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転生したら赤髪ツインテールでした。しかもトップアイドル。  作者: 白石有希
終章 デッド・オア・ラストライブ
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終章 40話 終わらない救済者

 戦場から少し離れた路地。

 そこに彼女はいた。

「マリア……!」

 天は叫ぶように呼びかけた。

 彼女の声が届いたのか、少女――マリアは立ち止まる。

「あれ? どうしたの天ちゃん。こんなところで――」

「お前がいつの間にかいないからだろ……!」

 天はマリアに走り寄る。

 クルーエルとの決闘が終わった後。

 マリアは誰にも告げずに姿を消していたのだ。

「あはは。見せないようにって思っていたんだけど……時間だね☆」

 少し悲しげに笑うマリア。

 彼女の体は――消えかけていた。

 世界と混ざるように、溶けてゆく。

「――マリア、行くのか?」

「うん。行くよ。また、次の世界を救いに」

 マリアは女神だ。

 破滅の危機にある世界を救ってゆく救済者。

 世界を救ったとしても、彼女の戦いは終わらないのだ。


「でしたら、わたくしもお供しなければなりませんね」


 そんなことを口にしたのは一人の少女。

「月読?」「月読ちゃん?」

 そこにいたのは月読。

 天たちがいないことに気付いたからなのか、彼女は一人でそこにいた。

「わたくしは女神様の使徒なのですよね? なら、ついていきますよ。たとえ戦う世界が変わったとしても」

 月読は微笑む。

 ――彼女はマリアの使徒のような立場だったという。

 マリアのメッセージを受け取り、世界をより良く導いていく存在なのだ。

「月読ちゃん……」

「独りぼっちは寂しいでしょう?」

 ゆえに月読は提案する。

 自分も一緒に、マリアと戦うと。

「……だーめ☆」

 しかしそれを拒絶したのは他ならぬマリア。

 彼女は月読を抱きしめる。

「月読ちゃんはこの世界に残らなきゃ☆ この世界には、月読ちゃんの友達だっているんだから」

「ですが――」

「それなら、誰がマリアを守るんだよ」

 思わず天はそう口にしていた。

 世界を救う。

 それでも、救われた世界に安住することはできない。

 また次の戦場に赴くだけだ。

 それは――救われない生き方に思えた。

「恩返しってわけじゃないけど、俺にも手伝えることはないのか?」

 違う世界に転生させることが可能なのだ。

 戦力として、戦場に向かうことくらいはできるかもしれない。

 それくらいの恩を受けたという自覚はある。

「マリアは神様かもしれない。でも、独りきりで戦って――誰がマリアを守ってくれるんだ」

「さぁ……どうなんだろうね?」

 マリアは曖昧に笑む。

 そして彼女は少し困ったように肩をすくめた。

「まあわたしは、気長に王子様を待つことにしようかなぁ☆」

 ――だから天ちゃんたちは、気にしなくていいんだよ?

 そうマリアは言う。

 天が気にしなければならないのはこの世界のこと。

 この世界の外側での出来事にまで心を砕く必要はないのだと。

「あーあ。天ちゃんの3周年記念ライブ、見たかったなぁ☆」

 マリアは伸びをする。

 以前、話していたライブの話。

 結局のところ、マリアを招待することはできなかった。

「――――よ」

「? なぁに、天ちゃん?」

 絞り出した声は届かなかったようで、天にマリアが聞き返す。

 とはいえ二度も言うのは恥ずかしい。

 だが、伝えられるのはこれが最後。

 天は意を決し――

「――俺も見せてやりたかったって言ってんだよ……!」

 そう言うと、天は顔を逸らした。

 彼女の反応が面白かったのか、マリアの笑い声が聞こえた。

 マリアは悪戯っ子のような笑顔で天を覗き込む。

「その体、案外気に入っちゃったの?」


「――――――君」


「――!」

 マリアが名を呼んだ。

 かつての、天の名前を。

 以前の世界で呼ばれていた名前を。

 だが、なぜだろうか。

 その名前が――遠い。

 どうにも違和感があった。

「……俺は天宮天だ。天宮天として生きていきたいって、今は思ってるよ」

 きっと、それだけ馴染んできたのだろう。

 天宮天という――自分に。

「………………そっかぁ」

 へらりとマリアは笑う。

 すでに彼女の体は半分ほど消えかけている。

 もう、話せる時間は残されていない。

「……じゃあね。天ちゃん」

 マリアは小さく手を振る。

 快活で、奔放な彼女が儚げに見えた。

 だから天は挑発的に笑う。

「ああ。もう二度と会わないで済むと良いな」

「ひどっ!?」

 マリアは頬を膨らませて天をにらむ。

「天ちゃん。そんなにわたしのこと嫌なの?」

 不安げなマリアの声。

 そんな彼女を見ていると、笑いがこらえきれなくなった。

 天は思わず吹き出し、肩を揺らす。

「勘違いすんなよ。お前がこの世界に来ないといけないような危機なんて、俺が起こさせないって言ってんだよ」

 天はマリアへと拳を突き出す。

「俺の目が黒いうちは、マリアが頑張らなくても良いようにしておいてやるさ」

 もしもマリア手伝いをできるとしたらそれくらいだから。

「ほんのちょっとかもしれないけど、マリアの手伝いをさせてくれよ」

 

「この世界は、俺がちゃんと守るから」


 この世界は、天が守る。

 マリアには頼らない。

 たった一つの世界での出来事。

 それでも、彼女の負担が減るというのなら。

「……天ちゃん、王子様みたいだね」

 マリアは微笑む。

 同時に彼女の全身が光となり、溶けていく。

 声が聞こえてくるだけで、その表情の続きを見ることはできない。

 だけど、その必要はない。

 きっと彼女は、今も笑っているから。


「でも、天ちゃんは……わたしとは違う絵本の王子様だもんね」


「さよなら天ちゃん☆ またいつかはないからね☆」


 もう会わない。

 それは世界が平和な証拠だから。


 どこかで書いた気もしますが、今作『転生したら赤髪ツインテール』と前作『もう一度世界を救うなんて無理』は並行世界という設定であり、前作には『世良マリア』という人物が登場します。世を良くするマリア……一体誰なんだ……。

 前作を知らなくても問題がないようフレーバー程度の設定にとどめておりましたが、もしマリアの物語の続きが知りたい方は前作を呼んでいただけると……(宣伝)。


 それでは次回は『デッド・オア・ラストライブ』です。

 1章エピローグの『デッド・オア・ファーストライブ』から続く終着のエピソードとなります。


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