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4章 11話 滅びのテンカウント

「やはり正義は勝つというわけだなッ」

「ぅぐ……」

 骨がきしむ感覚にアンジェリカは顔をゆがめる。

(まずい……ですわね)

 すでに均衡は崩れていた。

 形勢は明らかにアンジェリカが不利。

 文字通り手数が違うのだ。

 2本の腕でアンジェリカが攻撃を防いでも、マスキュラにはまだ4本の腕がある。

 接近戦を挑む以上、このハンデは致命的だった。

「放して……くださいませッ……!」

 アンジェリカは身をよじる。

 だが、彼女の体は6本の腕に拘束されたまま動かない。

 両腕は羽交い絞めに。

 両脚も膝下から抱え上げるようにして捕らわれている。

 アンジェリカは四肢を封じられ、マスキュラはまだ2本の腕が自由。

 どちらが優位かなど明らかだ。

「最後に、我が能力をもってして悪を滅してやろうッ」

 マスキュラは高揚したように叫ぶ。

 そして、アンジェリカを押し潰すように地面に倒れこんだ。

「なにを――!」

 地面とマスキュラに挟まれ、アンジェリカは困惑の声を上げる。

 ――1。

 声が聞こえた。

 先程もそうだった。

 マスキュラが倒れた時、どこからかカウントダウンが聞こえてきた。

 ――2。

「悪人よ聞こえるかッ!」

「――耳元で叫ばれたら、逆に聞こえなくなりそうですわ……!」

「これは死へのテンカウントだッ!」

「だからうるさいですわッ……!」

 アンジェリカが抗議するも、マスキュラがさらに体重をかけてきたことでそれも封殺される。

「地面に倒れると聞こえるこのテンカウント。それが終わった時、悪は滅びるのだッ!」

 ――4。

「っく……!」

 アンジェリカは彼の体から抜き出そうともがく。

 マスキュラの言葉から察するに、10がカウントされるまで地面に押し倒されていたら――死ぬ。

 彼の下敷きにされている現状から抜け出せなければ命はない。

 ――5。

(逃げられませんわ……!)

 手足を捕まえられていては、できる抵抗にも限りがある。

 地面に体をこすりつけられたまま時間だけが過ぎてゆく。

 それでも全力を搾りだし、アンジェリカは体をよじる。

「ぬうッ!?」

 マスキュラがわずかに驚きの声を漏らす。

 ほんの少しだが、彼の体が持ち上がったのだ。

 アンジェリカがそのまま脱出しようとするも――

「ぁぁっ……!?」

 マスキュラの残る2本腕が――アンジェリカの首を締めあげた。

 彼の指が喉に食い込んでゆく。

 呼吸を妨げられアンジェリカの体から力が抜ける。

 ――6。7。

「ぁ……ぁ……」

 無抵抗に首を絞められるままタイムリミットが迫る。

 少しでも力を取り戻そうと酸素を求めるが、口から唾液がこぼれるばかりで空気が取り込めない。

 ――8。

(このままでは――)

 ついに意識が落ちそうになってきた。

 このまま気絶してしまえば死を避けることは――

「アンジェリカッ!」

 その時、赤い風が吹き抜けた。

 弾丸のようなスピードで接近した少女――天宮天は赤黒い大剣をフルスイングする。

「ぬ――!」

 マスキュラはアンジェリカから手を放し、腕で大剣をガードする。

 刃は彼の肌に傷をつけることができない。

 筋肉に阻まれ、天の刃は通じない。

(今、ですわっ……!)

 マスキュラは上半身を持ち上げ、アンジェリカを拘束している腕も今はない。

 絶好のタイミングを逃すことなく、彼女は彼の下から抜け出した。

「ぬぬ? 神聖な試合に乱入とは……さては悪だ――」


「《悪魔の四肢》」


 一瞬。

 たった一瞬で均衡が崩れる。

 押し切ったのは――天だ。

 強化されたパワー任せに天は大剣を振りぬく。

 するとマスキュラはホームランボールのように吹き飛び、壁に打ち込まれた。

「大丈夫か?」

 天は首だけでアンジェリカへと振り返る。

 ――例の親子を見つけた時点で、アンジェリカは天へと連絡をしていた。

 きっと天は連絡を受けたタイミングでこちらに向かっていたのだろう。

 そうとしか思えない到着の早さだった。

 結果として、それがアンジェリカの命を救った。

 もっとも、天が外出申請なしで箱庭の外に出たと考えると無許可――もしくは緊急で許可が下りるほどの案件という可能性が考えられる。

 アンジェリカの想像以上に、天の頼みは厄介な事情を抱えていたのだろうか。

「助かりましたわ」

「頼んでた俺が言うのもなんだけど。こんなタイミングで上級に出くわすなんてさすがアンジェリカだな」

「こんなタイミングでなければ、間に合わなかったのだから結果オーライですわ」

「――だな」

 天は小さく笑う。

 もしも今日、アンジェリカがあの親子を見つけていなければ。

 きっとマスキュラはあの親子を容易く殺していたことだろう。

 殺されかける羽目にはなったが、結果的には幸運だった。

 そうアンジェリカは考える。


「まさか、ギリギリでまた出くわすなんてな」


 そんな中、もう一人の援軍が現れる。

 チェーンソーを肩に担いで。ギザギザの歯を覗かせながら。

「………………」

 アンジェリカが追っていた親子――母と思われる女性は、現れた少女を冷たく見つめている。

 それを見て、アンジェリカは納得する。

 あの女性は、彼女の関係者だったのだと。

「最後の最後でこれってのは、運命なのかもな」

 少女――太刀川美裂は表情もなく戦場に踏み込んだ。


 美裂が合流しました。


 それでは次回は『ヒール』です。



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