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越章 終話 ALICE ALIVE END

「……酔ったのか?」

 天は蓮華に尋ねた。

 帰りのバスを降りたのが数分前のこと。

 蓮華の様子がおかしいことに気付いたのだ。

 妙にふらついてたり、歩くのが遅かったり。

 彼女の仕草には違和感があった。

「別に――」

「そうか? 体調悪そうに見えるけど」

 だが蓮華は認めない。

 抱え込む気質なだけに、あまり無理をしなければいいのだが。

 そんなことを思っていると――

「…………腰が痛かったのよ」

 ふと蓮華がそう漏らした。

 なぜか少し恥ずかしそうに。

「まあバス移動が長かったからな」

 天は納得して頷く。

 かれこれ数時間はシートに座っていたのだ。

 確かに腰あたりが痛くなるのは仕方がないのかもしれない。

「それは…………そうね」

「?」

 なぜか蓮華は少し不本意そうだったが。

 ともかく二人は歩き始めた。

「休日もこれで終わりか」

 天はそう口にした。

「そうね。サマーライブもあるわけだし、これから忙しくなるわね」

 現在は8月。

 もうライブに向けて大詰めの時期。

 ここからは休む暇も惜しんでレッスンを重ねることになるだろう。

「確か今度は――」

「ええ。ALICEの初ツアーよ」

 初ツアー。

 そう。

 今度のライブは複数地域で数日にわたって催される。

 ALICEはトップアイドルといって差し支えない。

 それこそ国民のほとんどが彼女たちを知っている。

 それでもALICEはツアーを行ったことがない。

 ファンからもそれについての疑問や不満は多かったという。

 全国規模の人気を誇っていながら、特定の地域でしかライブを行わないアイドル。

 その理由については、天たちのあずかり知らないところでも憶測が飛んでいた。

 もっとも、その理由はシンプルだ。

 救済者であるALICEはこの町を離れられない。

 そんな単純明快な理由だ。

 そして今、その縛りは解かれた。

「今度からは移動も増えるから大変になるでしょうね」

 蓮華は息を吐く。

 彼女は電車に乗れない。

 ツアーとなれば交通機関を利用することも増えるため気が重いのかもしれない。

 そのあたりは箱庭側でうまく調整するのだろうけれど。

「今度は俺たちがファンに会いに行くってわけか」

 特定の地域でしかライブを行わないため、なかなか来ることができない。

 そんなファンの声もあった。

 もしも天たちが各地を回ってライブをできたのなら。

 そういう人たちにも楽しい時間を届けられるようになるのだろう。

「アイドル活動を嫌がっていた人間の言葉とは思えないわね」

 蓮華は意地悪く笑う。

 当初の天はアイドル活動に消極的であった。

 だがALICEとして生きていくにつれて、そんな考えも変わっていった。

 今ではアイドルという生き方を楽しめている。

 だからこそ以前のことを突かれると気恥ずかしい。

「ったく……。人の黒歴史を掘り返すなよ。……ん? それとも、やっぱり元男としてはおかしいのか……?」

 アイドルとしての生き方には満足している。

 だが、そこでふと疑問が浮かぶ。

「れ、蓮華……。別に可愛い衣装を着て喜んでいるわけじゃないし、おかしくはないよな? これはあくまで仕事に対するやりがいとかそういうのだよな?」

 アイドルとして可愛い衣装を着ることもあるし、相手に好かれるような行動を心掛ける。

 ファンが喜んでくれると嬉しい。

 これはあくまでアイドルとしての自覚や自負。

 気性が少女寄りになったわけではないと信じたいが――

「どうかしらね?」

 蓮華は意味ありげに笑う。

 その姿は、天の不安を面白がっているように見えた。

「でも――」

 不意に蓮華の表情が真剣なものへと変わった。

 彼女は天を見つめている。

「もし天が、心まで女の子になってもアタシの心は変わらないから」

「――――」

 唇が――触れた。

 ほんの軽いキス。

「完全に女の子同士になっちゃうのも悪くないかもしれないわよ?」

「……しばらくは男で貫くよ」

「そう」

 蓮華は離れると天に背を向ける。

 青いポニーテールが揺れた。

「それじゃあ――帰りましょう」

 蓮華は振り返る。

 彼女が浮かべているのは掛け値なしの笑顔。

「アタシたちの、新しい居場所に」

 天たちは帰ってゆく。

 明日も明後日も、一年後も。

 変わらずこの世界は平和だと信じて。


 実は天の性格って、生前から大分変わっているんですよね(最初期を見ていただければ分かるかと)。

 はたしてそれは肉体の変化によるものなのか、周囲の環境により精神が変化したのか。それは謎のまま。

 ただ生前のニヒルでドライな天より、今の感情的な彼女のほうが幸せそうに思えます。


・株式会社ALICEよりお知らせ

 箱庭では、ファンの皆様の声をお待ちしております。

 皆様の声(ブクマ、感想、評価)は推しアイドルに届いたり届かなかったり、スタッフに美味しくいただかれたり、箱庭の運営資金となります。


※ツイッターはじめました。

 

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