表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/234

1章 エピローグ3 記憶の欠片・瑠璃宮蓮華

 今回は一人称視点です。

「……どうでしたか?」

 そう声をかけてきたのはルームメイトである彩芽だった。

「何のことよ?」

 そうアタシ――瑠璃宮蓮華は問い返す。

 すでに時計が指しているのは次の日だ。

 部屋は消灯し、アタシたちはもうベッドに入っている。

 こんなタイミングで彩芽が話しかけてくるなんて珍しかった。

「天ちゃんのことですよ」

「…………」

 アタシは思わず黙ってしまう。

 天宮天。

 新しいALICEのメンバー。

 新人のくせに生意気で、妙に放っておけない少女だった。

「何が聞きたいわけ?」

 そのせいか、少し棘のある言い方をしてしまった。

 とはいえ彩芽のことだ。

 大して気にすることはないだろう。

 それくらいに、アタシたちの付き合いは長い。

「色々、ですよ」

 実際、アタシが思った通り、彩芽の声音に変化はなかった。

「アタシ、疲れているのよ。聞くのは一つにしてちょうだい」

 と、アタシはそう言って話を早く切り上げようとする。

 天宮天について考えると、少し調子が狂う。

 それを自覚しているから、そんな気持ちを見抜いてきそうな彼女の問いに答えたくなかった。

「なら……そうですね」


「なんで、一人で天さんが中級と戦うことを許可したんですか?」


「………………」

 やっぱり、というべきだろう。

 彼女ならきっと核心を突いてくると思った。

 一つに質問を限定したのなら、一番聞かれたくないであろう問いを投げてくると。

 蓮華はため息を吐く。

「これまでの戦闘データから、勝てると判断したからよ」

「そうですか? あの中級は限りなく上級に近い中級でした。わたしの見立てでは、勝率は……6割といったところですか?」


「少なくともリーダー――蓮華ちゃんらしくない判断です」


 ――否定できない。

 リーダーであるなら、絶対に避けるべきリスクだった。

 彩芽も長く戦ってきたALICEだ。

 6割という勝率は、蓮華が弾き出したものと相違ない。

 つまり4割で天は――死んでいた。

「それに蓮華ちゃん。わざと上級を殺しませんでしたよね?」

「質問は一つだけって言ったわよね」

「質問じゃありませんよ。最初の質問の補足です」


「天ちゃんが莉子ちゃんを助けるまで、決着を待ったからですよね?」

 

「……あれはただのミスよ」

 ただそう応えた。

 そう。あれはミスだ。

 たとえ天宮天の戦いが終わるまで待っていたとしても、そのせいで敵を逃がしたのならミスでしかない。

 だからそう言うしかなかった。

 言い訳をするつもりはない。

「普段の蓮華ちゃんなら――自分で莉子ちゃんを助けていましたよね?」

 なんとなく分かる。

 今の彩芽は笑っている。

「だって蓮華ちゃんが莉子ちゃんを助けて、そのまま上級を倒したほうが早いから」

 彩芽は断言した。

「だけどあえて、天ちゃんの気持ちを汲んで彼女に任せた。そういう効率度外視の行動は珍しいですよね。蓮華ちゃん?」

 アタシは合理主義だ。

 少なくとも、そうあろうとしている。

 リーダーだから。

 リーダーはそうあらねばならないと考えているから。

 ゆえに今日の戦いにおけるアタシの行動は不自然だったのだろう。

 普段の思想から外れた行動が多すぎる。

「だから、蓮華ちゃんとしては天ちゃんに思うところがあるのかと」

「…………」

 少しだけ考える。

 原因――そんなことは分からない。

 ただ気がついたら口が動いていただけだ。

 しかし、そう答えるのはプライドが許さなかった。

 そんな曖昧な感情に従って方針を決めただなんて。

 リーダーとしてのプライドが許さなかった。

「アタシなりの考えがあってのことよ」

 蓮華は動揺を悟らせぬよう言葉を選ぶ。

「もしもアタシの考えが読めなかったのなら――」


「きっと彩芽の見立てが甘かっただけよ」

 

