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3章 12話 接敵

「っ……!」

 サイレンが鳴り響いたのは昼のことだった。

 《ファージ》の出現を知らせる警告音。

 いきなりの大音量には、なかなか慣れられそうにない。

「悪い莉子! 行ってくる!」

「……はいっ」

 天は莉子に手を振りつつ疾走する。

 ほかのメンバーも今頃、輸送用のヘリに駆けつけていることだろう。

「もう揃ってるのか……⁉」

 天は中庭にあるヘリへと飛び込んだ。

 そこにはすでに他のALICEが勢ぞろいしていた。

 どうやら天が最後だったらしい。

「それじゃあ出してちょうだい」

 天が乗ったことを確認すると、蓮華はパイロットに声をかけた。

 浮き上がるヘリコプター。

 それはあらゆる障害物を無視して《ファージ》への最短ルートをなぞってゆく。

「位置から考えて、現着まで5分ってところね」

 蓮華はそう言った。

「今回の《ファージ》は一体よ」

 彼女は移動の時間を利用して情報を共有してゆく。

「だけど油断しないでちょうだい。反応から見て、中級以上の《ファージ》だと思われるわ」

 箱庭には《ファージ》の戦闘力をあらかじめ把握する技術があるらしい。

 だがそれは大体の基準であり、参考程度。

 聞いていた話よりも戦力が上下することは珍しくない。

「幸い、人の少ない場所だから被害は出ていないみたいだけれど、だからこそその場で仕留めるわよ」

「はい」「おう」「分かっていますわ」「ああ」

 天たちはうなずく。

 《ファージ》の移動を許さない。

 それも戦う上で大事なことだ。

 戦場が移動すればするほど被害は拡大する。

 《ファージ》が直接襲わなくとも、崩れた建造物が一般人を巻き込む可能性がある。

 だからこそALICEは迅速に《ファージ》と接触し、その場で討伐することが理想といえる。

 多数が相手であれば難しいが、相手が一体であるのならばその場に抑え込むことも難しくはないだろう。

「それじゃあ、行くわよ」

 蓮華はヘリのドアを開いた。

 位置的にはまだ現場よりも手前だ。

 しかし、現場にそのまま着地したのでは、降りたタイミングを狙われる可能性がある。

 だからこそ少し離れた位置で地面に降りるのだ。

 そして存在を敵に知られないように近づき、一気に仕掛けるのだ。

「――――」

 最初に飛び降りたのは蓮華だ。

 そしてそれに続くようにして彩芽、美裂、アンジェリカが空中へ跳ぶ。

「……最近は慣れてきたな」

 天は風を感じながら町を見下ろす。

 こんなダイナミックな現着にも最近は慣れてきた。

 いっそバンジージャンプをしているような気分にさえなってくる。

 ――命綱はないのだが。

「よっと」

 いつまでも立っているわけにもいかない。

 天はヘリから跳び降りた。



「妙ですわね」

 最初にそう言ったのはアンジェリカだった。

 しかしその疑問は皆も感じていたことだろう。

「破壊音も、悲鳴も聞こえませんね」

 彩芽も同意する。

 《ファージ》は一般人に認識されない。

 しかし、建造物が壊れたりしたのならば当然ながら混乱が起こる。

 天たちが到着する現場は多かれ少なかれそんなものだった。

 しかし今回は気味が悪いほどに静かだ。

「レーダーの誤作動か?」

 美裂は周囲への警戒を続けつつもそう口にする。

 今でも模索中の技術だ。

 そういうエラーがあっても不思議ではない。

「どう思いますか?」

 彩芽は蓮華に問う。

 蓮華は少し思案すると――

「念のため、最悪のパターンも考えておきなさい」

「最悪のパターン……?」

 天が疑問の声を漏らす。

「相手が《上級ファージ》である可能性ですわ」

 そんな疑問に答えたのはアンジェリカ。

「いたずらに暴れない知能、そして建造物を壊さないほどに小さな体。人型の――上級の可能性がありますわ」

「そいつがマシなほうの最悪だな」

 美裂がそう補足する。

「……マシじゃないほうの最悪ってなんなんだ?」

「そりゃあ、もう壊れるだけの建物も、悲鳴を上げるだけの人間も残ってないって状況だろ」

 つまり、壊滅。

 確かにそれは最悪の状況だ。

「……そうじゃないことを祈るしかないな」



「これは……マシなほうの最悪っぽいな」

 現場に着いた。

 ――そこにいたのは少年だった。

 少年はガレキに座り、意味もなく笑みを浮かべている。

(こいつは上級だ)

 二度、《上級ファージ》と戦ったから分かる。

 あそこにいる少年は《ファージ》で、しかも上級に分類される実力を有している。

「まだ気づかれていないわね」

 少し離れた物陰から少年を――《ファージ》を観察する蓮華。

 距離にして100メートル。

 仕掛けるには、もう少し近づかなければならないだろう。

「《ファージ》の動向に気を付けつつ、囲んでいきましょう」

 彩芽の提案に蓮華はうなずく。

 数人のグループに分かれ、迂回しつつ《ファージ》を囲む。

 そのまま距離を縮め、一気に勝負を決める。

 幸い、《ファージ》がいるのは人がいない空き地だ。

 すぐに混乱が起きる心配はないし、多少の大技を使うスペースもある。

 シチュエーションとしては悪くない。

「ん?」

 そんな声を漏らしたのは美裂だった。

 彼女は物陰から《ファージ》をのぞき込んでいる。

「どうしたんだ?」

 険しい表情をしている美裂に天は声をかけた。

「ちょっと待て。何か言ってるぞ」

「?」

 天も一緒に《ファージ》の姿を観察する。

 確かに、《ファージ》の口元が動いている。

 だが、何と言っているかは分からない。

「内容は分かるかしら?」

「読唇なら任せとけ」

 美裂は蓮華の指示に従い、目を細める。

 美裂はそのまま《ファージ》の口元を凝視し、その言葉をトレースする。


「や・っ・と・来・た・ん・だ・ね」


「……やばいッ」

 美裂の顔に緊張が走る。

 やっと来たんだね。

 そう言った《ファージ》は――嗤っている。

 これが示すのは――


「アタシたちの位置が捕捉されてやがるっ」


 奇襲はすでに失敗していた。

「みんな散りなさいッ!」

 蓮華の指示が飛ぶ。

 すでに奇襲は失敗。

 だから声を抑える必要もない。

 必要なのは迅速な対応。

「「「「ッ!」」」」

 反射だった。

 天たちは考えるよりも早く地を蹴った。

 全員が別々の方向へと散開する。

 直後――轟音が鳴った。

 大爆発。

 天たちがいた地面が炸裂していた。

 あのままとどまっていたら両足が吹き飛んでいただろう。


「やっと会えたんだね」


「随分と素早いんだな」

 天は眉を寄せる。

 気が付けば、《ファージ》は数メートル手前の位置にいた。

 ALICEに囲まれるような位置で、それでも堂々と。


「さあおいでよ。僕が食べてあげる」


 少年――ジャック・リップサーヴィスは両手を広げてそう言った。


 ALICE対ジャックが始まります。


 それでは次回は『悪童』です。



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