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1章  5話 ALICEの表側

「ま、これならやっていけそうか?」

 天は先程の戦いからそう感じていた。

 反省点こそ多々あるが、どれも改善の余地があるものだった。

 初めてとしては及第点だろう。

 このまま経験を積めば、救世主としての役割を果たせる。

 そう思えるだけの自信がついていた。

「うんうん。驚いたね。初めてだから、正直一歩も動けない可能性も考えていただけに驚きだったよ」

 訓練室の扉が開き、助広が入ってくる。

 彼は手放しで天の健闘を褒めていた。

「勘違いしないことね。勝つことに意味はないわ。勝ち続けて初めて、アタシたちはALICEとしての意味を果たせるってことを忘れないようにしなさい」

「……分かってるよ」

 一方で蓮華はそんな事を言う。

 それを間違っているとは思わないが、もう少し愛想のある言葉があっても良かったのではないかと言いたい。

「これで天ちゃんがALICEとして戦えることが証明されたわけだ」

 助広はそう手を叩く。


「これで、続きの説明ができそうだ」


「つまり戦闘で役に立たなそうだったら説明もせずに捨てられたってわけか?」

 天の問いかけに助広は笑う。

 食えない奴。

 彼女の中で、助広の総評はそんなところに落ち着いた。

「安心しなよ。捨てるなんて非道はしないし、捨てて情報漏洩なんて許すわけがない」

 彼は天に背を向けると、再び訓練室の扉を開いた。

「ただ記憶を消して、箱庭のスタッフになってもらうだけさ」

 記憶を消す。

 わりと物騒な発言が聞こえた気がする。

 とはいえそれに言及する気にもなれなかった。

 知らぬが仏というやつだろう。

 そう自分に言い聞かせ、天はもう一つの言葉について尋ねる。

「箱庭ってなんだ?」

「――この建物のことさ。見ただろう? 敷地が、箱庭みたいに白い壁に囲まれているのを」

 助広が言った光景を天は覚えていた。

 白く高い壁。

 それを見て、刑務所のようだと思ったことを。

「ここは一般人に見せられないものが多いからね、ALICEもスタッフも許可なしにこの箱庭から出られない」

「なんか……ヤベー場所にしか思えないんだけど」

「そうかい? ここは、少年少女の夢が詰まった場所なんだけどね」

「夢――?」

 違和感しかない。

 刑務所――控えめにいっても危険な研究が行われていそうなここを挙げて、少年少女はいかなる夢を抱いているのだろうか。

 

「だってここは――ALICEの事務所なんだからさ」


「ALICEの……事務所?」 

 天は首をかしげる。

 助広は箱庭には秘匿すべき技術が多いと言っていた。

 つまり救世主としてALICEが認識されていない確率が高い。

 それならば事務所とは――

「そうALICE。彼女たちは全国で知らない人はいないくらい超有名な――」


「――()()()()()()()()()


「………………………………は?」

 天の時が止まった。

 アイドル。

 そんな言葉が脳内でリピートされる。

 アイドル。

 それは美男美女が大勢の前で歌ったり踊ったりする職業。

 救世主とアイドルが線でつながらない。

「君たちALICEにとって救世主とはいわば裏の顔。裏があるのなら当然だけど表もある」

 

「おめでとう。君の職業は今日から国民的アイドルだ」


「……………………マジか」

 天は視線をわずかに横にずらした。

 そこにいたのは瑠璃宮蓮華。

 彼女は一言も発さずに立っている。

 不機嫌なのか、怒っているのか、無関心なのか。

 感情が読めない。

「ほら。後輩に自己紹介したらどうだい?」

「てっきり――後輩のほうが先に自己紹介するものだと思っていたわ」

 そう言って蓮華はポニーテールを揺らす。

 ――彼女の言い分も分からなくはない。

 確かに、後輩である自分が先に自己紹介をするのが筋と言われたのなら否定はできない。

「あー……俺は「アタシは瑠璃宮蓮華よ。ALICEのセンターをしているわ」……おい」

 思いっきり遮られた。

 息があっているというべきか、噛み合っていないというべきか。

 ともかく、言い始めが重なってなお言い通されるとは思わなかった。

「アンタとよろしくするかは態度と能力次第ね」

 そう言って蓮華は髪を払う。

 それに対する答えは――決まっていた。


「――――嫌だ」


「はぁ?」

 顔を伏せたまま天は呟いた。


「なんでアイドルなんてやらなきゃいけないんだよッ……!」


 アイドル――それも女性アイドルとなれば、思い浮かぶのは一つ。

 フリフリの可愛らしい衣装。

 見る分には構わない。

 だが、あれを着て大勢の前で歌って踊る?

 嫌だ。

 文化祭のような小規模な催しでも断固拒否する内容。

 それを全国規模で見せびらかすなど正気の沙汰ではない。

 男性のファンからそういう視線で見られるなど考えるだけで鳥肌が立つ。

(俺は男なんだぞ――!?)

 体感としては、一時間前くらいまで男子高校生だったのだ。

 アイドルなどやりたくもない。

 だから、答えは決まっていた。


「俺はアイドルなんてやらないからなッ!」


 ついに、天が自分の職業を知りました。

 次話からはALICEのメンバーを紹介していくことになります。


 それでは次回は『天条アンジェリカ』です。

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