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4章 10話 肉打ち、骨鳴るリング

「我がリングネームはマスキュラ・レスリングッ!」

 男――マスキュラ・レスリングは剛腕を振るった。

 大気を巻き込む一撃。

 アンジェリカはそれを跳んで躱す。

「わたくしは、天条アンジェリカですわっ」

 アンジェリカは空中で体を回転させ、回し蹴りを打ち込む。

 彼女の足はマスキュラの首を討ち据えた。

 だが彼の体は揺らがない。

 むしろマスキュラは笑みを深めてゆく。

 ――奇しくも、二人の戦闘スタイルは同じ徒手空拳だった。

 とはいえ、違いもある。

 アンジェリカは身軽な動きで相手の攻撃を躱し、確実に一撃を入れてゆく。

 対して、マスキュラはまさに重戦士。

 躱さない、守らない。

 ガードのすべてを筋肉の鎧に任せ、巨腕で敵を仕留めにかかる。

 一方的にアンジェリカが攻撃を当てているが、たった一撃で形勢を傾かせるだけのパワーをマスキュラは持っていた。

(あまり長引かせたくはありませんわね)

 横目でアンジェリカは戦場にいる親子に目を向けた。

 そもそもALICEの戦闘を見られること自体が好ましくない。

 それを差し引いても、こんな狭い場所に一般人がいるのはまずい。

 戦闘の余波で石片が舞っている。

 彼女たちがいつ巻き込まれるかなど分かったものではない。

 被害の拡大を防ぎたいのだが――

「余裕のようだなッ!」

「!」

 アンジェリカが一瞬目を離した隙に、マスキュラは拳を振りかぶっていた。

「正義の名の下、教えてやろう」


「怠慢は――悪だッ!」


 拳が打ち出される。

 それはそのままアンジェリカの顔面へと迫り――

「教わらなかったんですの?」

 アンジェリカは笑う。

 そして、手の甲でマスキュラの拳を逸らした。

「勝手な決めつけもまた、悪だと」

 ――怠慢など心外ですわ。

 マスキュラのパワーはアンジェリカを圧倒している。

 だが横に攻撃をズラすくらいなら容易い。

 マスキュラの拳が空振る。

 彼の体勢は前に傾いている。

「はぁ……!」

 アンジェリカは軽快な動きでマスキュラの上半身に乗る。

 肩車をされているかのような体勢のまま両脚で彼の頭を左右から挟み込む。

「終わりですわね」

 彼女は上半身をひねる勢いを利用し――彼の首をねじ折った。

 糸が切れたようにマスキュラが両膝をつく。

 彼が倒れるよりも早く、アンジェリカは地面に飛び降りた。

「勝負あり、ですわね」

 アンジェリカは金髪を払うとそう宣言した。


 マスキュラの首の骨が折れる感触は間違いなくあった。

 死は免れないだろう。

 アンジェリカはマスキュラの死体から視線を外す。

 そして彼に背を向け、親子へと向き直った。

 彼女たちは《ファージ》に追われ、戦いを目撃した。

 その光景は、一般人にとってショッキングだったことだろう。

「ご安心くださいませ。もう大丈――」

 アンジェリカが言いかけた時――声が聞こえた。

「1」「2」「3」

 マスキュラの声だ。

「……なん、ですの……?」

 アンジェリカは振り返るが――事態が理解できない。

 依然としてマスキュラの死体は地面に転がっている。

 とても喋っているようには見えない。

「4」

 だが、カウントは進んでいった。

(ファイブ)ゥゥゥゥッ!」

 マスキュラの体が光を放った。

 アンジェリカの目が一瞬だけくらむ。

 そして、次に視覚を取り戻したときには――

「この悪逆無道の罪人め……罪深いぞ」

 マスキュラの体が治癒していた。

 折れた首さえ治っている。

 彼は何事もなかったかのように立ち上がった。

 そして――彼の肌が浅黒く染まってゆく。


「怒りで……私のベイビーフェイスが、ヒールに染まってしまうではないかぁッッ!」


 変色したマスキュラ。

 体の色だけではない。

 彼が醸す圧力も増している。

 これまで以上の力を感じる。

 どうやら――戦いはここからが本番らしい。


「この下劣な悪人めぇッ!」

 マスキュラが地を蹴った。

(速いですわッ……!)

 これまでとは違うスピード。

 回避が間に合わない。

 アンジェリカは一瞬で回避を諦め、両手でマスキュラを受け止める。

 彼もそれに応じるように両手を伸ばし組み合いになる。

「やはりパワーでは……不利ですわね」

 アンジェリカの体が押されてゆく。

 彼女は歯を食いしばり全力で抗う。

 全身の力を振り絞って初めて、やっと拮抗する。

 受け流す余裕さえ残らないほどの全力だ。

 だが、このままではいつか力尽きる。

 どこかで均衡を崩さねばならない。

 そう考えていると――

「ぁぐッ……⁉」

 頭上から伸びてきた手によってアンジェリカの髪が掴まれた。

 現在、彼女の両手はマスキュラの手を捕まえている。

 つまり、第三者の介入。

 そう悟ったアンジェリカは髪を引っ張られる痛みに耐えながら顔を上げると――

「な――――」


 マスキュラの――()()()()()()()


 いつの間にか、彼の腕が増殖していたのだ。

 アンジェリカが拮抗していたのは、6本中の2本に過ぎなかったのだ。

「ぅぁ……!」

 頭を押さえ込まれる。

 好機とばかりに、マスキュラは体重を込めて彼女を押し潰さんとする。

 このまま地面に押し付けられてしまえば、そのまま叩き潰されることは明白。

 アンジェリカは腰を落として抵抗する。

 しかしマスキュラは笑い――

「悪魔に正義を執行してやろうッ!」

 彼は膝で、アンジェリカの鳩尾を蹴り上げた。

「っ、っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~⁉」

 内臓が痙攣する感覚とともに彼女の体が崩れ落ちる。

 胃液を吐き出すことだけはこらえるも、ダメージで這いつくばった姿勢から動けない。

 痛みに耐えながらもアンジェリカはマスキュラを睨む。

「お前たちが望むというのならばッ! 私はヒールとして魅せてやるとしようッ!」

 マスキュラは高らかに宣言する。

 宣言通り、彼の攻勢は止まらない。

 マスキュラは6本の腕をアンジェリカへと伸ばした。


 マスキュラは復活するとさらにステータスアップします。

 

 それでは次回は『滅びのテンカウント』です。

 


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