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転生したら赤髪ツインテールでした。しかもトップアイドル。  作者: 白石有希
終章 デッド・オア・ラストライブ
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終章 16話 反撃の兆し

「ったく……。面倒ね」

 蓮華は腕を振るう。

 それにあわせ一条の紫電が放たれ、襲いかかる《ファージ》を焼き殺した。

「48……!」

 蓮華は倒した《ファージ》をカウントする。

(少しは減ってきたみたいだけど)

 蓮華は周囲を見回す。

 彼女の周囲には大量の《ファージ》がいた。

 道路だけではない。

 周囲のビルの壁に張り付くようにして《ファージ》が見下ろしてくる。

 まだ半分くらいしか倒せていない。

(威力を絞っているとはいえ、こんなに何発も撃ってたんじゃ――)

 蓮華は眉を寄せる。

 一発も撃ち漏らさず、必要最低限の威力で《ファージ》を処理している。

 それでも消耗がないわけではない。

(まだ余力はあるけど、この数を全部となると少し苦しいわね)

 現在、他のALICEたちも各地で戦っている。

 殲滅向きの《不可思技(ワンダー)》を持っていることもあって、蓮華は他のALICEより広域をカバーして戦っていた。

 とはいえ、他のメンバーの負担も無視できるものではない。

「――仕方ないわね」

 蓮華は覚悟を決める。

「みんな。ここからはアタシだけで充分よ」

 そうインカムに向かって言った。

「全員退避してちょうだい。一気に殲滅するわ」

 戦いの余波によって起きた爆発。

 それによって市民たちは遠くへ避難していた。

 今なら無差別の雷撃が可能だ。

『アタシのとこでもそこそこ残ってるぞ。大丈夫か?』

 美裂の声が聞こえてきた。

『ちょっと――こちらは手間取っていますわね。まだ結構な数の《ファージ》が残っていますわ』

『私のほうもあまり芳しくありませんね』

 続くのはアンジェリカと彩芽だ。

 二人の能力は殲滅に向いていない。

 一体一体処理せねばならず、数が減らないのだ。

『あらあら。こちらはもうすぐ終わりそうなので、よろしければお手伝いできますけれど』

 そう答えたのは月読だ。

 彼女がよく使う遠隔斬撃は使い方次第では効率良く敵を処理できる。

 彼女の立ち回りの上手さが合わされば、殲滅力は蓮華に匹敵するかもしれない。

 美裂が担当するエリアの殲滅率はまずまず。

 アンジェリカ、彩芽の担当エリアは難航。

 月読エリアの進捗は良好。

 総合して考える。

(軽く見積もって300くらいは残っていそうね)

「そう。それくらいなら――」

『概算で300でしょうか? ()()()()()()使()()()()()()()、全部任せてしまってもよさそうですね』

「――――――」

 先読みしたような月読の言葉に蓮華は黙り込む。

 数。そして範囲。

 それらを加味したとき、これを蓮華が一気に殲滅しようとしたら限界に近い出力が必要となる。

 それこそ月読の言葉を借りるのなら、自分自身を使い潰すような運用が必要だ。

 時間をかければ話は変わるが、そうしてしまえば市民への被害は避けられない。

 短時間に、大量の敵を滅する。

 その両立には少なくない代償が必要だ。

「仕方ないじゃないの。多少の無理は通さないといけないわ」

『蓮華ちゃんの場合、多少の無理を全部一人で背負おうとするところは問題だと思いますけどね。天さん以外には、まだ頼れないんですか?』

「…………なんで天が出てくるのよ」

『それはもう……うふふ』

 月読は笑って誤魔化していた。

 事態が事態だけに追及できないのがもどかしい。

『ああ……もうちょっと待ってくんないか? 《石色の鮫(ストーン・シャーク)》で《ファージ》を何カ所かにまとめとく。そうすれば少しは消耗も少なくて済むだろ』

 蓮華を説き伏せるのは難しいと判断したのだろう。

 美裂はそう提案する。

 彼女の能力で岩壁を作り、《ファージ》を隔離しておく。

 そうすればすべての《ファージ》をピンポイントで狙うのではなく、まとまった《ファージ》へ大きめの雷撃をぶつけていくだけでいい。

 雷撃の回数が減る分、蓮華への負担も軽い。

『それくらいは手伝っても良いだろ?』

「……助かるわ」

 蓮華はそうつぶやいた。

 そしてビルの上に跳び上がる。

(ちょっと厳しいかもしれないけど……)

 高所から少しでも多くの《ファージ》の位置を把握する。

 蓮華の指先に電気が走った。

(天が来るまで、アタシが頑張らないといけないのよッ……!)

