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3章  6話 箱庭の夜

「……ふぅ」

 天はため息とともに天井を見上げた。

「なんていうか、どっと疲れたな……」

 私室ということもあり、一日の疲労が噴き出してきた。

「そんな調子では明後日までもたないのではなくて?」

 そう言ったのはアンジェリカだ。

 現在、天の部屋にはアンジェリカと美裂の二人がいる。

 比較的新人の部類に入る三人。

 そのせいか、彼女たちは最近共に行動することが多い。

「この調子であと二日となると肩が凝るな……」

「乳のせいでか?」

「ちげーしっ……!」

 美裂からのヤジに抗議しながら天は自分の肩を叩く。

 あのあと、生天目厳樹と財前貴麿がレッスンを見に来た。

 見られながらのレッスンというのは居心地が悪いものだ。

 貴麿の視線が胸や尻に向かっているのを感じてしまうのはもちろんのこと。

 厳樹の視線から発せられるプレッシャーは普段からは比べ物にならないほどに精神を摩耗させた。

 あれはアイドルに向けて良い種類の目ではないと思う。

 ――ともかく、厳樹たちは3日間事務所に滞在するという。

 つまりあと2日、彼らと顔を合わせるわけだ。

「……気が重いな」

「そういう時はこれですわね」

アンジェリカが懐からケータイを取り出す。

「……なんだ?」

 ケータイを操作する彼女の隣で、天は画面をのぞき込む。

 一方で美裂は呆れたように欠伸をしていた。

「どうせいつもの動画だろ」

「……なんの?」

「筋トレ」

「………………」

 天の視線が胡散臭いものを見る目へと変わる。

 そのことに気付いたのだろう。

 アンジェリカが唾を飛ばしそうな勢いで抗議する。

「き、気晴らしには筋トレですわよねっ……!?」

「諦めとけ。こいつはそういう奴だ」

 ――どうやら美裂には既知の事実だったらしい。

(そういえば――)

 アンジェリカの体は痩せているというより締まっている。

 見栄えが悪くならないように計算され、美しく仕上げられている。

 彼女の趣味が筋トレだというのならば、彼女が体作りにこだわっているのも頷ける。

「この方の動画は特に気に入っていますの」

 アンジェリカが動画を開く。

 するとその画面には

 

 ――――リーゼントのマッチョがいた。


「こいつかよッ!」

「「?」」

 思わず天は叫んでいた。

 動画の男に覚えがあったからだ。

 確か――グレイトフル古舘。

 以前、天が外出した際に出会った不審者がそこにいた。

「ご存じでしたの?」

「てか……会ったことあるわ」

 天は渋面を隠そうともしない。

「そうですの!?」

 一方でアンジェリカの目は輝いていた。

 よくわからないが、筋トレ趣味の人間にとっては憧れの人物なのかもしれない。

 ……よくわからないが。

「天さん!」

「な、なんだよ……」

 アンジェリカが天の手を握る。

 痛い。

 握力もまた、彼女のトレーニングメニューに組み込まれているようだ。

 そんな天の気持ちに気付くこともなく――


「――――やっぱり、街中でポージングしてらっしゃいましたの?」


「残念ながらしてましたねぇ! ってか、それ周知の事実かよ!」

 知っているなら誰か通報してやれ。

 そう言いたかったが飲み込んだ。



「正直、あの筋肉の知名度舐めてたな……」

 天の感想はそこに集約される。

 最初は、ただアンジェリカがマニアックな趣味を持っているものと思っていた。

 しかしどうやら、彼の筋トレ動画は本当に有名だったらしい。

(世も末だな)

 《ファージ》に滅ぼされるまでもなく人間の未来は暗い。

「しかもフォロワー数が意外と競ってやがる……」

 単純比較はできない。

 しかし、彼のフォロワーの数はALICEのそれに匹敵している。

 天たちが勝ってはいるのだが、同じ土俵に立てるほどに近い。

 少なからずショックだった。

「そーいう反応ってことは、ウチの人気にある程度のプライドがあったってことだよな」

 美裂が悪いことを思いついたような表情で笑う。

「これは自分の可愛さに自覚ある系アイドルかぁ?」

「はぁッ!? んなわけ――」

 すぐさま美裂の言葉を否定しようと天は彼女のほうを向き――

 美裂の背後。鏡に映った自分の顔を見た。

(そんな――わけ……)

 自分の顔を直視する。

 炎のような赤髪。

 少しツリ上がった目は気の強さを感じさせる。

 一方で全体的に童顔でもあり――

 客観的に見てこれは――

「…………こいつガチで黙りやがった」

「ち、違うしっ!」

 妙な間を突かれ、天は動揺の声を上げた。


 グレイトフル古舘は動画配信をきっかけに有名になった、この世界でいうところのy〇utuberみたいなものでしょうか。


 それでは次回は『箱庭の外で二人with彩芽』です。



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