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転生したら赤髪ツインテールでした。しかもトップアイドル。  作者: 白石有希
終章 デッド・オア・ラストライブ
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終章 35話 終わりはせめて

「戦いは、半刻後としよう」

 二人はそう取り決めた。

「友たちと、別れを済ませてくるといい」

 この戦いが終われば、少なくともどちらかは死ぬ。

 だから悔いが残らぬように。

 心を整理する時間を。

「……それで、満足なのか?」

 天は問う。

 きっと無粋な問いかけだろう。

 でも、聞かずにはいられなかった。

「私たちの戦いにも、随分とケチがついたものだ」

 クルーエルは息を吐く。

 ALICEと《ファージ》。

 そんな構図だけでは語れない戦いになってしまった。

 神楽坂助広。そして女神マリア。

 別方向から向けられた意志が、彼女たちの戦いの構図を大きく変えた。

「だが、だからこそ――終わりくらいは私が選ぶ」

 それでも最後だけは。

 最後くらいは、主導権を取り戻す。

 自分の意志で戦場を選ぶ。

 そんな意図が込められた言葉だった。

「滅びしかないのなら、悪としてお前を討つ」

 クルーエルは宣言した。

 自分たち《ファージ》が、世界にとって悪ということを認めて。

 正義を主張するのではなく、悪の美学を貫く。

「精々、抗って見せろ」

 最後の戦いに向け、天たちは一旦別れた。



「天っ」

 声を上げたのは蓮華だった。

 ALICEの面々が天へと駆け寄ってくる。

 どうやらみんな《単一色の世界》から解放されたらしい。

 大丈夫だと信じてはいたが、実際に確認したことで心から安心できた。

「――勝ったんですか?」

「ああ」

 月読からの問いに、天は頷いた。

「さすがですわね」

「やったじゃんか」

 左右からアンジェリカと美裂がじゃれついてくる。

 体を左右に揺らされながら、天の顔には自然と笑みが浮かんでくる。

 ――まだ戦いは終わっていない。

 そう分かっていても。

「天さん。治療を――」

 彩芽が歩みより、天の手を取った。

 激戦で、天の体は傷だらけだ。

「……さんきゅ」

 天は彩芽に身を任せる。

 すると――

「――どうかしたのかしら?」

「?」

 蓮華がそんなことを言い始めた。

「まだ何かあるの?」

 彼女が尋ねてくる。

 正直、態度には見せていなかったと思う。

 それでも彼女は天の事情を見抜いた。

 こればかりは付き合いの深さゆえということだろうか。


「――30分後。クルーエルと戦う」


「!」

 天の言葉に、みんなの表情が変わる。

 空気が張り詰めたのが分かった。

 戦いはまだ終わっていない。

 そう認識したのだ。

「そりゃそうか。あっちとの決着はまだだもんな」

 美裂は頭を掻く。

 彼女に気負いは見えない。

「ですわね。最後の戦いなのですから、わたくしたちも――」

 そして、戦いへの意志を高めてゆくアンジェリカ。

「いや。悪い」

 しかし天は彼女の言葉を遮った。


「俺一人で戦わせてくれ」


 天は最初から、1対1で戦うと決めていたから。

「アタシたちじゃ足手まといってこと……?」

 蓮華の表情に不安が滲む。

 自分の力は必要ないのだろうか。

 そんな不安だ。

「いや。なんつーか……んー……」

 天は言いよどむ。

 言いたくないわけではない。

 しかし、この気持ちを言語化する方法が思いつかない。

 こればかりは理屈に縛られない話だから。

「……シンパシーっていうのか? 一緒に戦ったもの同士っていうか、決着を誰にも譲りたくないっていうか。あの戦場にいた、俺たちだけで終わらせたいんだ」

 奇妙な友情というべきか。

 あの死闘を共有した者同士でなければならない。

 そんな気がするのだ。

「……そういうのは理屈じゃねぇのかもな」

「仕方ありませんわね」

 美裂とアンジェリカが引き下がる。

 天の態度から察するところがあったのかもしれない。

「私たちは、天さんを信じて待っていますね」

 彩芽も笑顔でそう言った。

「――だそうですよ。蓮華ちゃん」

「……分かってるわよ」

 月読に言われると、蓮華は少し拗ねたような声を出す。

「天」

 蓮華は少し頬を膨らませ、天へと目を向ける。

「まだアタシ、言いたいことも聞きたいことも。やりたいことも、して欲しいことも一杯あるんだから」

 

「ちゃんと、勝って来なさいよね」


 死闘へと赴く天に贈る言葉。

 それは未来の話であり、約束の言葉だった。



「……………勝っても負けても、終わりとの時は近いな」

 クルーエルはガレキに座り、曇天を仰ぎ見た。

 彼女には思いを託す相手などいない。

「家臣のいない王に、住む国はないというわけか」

 彼女の仲間たちは、全員死んでしまったのだから。

 この世界にはもう、《ファージ》は彼女だけだ。


「クルーエル」


 そんな時だった。

 彼女を呼ぶ声が聞こえたのは。

「お前は――」

 そこにいたのは古舘だった。

 戦場を離れていた彼は、なぜか戻って来ていた。

「わざわざ戻ってきたのか」

「当然だろう?」

 クルーエルの問いに、古舘は何事もなさげに答えた。

 こんな戦場に戻るなど、あまり利口な生き方ではない。

 だが彼を責める気にはなれなかった。

「クルーエル。君の事情は、マリアという子から聞いた」

 そう言うと、古舘はクルーエルの隣に腰を下ろした。

「……余計なことを」

 同情のつもりか。

 余計な気を回してくれたものだ。

「君は、それで満足なのか?」

 古舘はまっすぐに問いかけてくる。

 偽りを赦さない。

 そんな愚直な瞳で。

 ――嘘を吐くのが馬鹿らしくなる男だ。

「無論だ。刹那的だと言われようと、私に後悔はない。私は――こう終わらせることしかできない」

 クルーエルは立ち上がる。

 生きながらえ、復興の未来を待つ。

 それがきっと賢いやり方だ。

 目の前の戦いに命を燃やしたとして、得られるものはないだろう。

 非合理な決意だ。

「なら良いんだ」

 だが古舘はそれを否定しない。

「君が幸せか不幸せかなんてどうでもいい。他ならぬ君自身が満足している。それがすべてだろう」

 彼は拳を突き出した。

「なら、友として言えるのは一つだけだ」

 そして屈託なく笑う。


「頑張れクルーエル。君が思うままに」


 事情を知ってなお、彼は友としてクルーエルを激励していた。


 次回あたりで最終決戦が始められるかと思います。


 それでは次回は『最後の一歩』です。



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