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転生したら赤髪ツインテールでした。しかもトップアイドル。  作者: 白石有希
終章 デッド・オア・ラストライブ
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終章 11話 影踏み

「よっと……!」

 助広がトラックの上を走る。

 そして次の車に飛び移った。

「……近づいてきているな」

 クルーエルは彼の姿を見て眉を寄せる。

 わずかだが彼との距離が縮まっている。

 ――助広のスピードはバイクと同じだ。

 だが助広は()()()()()()()()()()()()()()

 本人の走力と、車の速度が合わさることで助広はクルーエルたちよりも速く道路を駆けてゆく。

 とはいえ常に助広がスピードで上回っているわけではない。

 わずかな走行ラインの違い。

 飛び移る際のロス。

 そのたびにわずかに距離が開き、また縮まっていく。

 気の抜けない逃走劇。

 (だが、私が手を出すわけにはいかない)

 もしもクルーエルが助広の追走を妨害しようとすれば、助広はクルーエルを敵として設定する。

 そうなれば助広の脚力はクルーエルと釣り合い、バイクの速度くらいなら数秒で追いついてしまう。

 もどかしい。

 だが、手伝わないことこそがクルーエルにできる最大の援護だった。

「これ以上速くならないのか?」

「これ以上のスピードアップはリスクが高い……!」

 そう古舘は答える。

 彼は高速走行をしながら車と車の間を抜けてゆく。

 タイヤが有するグリップ力の限界と向き合いながら高速でカーブを抜けてゆく。

 ほんの少しでも操作を誤れば大事故につながる限界走行。

 確かに、これ以上速度を上げるのは得策ではないかもしれない。

「これならどうかなっ」

 走りながら助広は十字架を振り上げ――投擲した。

 回転しながら飛来する十字架。

 それは正確にクルーエルたちを狙っている。

「攻撃が来たぞっ」

「分かっている――!」

 古舘は体を傾けて進路変更した。

 ほぼ同時に十字架が真横を通り過ぎた。

 あと少し回避が遅れていたら危うかった。

 しかし終わりではない。

 十字架はブーメランのように助広の手に戻ってゆく。

 ――回避のために進路変更したことで生じたロス。

 それは確実に助広との距離を縮めた。

 このまま攻撃を続けられてしまえば、いずれ追いつかれてしまう。

(どうする……ここで奴と戦うべきか……?)

 一度は敗れた相手だ。

 こんな突発的な戦場で戦っていいのか。

 特段に不利な戦場というわけでもない。

 だが、有利なわけでもない。

 助広と対峙するのなら、もっと戦場を整えなければならないというのに――

「安心するのだクルーエル」

「……古舘?」

「親友を信じろ」

 古舘が親指を立てる。

 きっと彼は、ヘルメットの下で笑っているのだろう。

 なんとなく分かった。

「…………」

「俺はまだ、クルーエルの事情をよく知らない。だが、それでも俺たちは筋肉で結ばれた親友だ」


「大丈夫だ。クルーエルが望む時が来るまで、どこまででも逃げきって見せる」


 クルーエルは古舘に自分のことを話していない。

 自分が人間でないことさえも。

 それでも彼は自分を信じてくれている。

 クルーエルの舞台が整うまで、時間を稼いでくれるという。

 ――彼は決して馬鹿ではない。

 だから、分からないはずがない。

 自分が置かれた状況が異常であることなど。

 普通の人間があんなに速く走るわけがない。

 こんな平和な街で、あんな戦いが行われているわけがない。

 自分の住む世界とは違う。

 クルーエルたちが超常的な存在であることは分かっているはず。

 この場では、自分の命など容易く潰えることも。

 なのに古舘は最前線を駆けていた。

 もしここでクルーエルを見捨てて逃げても、誰にも責められないというのに。

「ああ……赦す。存分に、私の信頼を受け取れ」

「ふ……筋肉で強くなるのが体だけではないことを見せようではないかッ!」

 バイクはさらに加速してゆく。

 そこへ助広は再び十字架を投げ込んでくる。

(いや……この軌道は――)

 こちらに向かっていない。

 十字架はクルーエルたちに当たることなく――

「これは――」

 ――彼女たちの前方を走っていたトラックに直撃した。

 十字架がターンし、トラックの運転席に突き刺さったのだ。

 トラックは制御を失い、大きく暴れ狂う。

 左右に揺れる車体。

 ついにトラックがスライドし、横転した。

 100キロで高速走行しているハイウェイ。

 横転したトラックを躱せる余裕は――ない。

 近くにいた車たちが衝突して被害を拡大させてゆく。

 飛び散る金属片。

 衝突による火花がガソリンに降り注いで爆発を起こす。

「手段は選ばないというわけだなッ……!」

 古舘は苦々しくそう言った。

 すでに道は塞がれてしまった。

 たまらず彼はブレーキをかけようとするが――

「構わんっ! 行けっ!」

 クルーエルは叫んだ。

 古舘の体に身を寄せ、自身を固定する。

 そして――笑った。

「私が信じたのだ。私のことを信じないとは言わせんぞ?」

 彼女は妖艶に微笑む。

「筋肉は裏切らない。なら俺も、親友の期待を裏切るわけにはいかないな」

 古舘は動じない。

 一切の進路変更をしない。

 クルーエルの言葉のままに、まっすぐにトラックへと突っ込んでゆく。

「何があっても曲がるな。信じろ。まっすぐだ」

 クルーエルは影を展開した。

 形成するのは――影の盾。

 前方を覆うように影を伸ばす。

 傘のような形状をした影はすべてを消滅させる。

 爆炎も、道をふさぐ車体も。

 バイクが進むための道を切り開いてゆく。

(この男は、本当に私を信じるのだな――)

 不思議な気分だった。

 古舘は本当に一切揺らがない。

 今の彼には何も見えていない。

 影に視界をふさがれ、前方で何が起こっているのか分からないはずだ。

 常人なら耐えられまい。

 確かに、前が分からない状態で進路を曲げてしまうのは危険だ。

 しかしそんな理屈で抑えられるよな不安感ではないはず。

 反射的に左右へとハンドルを切ってしまうのが普通だ。

 なのに古舘は信じてくれている。

 愚直にクルーエルを信じて、直進し続けている。

「――――あの日、出会ったのがお前でよかった」

「すまない……! 爆発で声が聞こえないのだがっ……!? 筋肉で語りかけてくれ……!」

「どんな技術だそれは?」

 彼がよくしているポージングなら会話が可能なのだろうか。

 だとしたら却下だ。

「まあ、あれだ」

 クルーエルは小さく微笑んだ。

「これで我慢しておけ。王からの褒美だ」

 背後から古舘を抱きしめる。

 胸元の柔肉がたくましい背筋に押し潰された。

 薄地のシャツしか着ていないこともあり、男性的な体の固さがダイレクトに伝わってくる。

「生憎と、民も城も失った身でな。褒美として下賜できるのか、これくらいしかない。だが、こういうのも一興であ――」

「うむ。ここからスピードを上げていく。しっかり掴まっておいてくれっ」

「……お前、脳まで筋肉なのか?」

「なんだ?  よく聞こえなかったが、ひょっとして俺の筋肉を褒めたのか?」

 ――なぜ筋肉関連の話だけが爆音の中でも届くのだろうか。


 予想以上にクルーエルと古舘の信頼度が高い気がします。


 それでは次回は『牙』です。



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