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転生したら赤髪ツインテールでした。しかもトップアイドル。  作者: 白石有希
終章 デッド・オア・ラストライブ
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終章  9話 敵の敵、あるいは

「――――君は」

 助広が目を細める。

 彼にとっても、クルーエルの登場は意外だったのだろう。

 彼の意表を突けた。

 その事実に、わずかながら気分が良くなる。

「こいつが女神とやらか?」

 クルーエルは宝石を指で弄ぶ。

 とはいえ宝石のように指先だけで簡単に砕けたりはしない。

 この石が特殊な力が宿っていることは見れば分かる。

 これが女神の恩恵のための要なのだろう。

「なるほど。運命とは不思議なものだね」

 興味深そうに助広は頷く。

「そうだよ。それが素体。それこそが、女神の力をこの世界に伝えるものだ」

 クルーエルは宝石――素体を見つめる。

「これがあるかぎり、《ファージ》には滅びの道しかないというわけか」

「ああ。だからこそ、素体は君の手に渡ったんだろう」


「世界は言っているんだ。破滅か再生か、君が選べってね」


 助広は笑いかけてくる。

 素体を奪いに来る素振りはない。

 彼女に判断をゆだねるということだろう。

「確かに、女神の干渉が無くなれば私は全盛期の力を取り戻せるかもしれない。そうすれば、今からでも一族の復興は可能だろう」

 全盛期に比べ、クルーエルの力は衰えている。

 たった1年の活動の代償として1000年間の休眠を必要とするほどに。

 それがなくなれば、再び《ファージ》を生み出し、やり直せるのかもしれない。

「特殊な力で守られているようだが、私の消滅の影なら容易く破壊できるだろう」

 素体は並みの力では壊れない。

 だが、クルーエルの能力に強度など関係がない。

 砕くことは簡単だ。

 それを踏まえて――クルーエルは素体を握りしめた。


「赦す。これは――()()()()


 クルーエルはそう宣言した。

「それが、君の運命を鎖すものだったとしてもかい?」

「無論。鎖されたのなら切り開くまでだ」

「一族の復活は望まないのかい?」

「それよりも、まずはお前への嫌がらせを優先させてもらう」

 クルーエルは笑う。

 神楽坂助広への意趣返し。

 それができるのなら、人間の味方でもしてやろう。

 災厄として君臨するのは、報復を終えてからでいい。

「そうか。それが君の答えなんだね」


「――――《極彩色(プリズム・)の天秤(フェアリズム)》」


 助広が能力を起動させる。

 彼が敵として指定しているのはクルーエル。

 二人の間にある力量差が均衡する。

「それじゃあ、素体は僕が壊してあげるよ」

 彼は腰を落とし、十字架を構える。

 そして彼が足を踏み出すと――


「古舘ッ!」


 クルーエルは全力で後方に跳ぶ。

 彼女は一歩で路地の奥にある丁字路まで下がる。

「さすが筋肉でつながれたベストフレンドッ! 息がぴったりだなッ!」

 直後、横合いの道からエンジン音とともにバイクが走り抜けた。

 筋肉質な腕がクルーエルの腰に回され、彼女を戦場から盗み出す。

「しかしクルーエル。先程、女性が倒れていたように見えたが、彼女も助けねばならないのではないか?」

 バイクにまたがった男――グレイトフル古舘はヘルメット越しにそう口にした。

 しかしクルーエルは笑みながら頭を振る。

「構わん。素体を持っている以上、あの男はこちらを追ってくる。あっちはあっちで、仲間が救助に来るだろう」

「なるほどッーー!」

 バイクがさらに激しく唸る。

 彼が前傾姿勢を取ると、バイクはどんどん加速してゆく。

 路地の幅は広くない。

 ゆえに古舘は時折減速しながら、最低限の失速で路地を走ってゆく。

「とりあえずどうするんだ?」

「逃げろ。あの男を討ちたいのは私だけではない。奴を殺すための戦力が派遣されれば、必ず隙ができる。こいつは奴にゲリラ戦をさせないための餌だ」

 クルーエルは素体を見て笑う。

 彼女が素体を持っている限り、助広は彼女を追うだろう。

 素体を隠蔽されないよう、この場で取り返そうとするだろう。

 それを利用する。

 クルーエルを追えば、助広の存在はALICEにも察知されるはず。

 助広がクルーエルを追うように、彼もまた追われる立場となるのだ。

 彼が多方面から狙われるシチュエーションを作ることができるのだ。

「逃げろ――か。なかなかにハードなミッションなようだな」

「?」

 クルーエルは古舘の視線を追う。

 彼はバイクのバックミラーを見ていた。

 そこには――助広の姿が見えていた。

「このバイクに追いつけるとは、良い筋肉を持っているな」

 古舘が乗っているバイクは大型のものだ。

 馬力もそれ相応のはず。

 しかし助広はバイクを追走していた。

「なるほど……『バイクと速力を釣り合わせた』わけか」

 そうやって助広はバイクと同じスピードで走っているのだ。

 ――徐々に彼の姿が近づいてくる。

 最高速は同じ。

 しかし小回りという面では助広が勝っている。

 コーナーを曲がるたび、少しずつだが距離が縮まっているのだ。

「古舘。このままでは追いつかれるぞ」

「そのようだな――何か手を打たねばならんな」

「もっと広くて速度が落ちない道はないのか?」

「近くにハイウェイがあるな」

「……うぇい?」

「広くてスピードの乗る道だ」

「――――赦す」

 クルーエルの声に応じるようにバイクが加速してゆく。

 コーナーを曲がるたびにタイヤが悲鳴を上げる。

 バイクが横滑りしそうになる限界を見極め、古舘はマシンを走らせてゆく。

「――関所があるぞ」

 クルーエルの視線の先にゲートが現れる。

 詳しいことは分からない。

 だが道をふさぐようにゲートが閉じていることから、一気に走り抜けて良いような場所ではないことは察しが付く。

「のんきに切符を買う余裕はないぞ?」

「安心するといい。――――ETCだッ!」

 クルーエルたちはゲートに減速せず突っ込んでゆく。

 センサーが反応したのか、ゲートが少しずつ開き始める。

 だがこのスピードでは開門が間に合わない。

「本来、ダークヒーロー的な行いはNGなのだがッ!」

 古舘が腕を引くと、バイクの前輪が持ち上がる。

 ウイリーしたままバイクはゲートに迫り――跳んだ。

 バイクはゲートの上を飛び越えてゆく。

 一時的な浮遊感。

 バイクが着地するとわずかに姿勢が乱れる。

 それでも古舘は剛腕で車体を制御する。

 数メートルでバイクの挙動が落ち着き、また加速してゆく。

 クルーエルたちの前には広大で長い道が続いている。

「良い場所だな。ハイウェイとやらは」

 ここならば減速の必要はない。

 助広との距離を保つには絶好の場所だった。

「スピードを上げるぞクルーエルッ!」

「分かっているっ」

 振り落とされぬよう、クルーエルは片腕を古舘の腰に回す。

 背後を確認すると、離れることなく助広が追走している。


 バイクは高速道路を駆けて行った。


 戦場は高速道路へ。

 

 それでは次回は『終末のステージ』です。



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