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2章 11話 レディメア

 きっとここが終着点なのだろう。

 広大な平野が続くだけの世界。

 そこにはもう階下を目指すための階段はない。

「――――やっと、来たんだね」

 ただ、そこには少女がいた。

 彼女――レディメア・ハピネスはゆっくりと立ち上がる。

 どうやらここを決戦の地とするつもりのようだ。

「待ちくたびれたよね?」

 レディメアが虚空に話しかける。

 すると、そこから大量の化物が現れた。

「――多いですね」

 彩芽が目を細める。

 顕現したのは大量の怪物。

 ヌイグルミのようなポップな生物から、上層で見たドラゴンまで。

 大小さまざまな怪物が現れた――否、現れ続けている。

「無限湧きか?」

 どんどん増えてゆく怪物を前に、美裂は肩をすくめる。

 夢はレディメアのホームグラウンド。

 創造する化物の数に限界があるかも不明だ。

「どうかしらね。でも、充分あり得るわね」

 蓮華は腕を組んだまま戦場を俯瞰する。

「となれば、ジリ貧になる前に彼女を倒すしかありませんわね」

 敵は増え続ける。

 それならば、狙うべきは元凶。

 そうアンジェリカが主張する。

「どうするんだ瑠璃宮。別れて戦うのか?」

 天は蓮華に問いかける。

 あくまでALICEのリーダーは蓮華だ。

 それを無視して勝手に動いていてはチームワークなど成り立たない。

「――全員で寄生型の《ファージ》を討伐してちょうだい」

 蓮華はそう言った。

 チラリと紫電が彼女の周囲を走る。


「雑魚は。アタシ一人で殲滅するから」


 雷撃が夢の世界を覆い尽くす。

 一撃。たった一撃で数十もの化物が焦げた。

 レディメアが創った怪物は《ファージ》の定義に当てはめるのなら下級から中級の戦闘力を持っていた。

 今の雷撃により下級は全滅。

 生き延びた中級もかなりのダメージを負っている。

 いくら数を揃えても蓮華一人で対応できる。

 そう思わせる一撃だった。

「じゃ……俺たちは俺たちの仕事をするか」

 天は大剣を構え、その切っ先をレディメアに向ける。

 ALICEはそれぞれに身体能力、固有能力が異なる。

 だからこそ、適した戦場も違う。

 蓮華なら広範囲殲滅攻撃で大量の敵を一掃できる。

 対して、天は多人数戦には不向きだ。

 レディメアに戦力を集中させたい思惑を加味し、蓮華は一人で戦場を整える選択をした。 

 そして、残った全員でレディメアを討つ。

 実質の4対1。

 そんな中でもレディメアは余裕の態度を崩さない。

 彼女には自信があるのだろう。

 夢の世界において、自分が負けることはないと。



「はぁぁぁッ!」

 アンジェリカの拳がレディメアの頬を掠める。

 サイドステップで躱すレディメアを尻目に、アンジェリカはその場で両手を地面に着く。

 勢い余ってバランスを崩した? 違う。

「ッ……!」

 逆立ちのような体勢から放たれた強烈な蹴りがレディメアの顎に当たりかけた。

 天条アンジェリカは生粋のインファイターだ。

 彼女が用いる武器が指ぬきグローブであることからも分かるように、元より接近戦に適性のあるALICEなのだ。

「これならどう?」

 レディメアの上方で何かが光る。

 それは流星のようにアンジェリカを狙うが――

「遅いですわね」

 すでにアンジェリカはレディメアに肉薄している。

 今彼女を狙えば、レディメア自身も余波に巻き込まれてしまうほどに。

 それを察したからか、流星はアンジェリカを狙うことなく彼女の後方に落ちた。

 二人がいるのは武器さえ邪魔になる間合い。

 そこでアンジェリカはコンパクトな動作で拳を撃ち出す。

「……!」

 レディメアは腕を盾にしてガードする。

 彼女の体が押され、地面を滑る。

「《石色の鮫(ストーン・シャーク)》」

 だがその勢いも石壁によって止められる。

「ぅ……!」

 背中から壁に叩きつけられレディメアの動きが一瞬止まる。

「はぁッ!」

 そこに繰り出されたのはアンジェリカの跳び蹴り。

 弾丸のような追撃をレディメアは腕を交差させて防ぐ。

「っ………………」

 わずかにレディメアの表情が歪んだ。

 二度。

 たった二度の防御で細腕が腫れ上がっている。

 それほどにアンジェリカの膂力が優れているのだ。

「さっきまでの余裕はどうしましたの?」

 拮抗の中でアンジェリカはそう問いかけた。

「そういえば気になってたんだけど――」


「なんで濡れてもドリルが崩れないの?」


「濡れている理由のほうは気になりませんの……!?」

 アンジェリカが声を上げると、レディメアは笑う。

「理由なら知ってるよ」

 ――感電死したいんだよね?

「!」

 レディメアの首筋で火花が散る。

 ――その姿は、蓮華が雷撃を放つ際の予備動作に酷似している。

 アンジェリカは急いで距離を取ろうとする。

 しかしレディメアは彼女の手首を掴み、離さない。

「それじゃあ、ビクビクゥって死んじゃってね?」

 レディメアの口元が三日月を描く。

 ついに雷撃がアンジェリカへと伝播し――


「《象牙色の悪魔(アイボリー・ラプラス)》」


 ――声が聞こえた。

 その場所は――石壁の向こう側。


「《悪魔の四肢》」


 壁の向こう側で天宮天が大剣を突き出した。

 それは強化された身体能力によって容易く石壁を貫く。

「がッ……!?」

 そして大剣は、背後からレディメアの心臓を撃ち抜いた。


 レディメアとの戦いは続きます。


 それでは次回は『夢の怪物』です。



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