 市民を救う。世界も救う。

 絶対に天は来てくれる。

 だから、彼女が来るまでは蓮華が完璧にみんなを――


「やっと見つけた」


「……え?」

 思わず蓮華は振り向いた。

 聞こえた声。

 それは、彼女が今一番に聞きたいものだったから。

「…………天?」

「大丈夫だったか?」

 そこにいたのは天宮天だった。

 彼女は2本の大剣を携え、蓮華へと歩み寄ってくる。

「悪い。マリアとの修行中に通信機が壊れちまってさ。みんなの居場所も分からないし。ちょっと遅くなった」

 天は少し申し訳なさそうに笑う。

 彼女の服はかなり傷んでいた。

 肌に傷こそないものの、衣服にはいくつもの裂傷がある。

 それは彼女が潜り抜けた戦いの厳しさを物語っていた。

「もう……大丈夫なの?」

「ああ」

 天の手が、蓮華の頭を撫でる。

 包み込まれるような安心感。

 相手が大切な人だから――というだけではない。

 伝わってくるのだ。

 天宮天が持つ強さが。

 彼女になら、すべてを委ねてしまっていいと思えるだけの力を感じるのだ。

「ちょっとインカム借りるぞ?」

「ひゃっ」

 蓮華の口から短い悲鳴が漏れた。

 天が頬をくっつけてきたのだ。

 頬とはいえ、顔が密着しているという状況に体が硬直する。

 しかし天はそんなことを気にする様子もなく、蓮華の口元にあるマイクに向かって喋り始めた。

「あーこちら天宮。到着が遅れて悪い。今、どんな状況だ?」

 インカムを通じて、天はメンバーたちと連絡を取る。

 ――あとで予備のインカムを渡さねばならない。

 そうでなければ、脳まで茹で上がって死んでしまいそうな気がする。

 蓮華は、天に見えないほうの手で顔をあおいだ。

 頬から熱が伝わってしまうことは……諦めるしかないだろう。

「まあ……大体状況は分かった」

 天はそう言った。

 蓮華が困惑している間に、あらかたの状況を聞き終わったらしい。

「蓮華」

「は、はいっ」

 耳元でささやかれ、思わず声が裏返った。

 蓮華が錯乱しかけていると、天が再び彼女の頭を撫でた。

「こっちのこと、任せっきりにしてごめんな」

 天はそう言うと、蓮華から距離を取る。

「危うく、また蓮華を頑張らせすぎるところだった」

 天の瞳に幾何学模様が浮かんだ。

 そして――

「この範囲ならそうだな――20秒待っててくれ」

「え?」

「ちょっとあいつらを――片付けてくる」

 そう言って、天はビルから飛び降りた。

「天っ!?」

 思わず蓮華は天の姿を追う。

 天は地面に落下してゆく。

 特に構えている様子もない。

 ただ、口が動いた。


「――《悪魔の心臓》」


 刹那、天の姿が消える。

 そう錯覚するほどの速度で彼女が動いたのだ。

「う……そ」

 速すぎて、何が起こっているのか分からない。

 ただ――《ファージ》がすさまじいスピードで駆逐されてゆく。

 蓮華を囲んでいた《ファージ》が斬り刻まれてゆく。

 かかった時間は5秒に満たない。

 天の姿が今度こそ消えた。

 彼女はビルを蹴り、高速で街を移動してゆく。

 あまりに速く、蓮華の目には赤い閃光がピンボールのように町中を駆け抜けているようにしか見えない。

 赤い流星が《ファージ》を横切る。

 《ファージ》が一瞬で消滅した。

(嘘でしょう? アタシたち5人で殲滅しきれていなかった《ファージ》をこんなハイペースで……?)

 雷速には劣るが、それに匹敵するスピード。

 しかもあれは、《ファージ》を斬り倒しながらの速度だ。

 信じがたい光景だった。

「よし。終わりっと」

 気が付くと、すでに天は蓮華の隣へと戻っていた。

 《ファージ》は――全滅している。

 正直、ここまで彼女が強くなっているとは思わなかった。

 だが――

「さっきの……リスクが大きいって話じゃなかったかしら? 大丈夫なの?」

 蓮華はそう聞かずにはいられなかった。

 《悪魔の心臓》。

 未来演算と身体強化を併用する技。

 その強力さゆえに、脳にはかなり負荷がかかったはず。

 それこそ数秒で意識を失い、死の危機があるほどに。

 もしかすると天は、自分のために無理をしたのではないか。

 心配せずにはいられなかった。

 彼女の――彼の死因を知っているからこそ。

 目の前で、彼が血涙を流す光景を見たからこそ。

 蓮華の不安を感じ取ったのだろう。

 天は蓮華に歩み寄り、彼女の額を指先で小突いた。

「大丈夫って言っただろ? 今の俺には、こいつは基本装備みたいなもんだ。一時間や二時間じゃへばりもしないさ」

 これまでは決死の切り札というべきだった《悪魔の心臓》。

 それを基礎能力として使用できる。

 それだけで、天の戦闘力がどれほどのものか分かる。

「なら……いいわ」

(やっぱり)

 蓮華は微笑みを抑えきれない。

生前()今世()も。アタシの力ではどうしようもない時、貴方はいつも助けてくれる)

 強くて、優しい。

 窮地に駆けつけてくれる姿は、乙女趣味な表現になってしまうが王子様そのものであった。

 そんな王子様に守られるだけのお姫様にはなりたくないという思い、

 同時に、王子様が守ってくれるという喜び。

 彼のために強くなりたいと思う。

 だけど同じくらい、この人ならばと頼りにしている。

 気が付くと、蓮華は天の胸に飛び込んでいた。

 温かくて、心が落ち着く。

 無意識に、また気を張りすぎていたのかもしれない。

 天に抱き留められているうちに、心にたまり始めていた不安感が溶けてゆく。

「おかえり。天」

 まだ気を抜けない戦場。

 それでもこの瞬間、蓮華は安心で満たされていた。


 覚醒天は《悪魔の心臓》状態がデフォルトです。


 それでは次回は『迫る決戦の時』です。



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