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転生したら赤髪ツインテールでした。しかもトップアイドル。  作者: 白石有希
終章 デッド・オア・ラストライブ
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終章 37話 最後の空

 クルーエルは腰を落とし、消滅の太刀を構えた。

 そして勢いよく突き出す。

 消滅の影は一気に伸縮し、天を目指した。

 影が天の眉間を撃ち抜く直前――

「ッ――!」

 天が動いた。

 姿がブレて見えるほどのスピードで影の下に潜り込む。

 天は前傾姿勢のまま影の下を駆ける。

「――――」

 クルーエルは影を伸ばしたまま腕を振り下ろす。

 10メートルを超える太刀が天へと向かって落ちてゆく。

「ッ……!」

 天が横に跳んだ。

 消滅の太刀は空振りし、道路を縦に割る。

 現在、天がいるのは空中。

 身動きは――

「!」

 天が動いた。

 卓越した身体能力で、空気を蹴ったのだ。

 何もない宙を蹴りつけ、天の体が軌道を変える。

「っ」

 天がクルーエルの懐に潜り込む。

 消滅の太刀は伸ばしており、近距離の彼女には対応しづらい。

 しかし太刀を縮める時間はない。

 ゆえに、

「――!」

 クルーエルがバックステップで大剣を躱す。

 しかしそれも一度限り。

 天はさらに一歩深く踏み込むと、もう片方の手で大剣を振るう。

 次は躱せない。

 ゆえに、クルーエルは――防御を捨てた。

 胸元を守っていた影をも動員して天を攻撃する。

 身体能力。そして未来予測。

 戦闘能力では天のほうが圧倒的に強い。

 しかし消滅という殺傷力なら、クルーエルに分がある。

 天でも無視できない攻撃となる。

 ――影が大剣を吞み込んだ。

 消えてゆく刃を目にし、天が距離を取る。

「っ」

 天は残った柄を地面に投げ捨てる。

 一見、意味のない行動。

 だが彼女に宿る悪魔に抜かりはない。

 どう作用したのかは分からない。

 だが柄を投げ捨てた衝撃が――波及した。

 高架にヒビが広がる。

 足元が崩落し、二人は空中に投げ出された。

 足場のない戦場。

 周囲には、ともに落ちてゆくガレキたち。

 そこに赤い閃光が走る。

 ガレキを蹴り、天が縦横無尽に跳ね回る。

 ピンボールのように跳弾する天。

 赤い閃光は牢獄のようにクルーエルを囲い込んだ。



 高架を崩したことで、戦場が立体となる。

 上下左右。

 三次元に足場が展開した戦場。

 ここでは視野の広さが重要になる。

 そしてそれは《青灰色(アリスブルー)の女神(・メシアライズ)》によって演算能力が拡張されている天の独壇場。

 クルーエルの周囲を飛び回る。

 360度から観察し、彼女の警戒網に空いた穴を突く。

「ッッ」

 背後からクルーエルを蹴りつける。

 彼女の肩甲骨がメシリと軋んだ。

 そのまま彼女の体は地面に向かって撃ちだされ、地面を抉る。

(次は――)

 天の目が幾何学に輝く。

 クルーエルの落下によって巻き上がった粉塵。

 天の目は、それさえも見透かす。

(消滅の影を使った抜刀術――!)

 砂煙が横に引き裂かれる。

 クルーエルが繰り出した抜刀術。

 影の太刀はスイングと同時に伸び、半径10メートル圏を巻き込む斬撃となる。

「ッ!」

 天はガレキを踏み、落下のタイミングをずらす。

 彼女の足元を斬撃が駆け抜けてゆく。

(これで――)

 隙ができる。

 抜刀術はスイングスピードこそ速いが、放った後の隙が大きい。

 そのはずだったが――

(まだだ――!)

 晴れた砂煙。

 そこにはクルーエルが構えていた。

 右手を振り抜いた姿勢で。

 ――左手に、消滅の太刀を逆手持ちした姿勢で。

(二段構えか……!)

 あらかじめ彼女は影の太刀を二分割していたのだ。

 刀身は細くなるが、消滅の影によって作られた武器に強度は関係がない。

 そうやって彼女は二段構えの攻撃を準備したのだ。

 振り抜かれる影の太刀。

 しかもただの斬撃ではない。

 消滅の太刀の先端部が枝分かれする。

 蜘蛛の巣のように細い刀身が周囲を斬り刻む。

 刀身の密度は高く、隙間に逃げることはできない。

 影の性質を利用した、広範囲殲滅型の抜刀術。

(なら――)

 天は虚空に左手を伸ばす。

 彼女の手がガレキに混じっていた鉄筋を掴む。

 そして――投擲。

 鉄の槍はクルーエルの左手首を貫く。

 関節部を破壊され、クルーエルの動きが鈍った。

 彼女の表情が痛みに歪む。

 影の一部が彼女の左手首へと動いた。

 左手を潰されたままでは不利だと判断し、治療しているのだろう。

「遅い」

 しかし、それは守りの一手だ。

 ゆえに天はさらに攻め込む。

 クルーエルのガードごと削り殺すために。

 天は大剣を振り抜く。

 クルーエルの左手は治療中。

 右手は治療のために影を使ったため、素手となっている。

 この状況なら――


「――――――――」


 まるでそよ風だった。

 優しく、柔らかい一手。

 クルーエルが距離を詰める。

 そして彼女は右手を伸ばし、手の甲で天の腕を逸らした。

 天の腕はクルーエルの腕を滑り、わずかに軌道をゆがめた。

 受け止めるのではなく、受け流す。

 ほんの数センチだけズレた斬撃はクルーエルに届かない。

 しかしそこで終わらない。

 クルーエルの腕が蛇のように天の腕に絡んだ。

 彼女が腕に力を籠めると、天の肘が曲がってはいけない方向へと折れる。

「ぐぁっ……!?」

 痛みに声が漏れた。

 肘から先がだらりと垂れる。

 だがそんな傷なら《青灰色の女神》ですぐに治せる。

 問題は、ダメージなどではないのだ。

(……今の動き)

 滑らかな手並みだった。

 詳細は分からない。

 だがアレは間違いなく――武術だ。

 それもCQCなど、軍隊に由来する実戦的なタイプの。

「ッ……!」

 天の顔面に衝撃が走る。

 思考に意識が向いたせいで生まれた隙に、クルーエルが掌打を叩き込んできたのだ。

 天は勢い良く吹き飛ばされるも、体勢を整えて着地する。

 ――今の掌打もコンパクトな動作で打たれており、隙がなかった。

 思えば、彼女の動きは初めて会った時と違う点が多々あった。

 一言でいえば――洗練されている。

 スペック任せの戦いではない。

 身のこなしに、叡智を感じる。

 積み重ねられてきた合理性が見える。

(これは――)


(――()()()()()()()()()()()()()()()()


 《ファージ》の王が振るっていたのは、人間が積み上げてきた武の業だった。


 一体、クルーエルに武術を教えた筋肉は誰なのか……。


 それでは次回は『紅蓮』です。



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