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越章 5話 ALICE ALIVE2

 天たちは何の問題もなく生前に住んでいた町にたどり着いていた。

 並ぶ店や細かい道は生前の記憶と違っている。

 だが国道などの大きな道は似通っている部分もあったため、生前の住居があった場所を訪れるのはそう難しいことではなかった。

 とりあえず最初は天の住んでいた場所へ。

 そう決めていたのだが――


「なんというか――想定外ね」


 蓮華はマンションを見上げてそう言った。

 生前、天はとあるマンションに住んでいた。

 デザインこそ違うが、同じ場所にマンションが建っていることには奇妙な縁を感じてしまう。

 とはいえ問題はそこではなくて――

「……ああ」

 天は蓮華の言葉に同意する。

 なぜなら――


「まさか――同じマンションに住んでいただなんて」


 奇遇にも天と蓮華の住所が一致していたわけだ。

 住んでいた階は違う。

 天は最上階近くに住んでおり、蓮華がいたのは1階。

「気付かないもんだな」

 天が蓮華と会ったとき、彼女は小学生だった。

 それくらいの年の差があれば、同じマンションに住んでいても交流がなかったのは仕方がなかったかもしれない。

 住んでいた階層も大きく違うためエレベーターで会うことがなかったというのも大きい。

「皮肉なものね」

 蓮華は息を吐く。

 彼女は自嘲の笑みを浮かべマンションを眺めていた。

「あの事故があってから、アタシは逃げるようにして引っ越したわ」

 それはきっと仕方のないことだろう。

 自分に罪はなくとも、背負わされることになった罰。

 それに例の事故が起きた場所はここからも近い。

 周囲の住人からの目が気になるのは当然だ。

 結果として生活圏を変えるのもおかしなことではない。

「そのせいで、貴方があんなに近くにいたことも分からなかった。貴方の名前さえ知らないままだった」

 ただ結果として、二人の間に会った奇妙な接点を知らずに今まで過ごしてきたというだけ。

「逃げなければ……変わっていたのかしら」

 蓮華はそう呟いた。

 変わるか――良し悪しを考慮しないのなら変わるのだろう。

 だがそれが彼女のためになる変化だったとは限らない。

 天の家族に会うことで、蓮華の中にあった罪悪感にある程度の区切りがついたかもしれない。

 あるいは、より罪の意識が深くなるか。

 死んだ天も同じマンションに住んでいたことで噂の広がりが速くなり、結局はここに住みづらい状況に追いやられていたかもしれない。

 それはもう、分からないことだ。

「なあ蓮華。もし俺たちが二人とも生きていてさ。あの世界で生活していたらどうなったと思う?」

 天が口にしたのはそんなIFの話。

 この世界では結ばれることとなった二人。

 もしも生前の世界で、大きなキッカケもなく過ごしていたとして。

 それでも二人は出会い、同じような結末に至ったのだろうか。

「案外、何かのきっかけで知り合ってさ。あっちの世界でも一緒になれたのかもな」

 ロマンチックな想像かもしれないが、そうであってほしいと思う。

 蓮華を愛おしく思う感情には変わりも疑いもない。

 だが結ばれることが必然で運命であったのなら。

 そう思いたくなる。

 偶然などなくても結ばれることができる。

それほどに強いつながりだったのだと誇りたくなる。

「そうね。そんな未来もあったのかもしれないわね」

 蓮華は微笑んだ。

「まあ絶対の保証があるわけでもないし、俺は現状に満足してるけどな」

(本音を言えば、男として会いたかったけどな)

 とはいえ、ここでそんなワガママを言っても仕方がない。

 ここに天宮天としていなければ、ここにいる瑠璃宮蓮華を守ることはできなかったのだから。

 もしもちょっとしたボタンの掛け違いで蓮華と出会えていなかったら。

 そう思うと恐ろしい。

 自分の死でさえも、蓮華と出会うための布石であったのなら許せてしまう。

 それくらいには、天にとって蓮華の存在は大きくなっていた。

「なんだか、実際に見てみると――大して語ることもないわね」

「だな」

 予想はできていたことだ。

 あの世界とは全く違う建物で、全く違う人が住んでいる。

 語るべきところなど限られている。

 かつて住んでいた場所を訪れた。

 だが何も感じなかった。

 それでいい。

 そうであってよかった。

「やっぱり、この世界はあの世界じゃない。それだけのことだったわ」

 当然のことを確認しただけ。

 それでもきっと、それは天たちにとって大きな意味を持つ。

「それじゃあ次行くか?」

「ええ」

 とはいえせっかくの旅行だ。

 ここで時間を浪費する必要もない。

 ここからは思い切り遊ぶだけだ。

「知ってはいたけど、行くのは初めてなんだよな」

「奇遇ね。アタシもよ」

 名前も景色も違う町。

 だが共通点もある。

 彼女たちが住んでいた町には――()()()()()

 それほど広いわけでもない海水浴場。

 生前は興味もなかったため気にしていなかった。

 だが今は恋人がいて。暦は8月。

 海を訪れるには最高の季節だった。

 作中では特に問題も起きませんでした。

 これは『トゥルールート』をクリアしているからです。

 蓮華の信愛度がマックスじゃなかったらもう少し葛藤のあるイベントになった可能性あり。


 それでは次回は『ALICE ALIVE3』です。

 エンディング後の水着回となります。



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