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転生したら赤髪ツインテールでした。しかもトップアイドル。  作者: 白石有希
終章 デッド・オア・ラストライブ
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終章 エピローグ2 日の差す世界

「――――――――――」

 3周年記念ライブの後。

 美裂はとある人物たちと会っていた。

 白髪の女性。

 そして、対照的な黒髪を持つ少女。

 髪色は違うが、二人の顔立ちは似ている。

 それも当然のこと。

 二人は親子なのだから。

「また会ったな」

「っ……!」

 美裂の声に、少女――荒須綾は肩を跳ねさせた。

 引っ込み思案な性格は治っていないようで、視線は美裂へと向けているものの体は母親の後ろに退避していた。

「案外、会っちまうもんだな」

 美裂は視線を上げ、女性――荒須紬と対峙する。

 大切な者を奪い、奪われた関係。

 命を奪われ、命を奪った関係。

 そして、もう会うことはないだろうと思っていた関係。

 だが二人は、確かにここで向き合っていた。

「勘違いしないでちょうだい。私は、自分の都合を子供に押し付けるような母親になりたくなかっただけだから」

 紬は鼻を鳴らす。

 分かってはいたことだが、あくまで娘の付き添いだったらしい。

「へいへい」

 美裂は特に気にすることもなく肩をすくめた。

 そして懐を探ると、色紙を取り出す。

「そういや、この前書いてなかったし、サインいるか?」

「いらないわよ」

 即答だった。

 しかしそれを無視して、美裂は流れるようにサインを書いてゆく。

「そう言うなって、こう見えてもアタシのサインってネットで高く売れるんだぞ?」

「それ……本人が推奨することじゃないと思うわ」

 一方的に差し出したサイン。

 それを見ながら紬は嘆息した。

「ほら」

「…………」

「ま、最悪捨ててくれて構わないからさ」

「別に捨てないわよ。床下にでも飾っておくわ」

「それ実質捨ててねぇか?」

「……嘘よ」

 紬は顔を逸らしたままサインを受け取る。

 適当にバッグへと押し込まれるかと思ったが、思いのほか彼女は丁寧にサインを持っていた。

「そういえば――」

「?」

 ふと紬は思い出したようにバッグへと手を入れる。

 そして――

「この前、古本屋で見つけたから」

 一冊の本を差し出した。

 ブックカバーのせいでタイトルは分からない。

 だが、何の本なのかは察することができた。

 久しぶりの再会。

 運命的な、望まぬ再会。

 そのキッカケになったあの本なのだろう。

「ああ……」

「別に、もう見つけた後だったなら受け取らなくていいわ」

「いや――最近は探す暇もなかったからな。ありがたく貰っとくよ」

 別に、断ったからといって紬が喜ぶわけでもない。

 美裂は彼女から本を受け取った。

「……そういや」

「なによ。くだらない質問だったら、さっきの本ネタバレするわよ」

 久しぶりに紬の目が美裂へと向けられた。

「えげつねぇな」

 美裂は苦笑する。

 だが――確かにそうだ。

 くだらない話なんかするような間柄ではない。

「じゃあ……まあいいわ。くだらない質問だったし」

 取るに足りない――近況など聞いても仕方がないだろう。

 そんな仲良しじみた関係ではない。

「……そう」

 興味なさげに紬はそう呟いた。

「……それじゃあ、お母さんと仲良くな?」

「うんっ……」

 美裂が頭を撫でると、綾は恥じらいながらも頷く。

 そんな姿を見ていると、自然と笑みがこぼれた。

 ――生前から、美裂は国家を守るために戦ってきた。

 害ある人物を、排除するという形で。

 そしてALICEとして生き返り、世界を守るために戦った。

 害ある怪物を、排除するという形で。

 太刀川美裂が歩んだ正義はいつだって、何かを斬り捨てる正義だった。

 彼女だけがしていたことでもないし、彼女がしなければ止まる話でもない。

 別の誰かが、彼女がするべきだった仕事をするだけだろう。

 自分がやめても変わらない。

 なら、他の誰かが汚れるくらいなら。

 そんな気持ちで続けた正義に、一片も悔いがなかったとは言えない。

 むしろ目の前にいる荒須紬こそがその筆頭だ。

 だけど――

(アタシたちの戦いが、この命を守れていたっていうのなら。悪くない人生だな)

 もしも世界が滅んでいたら、彼女たちもここにはいなかった。

 その事実が美裂にもたらすのは誇らしさではない。

 感謝。

 彼女たちがここで生きていることこそが、美裂が戦った意味となる。

 美裂は戦うために生まれてきた。

 そして、戦いは終わった。

 以前は、戦いが終われば自分の価値などなくなってしまうのだろうと思っていた。

 だが今は、まだ生きる意味があると思える。

 アイドルなどという、自分には不釣り合いで輝かしい世界。

 ――人生はやり直せない。

 ただ、塗り重ねてゆくだけだ。

 だから美裂という人間が背負う黒が消えることはない。

 いくら救済を重ねても、相殺されることはない。

 いわば石色。グレーのままだ。

 だが、目の前の少女を見た時――世界に光が差すのを感じた。

 暗殺者。救世主。

 それらの責務を終えた今、初めて自分は日の差す世界を歩み始めることができたのだと。

 そう思えたのだ。


 他のメンバーと違って、美裂は生前から戦いに身を置いていた人物なんですよね。

 ある意味、これから初めて普通の少女となるわけです。


 それでは次回は『最強の絆』です。



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