彼の目にあるのは、復讐心だけだった。


 ここからエピローグとなります。


 それでは次回は『悪として』です。

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