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3章  9話 ジャック

「あ、すみません部屋間違えましたー。客間だと思ったら負け犬の控室でしたー」


「噛み殺されてぇなら素直に言ってくれていいぜ?」

 影の世界にそびえる城。

 その中の一室において、少女――グルーミリィ・キャラメリゼは望まぬ来客を迎えていた。

「ごめんねミリィちゃん。そんなに気にしてると思わなかったんだ。シャレをシャレと思えないくらい、シャレにならないくらい敗北が骨身にしみていたなんて知らなかったんだ」

「……ウザったすぎだろ」

 グルーミリィは苦々しい溜息を吐き出した。

 一方で、客人は軽快に部屋へと歩み入る。

 一言で表せば少年。

 まだ明確な男女差が現れない小学生くらいの容姿。

 サスペンダー付きの短パンを履いていることもあり、余計に子供っぽさを感じさせる。

 もっとも、嫌味スキルは大人顔負けだが。

「そうだ。今日はミリィちゃんに食べ物を持ってきてあげたんだった」

「は?」

 どういう風の吹き回しか。

 会うたびに苛立たせてくる目の前の少年が手土産など持参したことはない。

 だが、現実としてグルーミリィの嗅覚は食事の匂いを察知していた。

「じゃーん。とんかつだよ。人間相手に負けちゃったミリィちゃんが次には勝てるようにって願いを込めてあげたんだよ。あ、これを揚げたのは小汚いオッサンだから安心してね?」

「喧嘩売ってんだろクソガキ」

 グルーミリィは舌打ちを隠しもしない。

 どうせ彼が気にすることはないのだろう。

 彼は勝手気ままに喋り、相手の話など聞かないのが常なのだから。

「好きな子にいじわるばっかりしてると嫌われちゃうよ」

 そう部屋にいたもう一人が声を上げた。

 赤髪を三つ編みにした少女――レディメア・ハピネスは意地悪く笑う。

 だが少年は意に介さない。

「僕は思うんだよ。好きな子をいじめて、僕好みに調教するのって楽しいよね?」

「同意求めてくんなカス」

 少年の言葉をグルーミリィは切り捨てる。

「へぇ。好意は否定しないんだねぇ」

 隙を見つけたと察したのだろう。

 レディメアはさらに少年にそう言った。

「うん。好きだよ」

 だが少年は否定しない。

「ぉぇ」

 グルーミリィは嘔吐のジェスチャーをするも、少年は気にすることなく彼女の肩を抱いた。

「この子は弱っちいからね。僕は心配でたまらないんだよ」

 ――いちいち癇に障る。

「いっそ杭で手足を縫い付けて、食べ物をあげるだけのお人形にしてあげたいなぁ」

 耳元で少年がそうささやく。

 幼い容姿に似合わない、怖気がするような粘ついた声音で。

「たまになら、僕のを食べさせてあげてもいいよ」

「あ? 脳味噌をか?」

「もぉっと美味しいものさ。たくさん悦ばせてあげた後にね」

「オレを吐かせるタイムアタックでもしてんのかお前」

「猛アタック中だね」

 けらけらと少年は笑う。

「それじゃあ、僕も物色に行こうかな?」

 少年は部屋の扉を開けた。

「……てめぇもあそこを狩場にしようってか?」

「まあね」

 少年は笑みを崩さない。

 立て続けに《上級ファージ》が討たれかけた地。

 それが少年の気を引いたのだろう。

「さっさと死んできやがれ」

 背もたれに体重を預けながらグルーミリィはそう投げかけた。

 だが少年は余裕の表情のまま。

「冗談が好きだねぇ」


「僕に勝てる奴なんかいるわけないじゃないか」


 自信満々に。傲岸不遜に。

 彼はそう言い切る。

「僕が人間に教えてあげるよ」



「上級もピンキリだってね」



「……嫌味かこの野郎」

 グルーミリィはすでに消えた背中にそう呟いた。

 しかし彼が傲慢であるのもある意味で仕方がないのかもしれない。

 なぜなら彼――ジャック・リップサーヴィスは上級の中でも限りなく最強に近い存在なのだから。


 3章は、敵幹部に一人はいるイキりショタ系ボスです。


 それでは次回は『すれ違い』です。



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