 そう言って、アタシは質問から逃げた。



 ――思い出す。

 ああ。

 あの日の夢だ。

 アタシには誰にも言っていない秘密がある。

 ALICEとして目覚めてから、一度も口にしていない秘密。

 それは――()()()()()()()()()()()()()()()

 その事実はALICEにおいても異質。

 だから誰にも教えていない。


 何度も夢に見る過去。

 これは、アタシの前世の記憶。


 頭上で鳴り響く轟音。


(やっぱり)

 見慣れた光景にアタシは辟易する。

 今、アタシの頭上からは大量の鉄骨が降ってきている。

 お母さんがアタシを抱きしめる。

 それで助かるわけがない。

 それでも、アタシを助けようと身を捧げた。

(そして――あの人が来る)

 視界がブレた。

 少年にお母さんが引っ張られているのだ。

 アタシもお母さんに抱かれたままそこを移動する。

 再びの轟音。

 今回は、鉄骨が地面に落ちた音だ。

 ――さっきまでアタシがいた場所に。

(本来なら、アタシはあそこで死んでいた)

 だが、生き延びた。

 アタシの瞳が少年の顔を捕える。

 だが、少年の顔は逆光のせいで見えなかった。

(この人の名前を、アタシはまだ知らない)

 そして、一生知ることもないだろう。

 あの人とアタシは、もう別世界を生きているから。

(ッ――!)

 少年の目から血液がこぼれる。

 そして少年は地面に倒れた。

 その時にはすでに、彼は息絶えていた。

 どうして死んだのかは分からない。

 だけど、誰のせいで死んだのかだけは明らかだった。

(この人は……アタシが殺した)

 ここにアタシがいたから、この人は死んだ。

 何度も繰り返した夢。

 その過程でアタシは気付いていた。

 最初に彼が立っていた場所に――鉄骨は落ちない。

 あのまま立っているだけで彼は生還していたのだ。

 なのに彼はアタシたちを助けるために動き、死んだ。

(だからこれは、アタシの罪)

 それこそが原点。

 瑠璃宮蓮華のスタートライン。

(だからアタシは多くの人を救わないといけないの)


(あの人を殺した。あの人の人生の価値を変えられるのはアタシだけ)


 アタシが何も為せぬまま終われば、彼の死は無駄死にとなる。

 だけどもしも、アタシが世界を救えたのなら?

 彼の死は、少しでも意味があるものとなるだろう。


(世界を救っても、アタシの罪は消えない)


(だけど、アタシなんかを助けてくれたあの人の人生を無価値にしないためにも――)


(アタシは……リーダーであり続けないといけないのよ)


 誰にも、譲れないのだ。

 長く付き合ってきた親友(彩芽)にも。

 アタシの心を乱す新人()にも。

 リーダーである事を譲るわけにはいかないのだ。


 瑠璃宮蓮華の秘密。それは、前世の天が助けた子供であったこと。

 この設定はまだ先まで書かない予定だったのですが、知っていた状態でストーリーを進めたほうが面白いかと思いましたのでここで書かせていただきました。

 天がこの事実に気付くのは後の話となります。


 それでは次回は『撮影会・7月号』です。

 

 次回から2章『黄金の道標』がスタートします。

 天条アンジェリカをメインヒロインとした章。彼女の過去についても書かれる予定です。


 あと、調子がいいので2章も1日2話投稿で行こうかと思っています。


・株式会社ALICEよりお知らせ

 箱庭では、ファンの皆様の声をお待ちしております。

 皆様の声(ブクマ、感想、評価)は推しアイドルに届いたり届かなかったり、スタッフに美味しくいただかれたり、箱庭の運営資金となります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