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転生したら赤髪ツインテールでした。しかもトップアイドル。  作者: 白石有希
終章 デッド・オア・ラストライブ
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終章 26話 世界調和4

(何も焦ることはない)

 助広はそう判断していた。

 片足は負傷。

(多分、僕の能力が発動するまでのタイミングを突くつもりなんだろうね)

 だが、問題ない。

 確かに足の負傷によって助広は弱体化している。

 だがそれは絶対的な話。

 弱体化してなお、天たちと比べてしまえば圧倒的な力を有したままだ。

(下手に焦って、逃げに回るほうがまずい)

 打てる手は大きく分けて3つ。

 防御に徹して、能力が発動するまで逃げるか。

 天たちの接近を阻むため、遠距離攻撃で迎撃するか。

(なら、答えは1つ――)

 助広は腰を落とした。

 ――前進のために。

(最速でクルーエルを殺す)

 それが助広の答え。

(天ちゃんは僕の動きについてこられるけど決定打がない。クルーエルは決定打を持つ代わりに、僕の動きについてこられない)

 単純明快な話。

 どんな過程であれ、クルーエルを殺した時点で助広の勝ちだ。

 他に彼を殺せる敵はいないのだから。

 なら、むしろチャンスだ。

 攻撃に意識を向けている今なら、クルーエルを殺すのも容易い。

 最悪、腕1本くらいなら捨ててでも動く価値がある。

(決定打がなくなれば、もう手詰まりだよね)

 助広が操る均衡には、消耗という概念さえない。

 クルーエルという火力を失えば、逆転の目はない。

 助広は一歩踏み出し――

「ッッ!?!?」

 ――全身を斬り裂かれた。



「ヒットよ」

 蓮華はとあるビルの屋上でそう口にした。

 彼女がいるのは、天たちの戦場から1キロほど離れた場所。

 彼女は双眼鏡越しに戦場を一望していた。

 彼女の目には、全身から血を噴く助広が見えている。

『蓮華ちゃんを中継した超遠隔斬撃。成功して何よりですね』

 インカムから月読の声が聞こえた。

 さっきの攻撃は彼女の能力である《無色の運命》だ。

 その能力は、他人の想像の具現化。

 ――現在、月読は蓮華の前方300メートル地点にいる。

 つまり蓮華は、月読と助広の二人が見える位置にいた。

 その役割は、月読の能力補助。

 月読の遠隔斬撃は本来、見えないくらいに離れた敵を精密に斬れるようなものではない。

 そこで重要になるのが蓮華の存在だ。

 彼女は見ていた。

 月読がナイフを振るう瞬間を。

 その遥か延長線上に助広がいることも。

 月読には見えていなくとも、蓮華は彼女の斬撃の軌道上に助広がいることを知っていた。

 蓮華の想像を具現化することで、月読は超ロングレンジの遠隔斬撃を可能にしたのだ。

「天――勝って」

 蓮華の声は空に溶けていった。



「最高のタイミングだよホントッ……!」

 天は笑う。

 彼女たちと助広が衝突する直前、彼の出鼻を挫くタイミングで遠隔斬撃が飛んできたのだ。

 助広の全身に裂傷が走る。

 致命傷ではない。だが、大きな隙だった。

 最高のタイミングの援護。

 そこには、1つの偶然があった。

 本来なら、遠隔斬撃に助広を傷つけるだけの威力はない。

 なぜなら、今の彼はマザー・マリアに匹敵する肉体を得ているのだから。


 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()


 彼女は戦場でのやり取りなど聞いていない。

 だから『当然に斬撃は有効である』と想像していた。

 そんな誤認識。

 それが助広の肉体をも斬り裂く斬撃として具現化された。

 助広の肉体強度を知らないからこそ、蓮華の想像は有効打となった。

 ――偶然さえも味方してくれている。

 そんな今なら――

「「はぁぁぁぁあああッ!」」

 天とクルーエルは叫び、強く踏み出した。

 一方の助広は、遠隔斬撃のダメージで硬直していた。

 瞬きのような時間の中で絡み合った攻防。

 その結末は――

「ッッ――!」

 天の拳が顔面に、クルーエルの拳が鳩尾に。

 二人の拳が助広に突き刺さる。

「「終わりだ――――」」

「助広のオッサン!」「神楽坂ッ!」

 衝撃で天の腕の骨が軋み、壊れる。

 だが同時に、助広の頭蓋骨にヒビが入っていく感覚の伝わってきた。

 クルーエルの拳から黒が滲みだした。

 消滅の影はそのまま助広を貫き、彼の腹に大穴を開ける。

 二人の全力。

 助広の体は容易く吹っ飛んだ。

 彼の体は宙を舞い、頭から地面に落ちた。

 広がってゆく赤い水たまり。

 ついに天たちの力は、助広の命に届いたのだ。

「どんな……もんだ」

 天は息を吐く。

 汗が吹き出し、体が重くなる。

 興奮状態で誤魔化されていただけで、かなり疲弊していたようだ。

「――対価は支払わせたぞ」

 クルーエルはそう呟いていた。

 彼女は目を細め、小さく微笑んでいた。

 きっと彼女の目には、助広に討たれた仲間の姿が見えているのだろう。

 戦場に立っているのは天とクルーエルだけ。

 助広を倒すため協力体制を取った。

 だがその本質は敵同士。

 ゆえに――


「ああ――これだけは使う気はなかったのに」


 声が聞こえた。

 それは、すでに意識から外れていた男の声だった。


「これは――あまりに平等すぎるから」


 驚愕に、天とクルーエルは振り返る。

 そこには仰向けに倒れたままの助広。

 彼は顔の一部を陥没させ、腹から命をこぼし続け、それでも笑っていた。

 

「《魔界顕象》」



「――――――――――《単一色(アローン・)の世界(アヴァロン)》」


 助広。最後の切り札。


 それでは次回は『世界調和5』です。



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