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転生したら赤髪ツインテールでした。しかもトップアイドル。  作者: 白石有希
終章 デッド・オア・ラストライブ
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終章 10話 終末のステージ

 とあるビルの屋上。

 そこには一人の少女がいた。

 吹き抜ける風が金髪を揺らす。

 少女――グルーミリィ・キャラメリゼは空を仰いだ。

「ついに始まりやがったか」

 彼女の視界には灰色の空が広がっている。

 雲に遮られ光が届かない。

 そんな鬱屈とした世界が広がっていた。

「いいぜ。こっちも腹が減ってたまらねぇんだ」

 グルーミリィは三日月のように口元をゆがませて嗤う。

 心を満たすのは敵を殺すという猟奇的な執着。

 多くのものを犠牲にしてここに立っている。

 その代償を払わせる。

「神楽坂助広」

 ――オレはテメェを食い殺す。

 グルーミリィは両手を広げた。

 目を閉じ、空を見上げる姿はまるで祈りを捧げているかのようにも見える。

 雲に覆われた世界に、一筋の光を求めるかのよう。

 だが、雲を裂いて現れたのはそんな希望に満ち溢れたものではなかった。

 ――口だ。

 上空に数百メートルに及ぶ唇が現れた。

 唇が開き、地上に口腔をさらけ出す。

 奈落のような喉から大量の何かが噴き出す。

 黒く、粘性の液体。

 それは近くのビル群へと垂れ落ち、積み上がってゆく。

 ヘドロのようなそれは飛び散り――大量の《ファージ》となった。

「こいつはオレの戦いだ。誰にも邪魔はさせねぇ」

 グルーミリィは町中に解き放たれた《ファージ》を見下ろしながら呟いた。



「嘘でしょ……!」

 蓮華の口から漏れた言葉には隠し切れない焦燥があった。

 神楽坂助広による妃氷雨の襲撃。

 その知らせを受けたのが10分ほど前のこと。

 現在の蓮華たちは、ヘリコプターで現場へと移動しているところだった。

 だが――

「《ファージ》が……」

 彩芽も窓から町を見下ろし、異常な光景に動けないでいた。

「100や200じゃねぇぞこれ……」

「どれも下級のようですけれど……」

 美裂もアンジェリカも表情をゆがめている。

 眼下にいるのは有象無象の《ファージ》たち。

 一体一体なら数秒で討てるような敵だ。

 だが――

「これは……数が多すぎますね」

 月読の言葉がすべてだった。

 多い。多すぎる。

 ヘドロのような汚泥から《ファージ》が際限なく湧き出してくる。

 そして《ファージ》は無作為の方向へと散開してゆく。

「こんなの相手してたら体力がもたないわ……!」

 万全の状態でも倒せるのか分からないような敵が待っているというのに。

 ここで消耗してしまうのは得策ではない。

「あんなに散られたら、少人数で対応するのも不可能ですね」

 彩芽は拳を握りしめる。

 彼女は特に、助広を討ちたいという思いが強いはず。

 だが、増殖した《ファージ》を見過ごしてしまえば大量の死人が出る。

 それを理解できない彼女ではない。

「でもここに力を注ぎすぎたせいで、素体が守れないんじゃ本末転倒じゃないのか?」

 美裂の言うことはもっともだ。

 このまま放置してしまえばおそらく1000人では済まない死者が出る。

 だが素体を破壊されてしまえば――そんな数では終わらない。

 最悪、人間という種族が終わってしまう。

 合理性の天秤。

 秤にかけてしまえば、どちらを選ぶべきかは明白だった。

「――――――」

(天……)

 蓮華は胸元に手を当てる。

 思い浮かべるのは最愛の人。

 今も、彼女は力を求めて戦っているはずだ。

(……信じてるわ)


(アタシが助けて欲しい時、天ならきっと来てくれるって)


 きっと天は間に合う。

 間に合って、世界を救ってくれる。

 だから今は――

「全員、降下準備よ――」

 蓮華はそう指示した。

 ここにいる人たちを守る。

 短絡的に思えるかもしれない。

 必要な犠牲かもしれない。

 それでも見捨てない。

 そう、決断した。

「本気か?」

 美裂は問いかける。

 彼女は合理的に戦局を俯瞰している。

だからこそ蓮華に判断の妥当性を問うのだ。

「ええ。放置しておける事態じゃないわ」

「まあ……あの様子じゃ、被害は尋常じゃないだろうな」

 波紋のように全方向に向けて進軍する《ファージ》。

 しかし一般人には《ファージ》が見えない。

 逃げることさえなく、食い殺されるだろう。

「この町の人を救う。世界も救う。どちらもするだけですわ」

「世界を救っても、この町が滅んでいたなんてことになったら笑えませんからね」 

 アンジェリカと彩芽が同意を示す。

 最後に、蓮華は月読へと視線を向けた。

 彼女は使徒として、世界を救うために動き続けていた。

 だとしたら彼女は――

「そうですね」

 月読は座席に座ったまま微笑んでいた。

「それでは、救いに行きましょうか」

 月読は立ち上がる。

「わたくしもALICEの一員ですので」


「……蓮華ちゃんを悲しませたくないのは天さんだけじゃありませんので」

「……?」

 小声でささやいた月読の言葉は、蓮華には届かなかった。


 天の参戦は、最終決戦の中盤あたりになると思います。


 それでは次回は『影踏み』です。



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