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転生したら赤髪ツインテールでした。しかもトップアイドル。  作者: 白石有希
終章 デッド・オア・ラストライブ
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終章 18話 三つ巴

「――待たせたな」

 天は近くのビルからハイウェイへと飛び降りた。

 彼女は戦場を見下ろす。

 対峙しているのは助広とクルーエル。

 すでに戦闘をしているのか、助広の服は何ヵ所か裂けていた。

 一方で、クルーエルに傷はない。

 着ているのは黒いワンピース。

 最初は消滅の影で作り出した衣服かと思ったが、どうやら普通の布のようだ。

 つまり、防御に割かれるはずだった影も攻撃に転用される可能性がある。

 それを考慮しつつ天は戦場を見渡していた。

「――ALICE」

「?」

 クルーエルが何かを投げてきた。

 放物線を描く物体。

 特に敵意も感じなかったため、天は片手でそれを受け止める。

「これって――」

「赦す。預けておいてやる」

 天の手の中にあったのは宝石――素体だった。

 素体は氷雨の手から離れて以降、誰が持っているのか分からなくなっていた。

 マリアに異変が現れないあたり、助広に奪われる事態は避けたのだろうとは思っていたが。

 どうやらクルーエルが持っていたらしい。

 破壊することもなく、助広に渡すこともなく。

「それはお前たちを殺してから破壊する予定だ。持っておけ」

 クルーエルはそう言い放った。

 彼女もこれが何なのかは理解しているようだ。

 それでも壊さない。

 その意気の根底にあるのはプライドなのだろう。

「返せって言っても、もう返さないからな」

 天は素体を懐に入れる。

 マリアから、素体は簡単に壊れないと聞いている。

 さすがに戦闘の余波くらいで破壊はされないだろう。

「よっと」

 天は跳ぶ。

 着地した位置は、助広を挟み撃ちにする場所だ。

「なあクルーエル」

「どうした?」

 天は話しかけると、クルーエルはそう返してくる。

 彼女の手にはすでに影の太刀が顕現していた。

「今回は味方だと思っていいのか?」

 天は問う。

 すでにマリアから助広と《ファージ》の間で起こった戦いについては聞いている。

 クルーエルにとって助広は絶対に殺すべき怨敵。

 であれば――

「当たり前だろう」

 ――クルーエルが動いた。

 《ファージ》の王にふさわしい膂力。

 その瞬発力は《悪魔の心臓》を使った天に匹敵している。

 彼女は一瞬で助広へと詰めより、太刀を振り抜いた。

「っと」

 助広は跳んで斬撃を躱した。


「無論、()()()()()


 クルーエルの攻撃は終わらない。

 彼女の影刀が――伸びた。

「ッ!」

 天は身を反らす。

 黒い一閃が頭上を駆け抜けてゆく。

 クルーエルの抜刀は彼女の前方数十メートル範囲を横に断絶した。

 ハイウェイのフェンスが斬り飛ばされて宙を舞う。

「隙ありってね」

 天の顔に影が差す。

 それは上空から十字架を構えた助広が生み出した影だ。

 彼はクルーエルの攻撃を跳んで躱した。

 だがそれは単純な回避ではない。

 クルーエルの攻撃に意識を割いた天を討ち取るため、天の頭上を取っていたのだ。

 ――現在の天は身を反らした体勢のままだ。

 十全な回避が行える状態ではない。

 しかし――

「どこがだよっ……!」

 天は左手の大剣を道路に突き刺す。

 両足と大剣。

 3本の支柱を手に入れたことで、天の姿勢が安定する。

 安定したのなら、攻撃に力が乗る。

「らぁッ!」

 天は右手の大剣を振るう。

 大剣は迫る十字架を横から叩き据える。

「!」

 正面からの衝撃ではなく、横から。

 助広の落下軌道がゆがみ、彼の攻撃は天から外れた。

「まだだっ」

 天は姿勢を戻し、さらに追撃を試みる。

 その時――

(なんだ……?)

 視界の端、黒い何かが揺れた。

 ふわふわと風に乗り、天と助広の間をただようシャボン玉。

 その泡沫は――影のように黒い。

「「ッッ!?」」

 天と助広。

 危険を察知したのは同時だった。

 シャボン玉が弾ける。

 全方位へと影の飛沫が飛び散った。

 いうなればそれは、影の炸裂弾。

 飛散した飛沫に触れただけで体を削る一撃だ。

 天と助広がそれぞれ逆方向に跳び退く。

「……!」

 天は空中で体を回転させて減速。

 そのままハイウェイの壁に着地する。

 壁を蹴り、天は助広へと跳びかかった。

「はぁぁぁッ!」

「力押しでは、天秤は傾かないよ」

 天の一撃を受け止める助広。

 剣と十字架の間で火花が散る。

 両者のパワーは拮抗していた。

「――そこにいろ。介錯してやる」

 天の背後に現れたのはクルーエルだ。

 彼女は高速で天の背後に回っていた。

 すでに彼女は腰のあたりで太刀を構えている。

 先程の広範囲を巻き込む抜刀術。

 狙いは天と助広。

 二人の首を同時に切り落とせる軌道。

(このタイミングーー)

 ――現在、天と助広の力は拮抗している。

 一瞬でも力を抜けば、そのまま斬り捨てられるくらいに。

 つまり、助広よりも先に力を抜いて回避に移れば、彼に押し切られてそのまま殺される。

 最後まで助広と鍔迫り合いを続けていれば、クルーエルに殺される。

 天と助広は両者ともに譲れない。

 だが、このまま留まればどちらも死ぬ。

 ほとんど本能的な行動。

 天と助広の視線が一瞬だけ交わる。

 両者が生き残る術があるとしたのなら、二人がまったく同時に力を抜くこと。

 このまま譲らねばクルーエルの一人勝ち。

 それでも目の前の敵に固執するのか?

 どうするべきか。

 それが分からないような阿呆ではない。

「「ッ……!」」

 天と助広の体が左右に弾き飛ばされる。

 クルーエルの斬撃圏内から二人の体が抜け出した。

(いや――)

 ほんの一瞬だけ、天はクルーエルの表情を盗み見た。

 一網打尽の機会を逃した彼女がどんな反応を見せるのか。

 それを読み取るために。

(違う……!)

 クルーエルは――笑っていた。

(あいつの狙いは――!)

 クルーエルの太刀が貫いた。

 そこは――ハイウェイのフェンスが作り出した影。

 クルーエルの影と、フェンスの影がつながった。

 言い換えれば、フェンスの影は――クルーエルの影の一部となった。

「っ!?」

 フェンスから影の棘が伸びてくる。

 鼻先を掠める影。

 前髪が宙を舞った。

 だがこれで終わりではない。

 何十もの影が天と助広を貫こうと伸びてくる。

「ッ……!」

 天は身軽な動きで影を躱し、クルーエルの攻撃範囲を脱出した。

「マジで遠慮なしってか……」

 天は額を拭う。

 宣言通り、クルーエルは天も助広も殺すつもりらしい。

 天と協力する気などない。

(つまり……そういうことだろ)

 完全な三つ巴。

 自分以外は全員敵。

 隙を見せれば、誰であれ切り捨てる。

 そんな修羅の戦場。

 それは――


(あいつも――《極彩色(プリズム・)の天秤(フェアリズム)》の弱点に気付いてる)


 クルーエルが仕掛けた、《極彩色の天秤》を機能不全に陥らせるための策だ。


 ついに天宮天VSクルーエルVS神楽坂助広が開幕しました。


 それでは次回は『軋む天秤』です。



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