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4章 14話 正義と悪

 国内有数の大きさを誇るドーム。

 その中心に設置されたリングに美裂は立っていた。

 四本のポールと、四角形を描くロープ。

 ポールに肘を乗せながら美裂は待つ。

 敵対者の来訪を。

「……随分派手だな」

 美裂が敵の存在を察知した直後――ドームの天井が崩落した。

 屋根の残骸とともに落ちてきたのはマスキュラだ。

 残骸がすぐ隣に落下するが美裂は眉一つ動かさない。

 ただ、目の前の彼を見ていた。

「――器物破損は正義的にオッケーなのか?」

「正義とは目の前にある壁を打ち壊し、道を切り開く者のことなのだッ」

「元から通れる道まで壊すのはただのワガママじゃねぇの?」

 ――ちゃんと入り口から来いよ。

 美裂はそう嗤う。

「お前たち卑劣な悪はどんな罠を仕掛けてくるか分からないからなッ。本来の入り口を使うなど愚策だろうッ」

(――正解)

 当然、美裂は入り口にもトラップを仕掛けていた。

 手軽なブービートラップだが、まだ戦闘態勢に入っていない彼を動揺させるためのものを。

 しかしどうやら、彼はその可能性をすでに考えていたらしい。

 ――もっともお遊戯レベルの罠だ。避けられたところで痛くも痒くもない。

「で? いつ始めるんだ?」

 美裂は尋ねる。

 彼女はロープに体重を預けて余裕を見せる。

「うぬッ! そうだな――」

 高らかに声を張り上げるマスキュラ。

 そして彼は――横を見た。

 まるで何かを見つけたように。

 しかしその直後――

「今すぐだッ!」

 マスキュラは肘を突き出した姿勢でタックルを繰り出した。

 先程のよそ見はフェイクだ。

 美裂の意識を横へと誘導。

 そうして無防備になった彼女の体へと肘を叩き込んで殺す。

 そんなペテンの一撃。

 しかし――

「読めてんだよ」

 美裂は一笑し、手元に仕込んでいたナイフでロープを断つ。

 ロープが切れたことで、体重を預けていた美裂の体は後ろに倒れる。

「ぬッ!?」

 マスキュラの肘は空振る。

 彼が突っ込んできてくれたおかげで、美裂はマスキュラの脇の下に潜り込めた。

「ほらよッ!」

 美裂はマスキュラの脇――そこにある動脈を狙ってチェーンソーを振りぬく。

「ふぬぅッ!」

 だがマスキュラはほとんど予備動作もなく跳び上がる。

 圧倒的な身体能力を活かした跳躍。

 万全に程遠いジャンプでさえドームの天井に迫るほどだ。

「浅いか――」

 先程の攻撃は薄皮を削るにとどまっていた。

 美裂の想定よりマスキュラの回避スピードが速かったのだ。

「正義の膝を舐めろッ!」

 マスキュラは天井に両手を着く。

 そして両腕の力で――下に跳んだ。

 彼は足を折りたたみ、膝から落下してくる。

 弾丸のような勢いで迫る膝頭が内包する破壊力は――

「《石色の鮫(ストーン・シャーク)》」

 ――発揮されない。

 美裂の一声で、地面から岩の棘が突き上がる。

 岩の槍が伸びる速度。そしてマスキュラ自身の速度。

 その相対速度はかなりのものとなる。

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ⁉」

 岩の棘がマスキュラの膝に直撃した。

 骨が砕ける音が鳴る。

 勢いを失うマスキュラ。

「らぁッ!」

 自由落下するマスキュラの顔面に美裂は跳び蹴りを叩き込んだ。

 彼の体が床を転がる。

「ぬッ……!」

 美裂はマスキュラの胸板を踏みつける。

 足を破壊し、上半身を押さえる。

 そうすることでマスキュラが起き上がれない状況を作り出す。

 ――1。

 マスキュラが倒れたことでカウントが始まった。

 10まで数えられたとき、その人物は死亡する滅びのカウントダウンが。

 ――とはいえ、美裂には確かめたいことがあった。

(アンジェリカの話が正しいなら――)

 マスキュラとの決闘をするにあたり、アンジェリカに戦闘の内容を詳しく聞いていた。

 そこで、疑問を覚えたのだ。

 2。

 3。

(こいつの能力は、10秒間倒れた奴を強制的に死亡させる)

 だが、アンジェリカの話を聞くともう一つの能力の存在が浮かび上がる。

(そしてもう一つの能力)

 ――4。


(5カウントで、こいつの傷はすべて治る)


 10秒で死ぬ。

 だが、マスキュラだけは5秒の時点であらゆるダメージが回復する。

 そんな美裂の推測は――的中した。

「うおおおおおおおおおおおおおッ! 正義は何度でも立ち上がるッ!」

 マスキュラの体から新たに4本の腕が伸びた。

 6本の腕が美裂に殺到する。

「危ねぇなッ……!」

 とはいえ予期していた攻撃だ。

 美裂は跳んで躱す。

 マスキュラの腕は彼女の足首を掠めるだけで空を切った。

 もし捕まっていたのなら、そのまま地面に押し付けられて殺されていただろう。

(能力を利用して殺すってのは骨が折れそうだな)

 マスキュラを殺す手段。

 そう考えた時、最初に思い付いたのは彼自身のルールを逆手に取ることだ。

 マスキュラが倒れてもカウントが進むことはすでに分かっていた。

 だから、彼を10秒間地面に縫い付けることができれば殺せる。

 そう思っていたのだが。

(さすがに、自分の能力で死ぬほど阿呆じゃねぇよな)

 そこで懸念されたのが、アンジェリカから聞いていた『マスキュラの傷が治った』という話だ。

 条件は未解明。

 だが、それがマスキュラの自滅を防ぐための安全装置だったとしたら。

 そう思ったからこそ、試したのだ。

 5秒の時点で全快するのなら、10秒間も彼を抑え込むことは難しい。

「仕方ねぇな」


「プランBでいくか」


 美裂はチェーンソーを構えなおした。


 マスキュラは復活前はわりと普通に倒せる強さです。

 復活後は復活能力がなくなる代わりに強くなる感じです。

 正義はピンチになってからが強い――ということなのかもしれない。


 それでは次回は『雑音に消える殺意』です。



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