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3章 エピローグ2 サマーライブ

「なんとか間に合ったわね」

 蓮華がそうつぶやいた。

 今、天たちはステージ裏にいる。

 あと10分でALICEのライブが始まる。

 夏を彩る、熱いライブが。

「ご迷惑をおかけしました」

 そう言うのは彩芽だ。

 先日の戦いで大きく体調を崩していた彼女がレッスンに合流できたのはライブが来週に迫ってからのことだった。

 そこからは思い出したくもないデスマーチだ。

 急ピッチで歌とダンスを合わせていった日々。

 ……思い出すだけで眩暈がする。

「ま、上手くいったわけだし良いんじゃねぇの?」

「ええ。おかげでまた、5人でステージに立てるのですから安いものですわ」

 美裂とアンジェリカはそう笑う。

 病み上がりの彩芽が一番体力的にも辛かったはずだ。

 それなら、天たちが弱音を吐くわけにはいかない。

 ――のだが、

「…………ふぅ」

 そんな中、舞台裏で天は息を吐く。

「えっと……大丈夫ですか?」

「お、おう……」

 体力が戻りきっていない彩芽でさえ心配してしまうほど天は緊張していた。

 理由は簡単だ。

「なあ、あそこの振り付けってこれで合ってたよな?」

 ――初めてフルでステージに上がるライブ。

 天はパフォーマンスのことで頭がいっぱいだった。

「合っていますわよ」

「んなことより濡れ透けサービスの覚悟はできたのか?」

「そんなことはどうでも良いんだよ……!」

 ――美裂の冗談に反応する余裕もない。

「あんなに嫌がっていたミストがどうでも良いだなんて……」

「……マジで結構キテるな」

 アンジェリカと美裂が何か言っているが気にもならない。

 気にしていられない。

「天ちゃん」

「?」

 その時、彩芽が天を抱きしめた。

 彼女の胸が、天の顔面を覆う。

 聞こえる心臓の音。

 柔らかな温かさ。

 自然と心が静まってゆく。

「落ち着きましたか?」

「…………おう」

 天は赤面しながら一歩下がった。

 安心感と恥ずかしさが同時に押し寄せてくる。

 ただ、緊張はすでに一掃されていた。

「あれが母性ですのね……」

「あれがママか……」

 そんな光景を見ながらアンジェリカと美裂は――蓮華を見た。

「なによ…………ぶっ飛ばすわよ?」

 ……多分、蓮華が胸元で腕を組んだのには悲しい理由があったのだろう。

 指摘したら殺されるのが目に見えているが。

 ともかく、ALICEのサマーライブが開幕した。



『ああ。なんでこんなに上手くできないんだろう。

 白の水着じゃ、焼きそば食べられないし。

 ああ。かき氷はイチゴ味が良かったかも。

 舌が青いと、君に笑われちゃうし。

 ホント散々なサマーだよ。でも、君が笑ってくれるならいっか♪』


 ――『Sun! Sun! Summer!』

 それはALICEが歌い上げるサマーソングだ。

 夏のデート。

 不慣れゆえに上手くいかない。

 可愛い自分を見せたいのに失敗ばかり。

 そんなもどかしさを込めた一曲だ。

(――良かった)

 ライブも終盤。

 体力的にも苦しくなってくる頃。

 だというのに、天の体は驚くほど軽かった。

 理由は――客席だ。


(俺の戦いには、意味があったんだな)

 

 そこに空席は――ない。

 初ライブにおいて、天には苦い思い出がある。

 空席。そこに座っていたはずのファン。

 真実は分からない。

 だがその中には、天が守れなかった人々もいたのだろう。

 そう思うたび、彼女の胸が痛んだ。

 今度こそ。

 今度こそ満席のステージで歌ってみせる。

 誰一人、死なせはしない。

 そう誓ったのだ。

 そして今、天の眼前に広がっているのは隙間ない客席。

 彼女は、守れた。

 天の戦いは、人々を守れたのだ。

 その事実を胸に刻む。

 そして、忘れない。

 あの日に感じた胸の痛みを。

 今日感じた胸の温かさを。

 戦い続ける。

 守り続ける。

 そう誓うのだ。

 次のライブも。またその次も。

 笑顔で、みんなと再会するために。

 5人の少女がステージで舞う。

 今回は、誰も欠けることがなかった。

 これからも、欠けないように。

 そう願った。


 みんなで――世界を救いたい。


 安心してください。自作の歌詞です(2回目)。

 こうして天のセカンドライブは最高の結末を迎えることができました。

 次のライブは年末ライブとなります。

 激化してゆく戦いの中、天たちは救世主としてもアイドルとしても成功をおさめることができるのか。

 多分、プロット的に年末ライブは6章くらいになると思われます。


 それでは次回は『祝杯』です。



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