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1章  7話 生天目彩芽

「ここが食堂ですわ」


 アンジェリカはどこか楽しそうに部屋を紹介する。

 スポーツドリンク一本のお礼。

 そんな理由で天が案内されたのは食堂だった。

 数十人は入れそうな建物。

 そこでは様々な料理がカウンターに並べられている。

 和食、洋食、中華。

 そのレパートリーは幅広い。

「ここには様々な店がありますわ」

 多くの料理。

 そこには見覚えのあるチェーン店の看板が立っている。

 規模こそ小さいが、わざわざ敷地内に店舗を用意しているらしい。

 ――おそらく、箱庭を出入りしなくても様々な店の味を楽しめるようにという配慮なのだろう。

「別の場所にはコンビニもありますので、そちらで食事を購入なさる方もいましてよ」

「コンビニまであるのか……」

 ここに来るまでにも色々な施設を見た。

 ジム。

 服屋。

 100円ショップなんかもあった。

(まるで、一つの街として完結されてるみたいだ)

 いや。きっとそうなのだ。

 この箱庭と呼ばれる場所。

 ここには様々な施設が用意されている。

 ALICEの生活を、この敷地内で完結させるための閉鎖世界。

 だからこの場所は箱庭と呼ばれるのだ。

「あら。今日は運が良いようですわね」

「?」

 ある一点を見つめているアンジェリカ。

 首をかしげつつも、天は彼女の視線を追う。

 そこにはホワイトボードの看板があった。

「生天目スイーツ?」

 聞き覚えのない店だった。

 もっとも、生前は男子高校生であったためスイーツ店に関する知識など多くはないのだが。

 有名店なのだろうか。

「彩芽さん。ちょっとよろしくて~?」

 アンジェリカはカウンターに駆け寄ると、奥にそう声をかけた。

 カウンターの奥ではオーブンの前に一人の女性が立っていた。

 腰まで伸びた艶やかな黒髪。

 濡れ羽色の髪は、女性が振り返ると同時にふわりと広がった。

「アンジェリカさん?」

「新しいメンバーの案内ついでに立ち寄ったのですわ」

 どうやら二人は知り合いらしい。

「天さん。彼女は生天目(なまため)彩芽(あやめ)。わたくしたちと同じALICEのメンバーですの」

「ALICE……」

 天は反芻する。

 ある意味で当然といえるかもしれない。

 控えめにいっても、目の前の女性――生天目彩芽はかなりの美女だ。

 柔らかな雰囲気。

 少し垂れた目尻。

 彼女が持つ温かな雰囲気は姉――いや、母性さえ感じさせる。

 ある意味で、彼女がアイドルとなるのは必然といっても良いかもしれない。

 それに――

(大きい……)

 天の視線が若干下がる。

 そこにはメロン――否、スイカがあった。

 天条アンジェリカを見た時その大きさには衝撃があった。

 だが、それもさっきの一瞬で塗り潰されてしまった。

 アンジェリカのソレも平均を大きく上回っているが、彩芽はその上を行く。

 前者を『片手に収まらない』と評するのなら、後者は『片手に収めるなどという発想が最初から湧かない』とでも表現すべきか。

「天さん……? ええと、彼女が新しいALICEなんですか?」

 疑問符を浮かべる彩芽。

 そこで天は、まだ自分が自己紹介をしていないことに気付いた。

「あー……。俺は天宮天だ。――よろしく」

「はい。わたしは生天目彩芽です。ALICEになったのは2番目なので、教えられることも色々あると思います。遠慮せずに聞いてくださいね?」

「……ああ」

 少し返事を躊躇った。

 天宮天はALICE――厳密にはアイドルとしての自分を許容していない。

 救世主として戦うのは構わない。

 だが、アイドルなんてしたくない。

 そんなことを考えている自分が、彼女と深く馴染んで良いのかという想いがあったからだ。

「ところで、今日は何を焼いていますの?」

「今日はマドレーヌにしてみたんですよ」

「あら」

 アンジェリカが微笑む。

 生天目スイーツというくらいなのだ。

 おそらくここには、生天目彩芽が作ったお菓子が並ぶのだろう。

「どれくらいで完成しますの?」

「それならもうすぐ――」

 その時、オーブンから音が鳴った。

 どうやら焼き時間が終わったらしい。

「うふふ。今完成しました」

 彩芽は和やかに笑う。

 その笑みは淑やかで、品を感じさせる。

「それでは、わたくしと彼女の分をいただけまして?」

「はい。趣味で作っているものなので、天さんに食べてもらうのは少し緊張しますけど」

 彩芽はそう笑う。

 趣味、などといっているがオーブンから漂う香りは美味しそうだ。

(あんまりスイーツに興味なんてなかったんだけどな)

 少女になったことで嗜好にも変化が現れたのだろうか。

 以前は興味がなかった甘味が今は魅力的に思えている。

「天さんは甘いものは好きですか?」

「……わりと?」

 ――少なくとも、今世では好きになりそうだ。

 ちなみに辛いものも好きだ。

 濃い味が好きだ。

 現代っ子である。


 ――余談だが、彩芽が焼いたマドレーヌにはレモンの皮が入っていた。

 そのさわやかな味わいもあって止まらなくなってしまい、昼食が食べられなくなった。


 どうやら、少女になったことで胃のサイズも小さくなっていたらしい。


 4人目のメンバーは『おっとりお姉さん系…………?』な生天目彩芽です。

 そして次回は最後のメンバーが登場します。


 それでは、次回は『太刀川美裂』です。



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