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4章 13話 作戦会議

「だから待てって言ってんだろ」

 美裂は紬の手首を掴んだ。

「――やっぱり邪魔するのね……お前はっ」

 一閃。

 それは紬が振るったナイフの軌跡だ。

「ったく」

 しかし危なげなく美裂はナイフを片手で止めた。

 身体能力も、戦闘技術も違う。

 あのくらいの攻撃なら、美裂にとって大きな危険とはならない。

(とはいえ、仕方もないか)

 天は目の前の光景を見てそう思う。

 さっきから紬は娘を助けに行くと言って聞かない。

 止めようとすれば、ああやって攻撃的な抵抗が返ってくる。

 親として、娘を助けたいという気持ちは仕方がないのだろう。

 とはいえ、このままでは話が進まないのも事実で――

「……どういう状況?」

 天が困っていると、声が聞こえた。

 現れたのは蓮華と彩芽だった。

 マスキュラとの交戦が始まる直前に、天から箱庭に連絡は取っていた。

 二人はそれから現場に向かってきたのだろう。

「……やっぱり後でいいわ。まずはあっちが先ね」

 蓮華の視線が紬に移る。

 彼女を落ち着かせないことには話し合いにならないと判断したのだろう。

「彩芽」

「そうですね」

 蓮華の指示に従い、彩芽は懐から何かを取り出した。

 ――注射器だ。

「――――《黒色の血潮(ブラック・ブラッド)》」

 彩芽は自らの首元に注射器を刺す。

 注入されてゆく薬液。

 そして――紬が倒れた。

「鎮静剤です。健康に問題はありません」

 彩芽の《不可思技(ワンダー)》はダメージシフト。

 おそらく、体内に入ってきた薬品の成分をそのまま紬の体内に移動させたのだろう。

「とりあえず、スタッフに回収してもらったが良さそうね」

 そう言うと、蓮華はケータイを取り出した。



「どうするんだ?」

 天は美裂に尋ねた。

「人質を見捨てるかって話か?」

 そう美裂は笑う。

 そして、すぐにため息を吐いた。

「まあ、リスクはデカいな」

 人質を取られている状況。

 相手の要求は1対1。

「一人で戦うとなると厳しいな」

「かもな」

 もしも、合理性だけを突き詰めるとして。

 マスキュラの要求に乗るのは愚策だ。

 それこそ人質を見捨ててでも全員で彼を倒すのが最適解なのだろう。

 だがそれはあまりにも――非情すぎる。

「でも、これ以上……奪うわけにもいかないよな」

 美裂は小さく微笑む。

 彼女の視線の先には、眠らされている紬がいた。

 彼女が見せていた暗い激情も今はなく、安らかに眠っている。

 次に彼女が目覚めた時には、そばに娘がいるように。

 それがきっと天たちの役割なのだろう。


「アタシがアイツを――殺す」


 美裂の瞳から光が消える。

 その表情に感情はない。

 今の彼女は――殺し屋としてそこに立っていた。

「1対1っていうなら、アタシがやるわ」

 美裂の言葉を遮ったのは蓮華だった。

「単純な話として、アタシがやったほうが勝率も高いでしょう?」

 ――瑠璃宮蓮華は最強のALICEだ。

 現時点において、天が《象牙色の悪魔(アイボリー・ラプラス)》を使ったとしても彼女を倒せるか分からないほどに蓮華は強い。

 そんな彼女なら、数の力を借りなくともマスキュラを倒せるかもしれない。

 しかし――

「悪い。アタシにやらせてくれ」

 美裂は譲らない。

 そして、自嘲的に笑うと――


「――――人を殺すのだけはさ、得意なんだ」


 ひどく露悪的な言動。

 自罰的な振る舞いは、彼女が背負ってきた後ろめたさの裏返しなのかもしれない。

「「………………」」

 美裂と蓮華が見つめあう。

 二人が瞳に宿していた感情は――読めなかった。

「……清算のチャンスがあるのは、良いことなんでしょうね」

 蓮華は目を閉じると、大きく息を吐いた。

 二人の間には、何か通じるものがったのだろう。

「勝手にしなさい」

「……サンキュ」

 どうやら蓮華は美裂に任せることに決めたらしい。

「それでは、美裂さんが《ファージ》を討伐なさるということですわね」

 アンジェリカの言葉に全員が頷く。

「ですが話を聞く限り、厳しい戦いになりそうですね」

 彩芽の発言により、論点は作戦内容へと移ってゆく。

「問題は、人質がどこにいるかだな」

「? あの《ファージ》の近くにいるのではなくて? でなければ、人質の意味がありませんわ」

 天に疑問を返すアンジェリカ。

 確かに彼女が言うことにも一理ある。

 いつでも盾にできるからこそ、人質としての重みが増す。

 そう言う考え方をするのが普通だろう。

 だが――

「いや、逆だ。その場にいないことで意味が生まれるんだ」

「? ?」

 天の言葉の意味を理解できず、アンジェリカは疑問符を浮かべている。

 一方、蓮華は天の言わんとすることを理解しているらしく、彼女の言葉を補足する。

「――隠すってわけね」

「ああ」

 天はうなずく。

「人質を隠されたら、俺たちは『居場所を聞き出すまであいつを殺せない』んだよ。つまり、全力が発揮できない」

「……!」

 敵を殺さないように倒す。

 それは普通に戦うよりもはるかに難しい。

 格下が相手ならともかく、普段通りでも勝てるか分からない相手に対して行うにはあまりにもリスキー。

 人質を手元に置かないことが、敵の力を削ぐことにつながるのだ。

「……アイツは大雑把な言動のわりに狡猾だ。多分、人質は隠す」

 それが天の結論だった。

 マスキュラは一見すると賢そうには見えない。

 半面、狡猾な戦い方をする男だった。

 彼ならば、人質というアドバンテージを最大級に活かしてくるだろう。

「となると……1対1の戦いには乗らない方法を考えたほうが良いのではないでしょうか」

 彩芽はそう提案する。

 全力を出せない1対1に勝ち目はない。

 そう判断したのだろう。

「いや。良いんじゃないか?」

 しかし天は違った。

 むしろそこに勝機を見出した。


「あいつの作戦を――利用してやればいいんだ」


 次回からマスキュラとの第二戦を書けたらと思います。

 

 それでは次回は『正義と悪』です。



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