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2章  6話 夢へと至る招待状

「……さっきぶり、か」

 天は目の前の少女が口にした言葉を反芻する。

 黒を纏い、赤髪の三つ編みを揺らす少女。

 年齢としては15~17歳程度か。

「さっきの口ぶりからして、あの子に寄生していたのはアンタ……ってことになるらしいけど。わざわざ追いかけてきたのか?」

 天はそう問いかける。

 彼女たちの予想では、少女が昏睡している理由は寄生型の《ファージ》。

 あの黒服の少女が件の《ファージ》であるのなら、わざわざ天の後を追ったことになる。

 ――寄生している少女を離れてまで。

「あの子は……どうしたんだ?」

 寄生型という仮定が正解だったとする。

 であれば、寄生した者が宿主から離れる時とは?

「まさか――」

 殺したのか。

 そう天が口にしかけた時――


「あの子は無事に目を覚まして、お母さんと久しぶりの再会を果たしたみたいだよ」


 少女――レディメアの姿が霞んだ。

 黒い霧となって消えたかと思えば、すでに彼女は天に肉薄していた。

「っひ……!?」

 吐息に首筋をくすぐられ、天は肩を跳ねさせる。

 体から一瞬力が抜け、ケータイが手から滑り落ちる。

 それをレディメアは空中で掴み、通話を終わらせた。

 ――彼女が尾行をしていたのなら、この電話が天の仲間と通じていることを理解しているはずだ。

 だからこそ、彼女はその伝達手段を断った。

「はい」

 レディメアは笑みを浮かべると、ケータイを持った手を天に向かって伸ばした。

「…………」

 天は眉を寄せると、ひったくるようにケータイを奪い返す。

 それを彼女はポーチに戻すと――

「あの子は殺さなかったのか?」

「殺してないよ。その間に、君たちを見失ったら困るからね」

 レディメアは笑いながら後ずさって天たちと距離を取る。

「君たちは確か、ミリィを倒した子たちだったよね?」

(ミリィ……? グルーミリィのことか……?)

 グルーミリィ・キャラメリゼ。

 約一カ月前、天が対峙した《上級ファージ》の名だ。

 それがレディメアの口から出たということは。

「…………お知り合いでしたの?」

 アンジェリカが問うと、レディメアはあっさり肯定する。

「アタシたち上級は数が少ないからね。だから、それぞれに面識くらいはあるんだよ」

「なら……弔い合戦ですの?」

「まさか」

 アンジェリカが口にした当然とも思える疑問にレディメアが返したのは笑顔。

「アタシたち上級は基本的に独立独歩だから。ただの知り合いのために仇討ちなんてしないよ」


「ただ……ミリィのおかげで、警戒すべき敵の存在は見えた」


 それが、天たちだったのだろう。

 だから彼女は天たちの後を追いかけてきた。

「つまり……狩場にALICEがいたら不都合ってわけか」

 天は手を伸ばす。

 アンジェリカも拳を握っていた。

 二人の間で緊張感が高まる。

 しかし、一方でレディメアはへらりと笑う。

 戦意など欠片も見えない。

「それでも良いのかなぁ?」

 笑顔。

 なのに、レディメアが浮かべている表情はどこか不穏だった。

「どういう意味ですの?」

「そのままの意味だよ」

 レディメアは笑う。嗤う。

「今からアタシ。あの子を殺しに行こうかと思っているんだよね」

「……させるかよ」

「できるよ。君たち二人から逃げるくらい、難しいことじゃない。逃げきれたら身を潜めて、隙を見せたらあの子を殺す。寄生なんてせずに、この手で。真っ先にね」

(……確かに、逃げに徹されたら二人だとキツイな)

 天とアンジェリカでは、全霊で逃げる彼女を捕えることは難しい。

 そして逃がせば、あの少女を殺すと彼女は言った。

 やっと目覚めて、再会した家族を壊すと言った。

「ここで相談があるんだよね」


「どっちか、アタシに寄生されてみない?」


「「!」」

 突然の言葉に、天たちは体を一瞬震わせた。

 寄生。

 その意味など、さっき見たばかりなのだから。

「それで、『ぜひお願いします』なんて言うとでも思ってるのか?」

「思ってるよ」

 妙に自信ありげなレディメアの態度。

 彼女なりに勝算があるのだろう。

「君たちのどちらかにアタシが寄生したら、君たちはそのまま仲間の所に帰ったらいいんだよ。そうしたら、アタシが夢の世界に君たち全員を招いてあげる」

(夢の世界。眠ったまま――)

 天の中で符合する。

 レディメアの能力の正体が。

「相手の夢に寄生するっていうのがお前の能力なのか」

「…………そーだね」

 レディメアは小悪魔のような笑みを見せた。

 夢に寄生する。だから、宿主は夢に縛られる。

 夢に縛られ、目覚めなくなる。

「つまり、夢の中はお前のホームグラウンドってことだろ? 招いてやるって言われて、ノコノコ行くかよ」

 夢の中というのはレディメアの実力すべてを発揮できる舞台。

 それを理解した上で、誘いに乗るわけがない。

「なら良いよ? アタシはこの場を全力で逃げる。そして、さっきの子を殺す。それから新しい宿主を見つける。君たちに足取りなんて掴ませない」

「………………」

 天は唇を噛む。

 悔しいが、レディメアの脅しを一蹴することができなかったから。

(俺たちがアイツを見つけられたのは完全な偶然だ。この機会を逃したら……もう見つけられない)

 再び出会う頃には、どれほど被害が拡大しているか分からない。

 レディメアを倒すために不利と分かっている戦場に飛び込むか。

 被害から目を逸らし、確実に勝てるタイミングを狙い続けるか。

 そんな選択を迫られているのだ。

「あーあー。宿主を殺さないようにしてたのに見つかっちゃたからなー? どうせ無駄なら、今度からはあっさり殺しちゃおうかなー? 死なないように少しずつ生気を奪うのって手間なんだよねー」

 興味なさげなレディメアの言葉。

 だがこれは追撃だ。

 提案に乗らねば、一般人に被害が及ぶという忠告だ。

(リスクは高い)

 そもそもレディメアが言う通りにするとは限らない。

 天たちが身を捧げたのを良いことに、すぐさま食い殺そうとするかもしれない。

 そうすれば、敵戦力を確実に削れるのだから。

 レディメアの話に乗れば死のリスクがある。

 だが、リスクを背負うことを恐れたのなら、一般人への被害が広がる。

 天は逡巡する。

(いや。大丈夫だ)

 天は横目でアンジェリカの顔を見た。

 そして、決める。

 仲間を信じると。

「なら俺が――」


「わたくしに寄生なさい」


「な――!?」

 天が言うよりも早く、アンジェリカはそう宣言した。


今回は敵のホームグラウンドで戦う流れとなります。


それでは次回は「伝染する眠り姫」です。

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