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1章 17話 箱庭の外で一人

「これが――新しい世界、か」


 天は眩しい日差しに目を細めた。

 転生4日目。

 天は初めて箱庭の外に出ていた。

 外出申請。

 天はALICE――世界を救う存在として管理されている。

 だからこそ、外出にさえ制限が設けられていた。

 基本的に外出は許可されない。

 日常のすべてを箱庭の中で完結させてゆく。

 箱庭の外に行くには、こうしてあらかじめ申請をして、許可を貰うしかない。

 それでも発信機が取り付けられた腕時計をつけることを義務付けられているのだが。

 監視付きのようで気分が良くないが『任務時に効率よく合流するため』と言われてしまえば仕方がない。

「まさか、転生した世界を見るためにここまで時間がかかるなんてな」

 実は、天が外出申請を行ったのは転生初日のことだった。

 つまり外出許可が下りるまでに数日を要したこととなる。

「箱庭も悪くはないんだけど……どうにもなぁ」

 なんとなく『閉じ込められている』という印象がある。

「シャバの空気は美味いな――ってな」

 見渡す限りの街並み。

 そこに白い壁は――ない。

「それじゃあ……見てくるとするか」


「これから俺が生きていく世界を」


 そして、これから守ってゆく世界を。



「そこの少女」

「んぁ?」

 アテもない散策。

 見慣れたようで見たことのない街並みを歩く天は、隣からの声に立ち止まった。

 少女という呼び方は不本意だ。

 しかし声をかけられたタイミングからして、自分に向けた言葉である確率が高い。

 天が声の主へと視線を向けると。

「さっきから周囲を見回しているようだが、迷子かな?」

 そこにいたのは――筋肉だった。

 隆々とした大胸筋。

 黒光りするリーゼントとサングラス。

 対照的に白く輝く歯。

 肌に貼りつくようなタイツ生地の服に、どこかヒーローを思わせるマント。

 筋肉を誇示するかのようにポージングした姿は端的にいって――

「ぁ――」


 ――変態だった。


「きゃぁああああああああああああああああああああああああ!」

 天の悲鳴がこだまする。

 人生で初めて、少女らしい悲鳴をあげた瞬間であった。



「俺の名前はグレイトフル古舘だ」

「いや誰だよ」

 リーゼントの言葉を一蹴する。

 残念ながら聞いたことがない名前だ。

 もっとも今世では有名なのかもしれないが。

「なるほど。もしかして君はテレビを見ないのかな」

「まあ……」

 先程ちらりと思った通り、もしかして彼はテレビによく出ている有名人なのだろうか。

「これでもヒーローと呼ばれる程度には有名だったのだがな」

「ヒーロー……?」

 言われてみれば、もはや仮装じみた彼の格好は確かにヒーローを思わせる。

 なぜ普段から着込んでいるのかという疑問は残る。

 だが妙に様になっている。

 彼が言っていることは嘘偽りない真実なのかもしれない。

「悪いけど。俺、日曜の朝とかはわざわざ起きないんだよな」

「それなら気にしないでくれ。俺が出ているのは主に夜中の番組だ」

「深夜枠かよ!」

 ヒーローという言葉の響きに騙された。

 まさか深夜枠のヒーローだったとは。

「で? 何か用なのかよ」

 天はわずかに引きながらそう尋ねた。

 傍から見ると可憐な少女と屈強な巨漢。

 かなり危ない光景だった。

(ほ、掘られそう……!)

 天の想像も大概だったが。

 彼女の体は転生前に比べてかなり小柄になっている。

 一方、古舘は彼女の転生前の体よりも頭一つ分以上に大きい。

 結果として、天の身長は彼の腹までしかなく、サイズ感の違いからくる圧迫感はすさまじい。

「いやなに。迷子であるのなら、ヒーローとして見過ごせないと思ってだな」

「うわ! ち、近づくなぁ!」

 視界を埋め尽くす腹筋。

 その迫力に天は彼と距離を取った。

「最近は何かと物騒だからな。不審者から身を守るには筋肉があればどうかと思ったんだ」

「……ひぃ!」

 ドアップで視界に映り込む古舘の顔面に天は顔を引きつらせた。

「というわけで少女。不安な道程。俺と共に歩くのはどうかな?」

「却下だ却下! おまわりさぁぁぁん!」

(これがこの世界の常識だったりしないよな……!?)

 新しい世界が不安になる天であった。

 ――さらなる不安を感じる場面は、すぐ直後に現れるのだが。

「「!」」

 鳴り響く轟音。

 音に反応して天たちが振り返ると――

「なんだ……!?」

 少し離れた場所で黒煙が上がっている。

 砂煙混じりのそれは異常事態を示している。

『――――天宮』

「ぬぉぉ!?」

 いきなり聞こえてくる声に天は跳びあがりかけた。

 緊急事態を前に、思っていたよりも気を張っていたらしい。

「……これか?」

 声が聞こえてきた場所を探し、天が行き着いたのは腕時計だった。

 これはALICEの居場所を把握するためのもの。

 もしもこれから声が聞こえてきたのなら――

「だ、誰だ……!?」

妃氷雨(きさきひさめ)だ。ALICEの指揮官をしている』

(助広のオッサンみたいな感じか……?)

 腕時計から聞こえてくるのは女性の声だった。

 声に覚えがないのでおそらく、まだ会ったことのない人物だ。

 アイドルとしてのレッスンの際、天を指導したのは助広だった。

 つまり消去法的に、妃氷雨が担当しているのは――戦闘。

『《ファージ》が現れた』

「ってことは――」

 天は轟音が鳴った方向へと目を向ける。

 脈絡のない破壊音。

 その元凶の正体が何か天の中で合致した。

『幸い、今のお前がいる位置と《ファージ》の出現地点は近い』

 距離にして数百メートルほど。

 建物の陰に隠れて見えないが、箱庭に比べてはるかに近いのは確実だ。

『無論、増援は送る。だが殲滅は速いに越したことはない』


『天宮天。他のALICEに先んじて、現場に向かえ』


 ついにお出かけ回です。

 箱庭の外にいるキャラの紹介ができたらと思います。


 今回登場したキャラ。

 妃氷雨:箱庭のスタッフの一人。ALICEを戦闘面で支える人物であり、箱庭内の多くの物事を決定する立場にある人物。それなりに頻繁に登場する予定。


 グレイトフル古舘:本名は古舘勲ふるたて いさお。筋トレ動画で有名。ちなみに1章での出番はほとんどない。そもそも、出番はわりと先の話。


 それでは次回は『孤軍奮闘』です。



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