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転生したら赤髪ツインテールでした。しかもトップアイドル。  作者: 白石有希
終章 デッド・オア・ラストライブ
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終章 25話 世界調和3

 天は助広へと走る。

 彼の間合いに入る直前、天は一気に減速した。

 腰をひねり、大剣を構え――飛びかかる。

 攻撃を予期した助広が左手を突き出す。

 天の攻撃など、素手の防御で充分ということだろう。

 だが甘い。

 彼のガードは間に合いさえしない。

「……!」

 わずかに助広がよろめく。

 天の両足が、彼の顔面に突き刺さったのだ。

 剣を構えたのは、助広の意識を誘導するためのフェイク。

 天は助広の顔面にドロップキックを叩き込んでいた。

(固いな……!)

 足裏から伝わる手応え。

 鼻を狙って蹴りつけたというのに、骨が折れるような感触がない。

 天の攻撃力では有効打とはならないのだろう。

 だが――それでもいい。

 小柄とはいえ、天のパワーなら助広を押すくらいのことはできる。

「……!」

 助広は数歩下がり、硬直した。

 気づいたのだろう。

 背後に存在する――消滅の影に。

「危ないね……!」

 助広は体を回転させて影を躱す。

 影は彼の肩を掠めた。

 血が跳ねる。

 いくら肉体が強靭になろうとも、消滅という現象そのものを止めることはできないのだろう。

 ――天ならば、助広と対峙しても耐えられる。

 ――クルーエルならば、助広に致命傷を与えられる。

 薄く、消えそうな光明かもしれない。

 だが、そこには確かに希望があった。

 天は蹴りの反動を利用して助広から距離を取る。

 彼女は空中で姿勢を整え、両手両足で着地した。

「クルーエルっ!」

「分かっている」

 天の声に呼応し、クルーエルが右手を挙げた。

 彼女の手元に黒く、巨大な球体が現れる。

「出し惜しみはなしだ」

 クルーエルが腕を振り下ろす。

 すると影はいくつもの弾丸となり射出された。

 ――助広の身体能力は高い。

 パワー。タフネス。

 どちらも規格外だ。

 そうなれば体力も相応なはず。

 天たちに勝ち目があるとしたら短期決戦――瞬間火力での勝負。

 クルーエルもそれを理解しているのだろう。

 彼女の消滅の影は武器であり、防具。

 そして、使えば使うほど影の体積は削られてゆく。

 だからこそ、影の使用には慎重にならざるを得ない。

 影をそのまま撃ちだすという行為はその最たる例だ。

 武器として振るうだけなら何度も再利用できる。

 だが、射撃となればそうはいかないのだから。

 それでもクルーエルは必要だと判断した。

「はぁッ!」

 天は大剣を横薙ぎに振るう。

 攻撃のためではない。

 戦いの中で砕けた道路の破片を巻き上げるためだ。

 砂煙が戦場に広がる。

 煙は目くらましとなり、消滅の影を隠してゆく。

 クルーエルの影は光沢のない完全な闇。

 煙幕の中で察知することは難しいだろう。

(当たり所によっては致命傷になる消滅の影。それが見えないとなったら――)

 

(無駄に大きく躱すしかないよなっ!)

 

 天はある地点を指で示す。

 そこに――助広が現れた。

 彼は勢いよく跳び、砂煙の外に退避したのだ。

 砂煙の中では攻撃が見えない。

 そうなれば万が一に備え、大きく余裕をもって躱すしかない。

 そして――天なら回避地点が分かる。

 助広の思考回路。

 直前までの重心の位置。

 それらから、彼の選ぶであろう行動が予測できるのだ。

 どの方向に、どれくらいの距離、どのタイミングで。

 そのすべてが完全に天の中で弾き出される。


 だから――あらかじめクルーエルに伝えたのだ。


「ッッ……!?」

 助広の表情が驚愕と痛みでゆがむ。

 彼の腰がわずかに落ちた。


 ――上空から降り注いだ影の雨が、彼の左膝から下を撃ち抜いたのだ。


 助広の足にいくつもの穴が開く。

 さきほど彼の視界が煙で塞がれた後、天はクルーエルに助広の出現位置を指で示していた。

 最初の攻撃、クルーエルはすべての影を正面に撃ちだしたのではない。

 あくまで正面を狙ったのは半分だけ。

 残り半分は、天が砂煙で助広の視界を潰してから――()()()()()()()()()

 撃ちあげられた影は放物線を描いて落ちてゆく。

 それまでの間に、天が落下地点を指定。

 そこへとクルーエルは弾丸を誘導し――ヒットさせた。

「ッ……!」

 助広の左足から血が迸る。

 直前で気づいたのか、彼はわずかに影の着弾エリアから抜け出そうとしていた。

 そのおかげで、彼の左足は完全に吹き飛ばずに済んだ。

 それでも、あそこまで穴だらけとなっては本来のパフォーマンスは発揮できないはずだ。

「「――――――――!」」

 天とクルーエル。

 一瞬の目配せ。

 それでも想いは一致していた。

 二人は駆けだす。

 全力で、余力など微塵も残さないという覚悟で。

 ――決めるなら今しかない。

 助広は機動力を大きく失った。

 下半身の力を損なえば、攻撃力も半減する。

 ほんの1秒以下。

 助広の身体能力が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 《極彩色(プリズム・)の天秤(フェアリズム)》が発動するまでの、ほんのわずかな時間。

 唯一、助広が誰とも釣り合っていない瞬間。

 そこにすべてを注ぎ込む。

 さらにいえば、身体能力の問題だけではない。

 突然の負傷。

 今の彼は少なからず動揺しているはず。

 肉体と心。

 二つの隙が重なって生まれる突破口。

 これが、最初で最後のチャンス。


「「はぁぁぁあああああああッ!」」

 

 天とクルーエルは、助広との距離を一気に詰めた。


 すべてをかけた攻防。

 それを制するのは誰か。


 それでは次回は『世界調和4』です。



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