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転生したら赤髪ツインテールでした。しかもトップアイドル。  作者: 白石有希
終章 デッド・オア・ラストライブ
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終章  6話 盤外戦術

「……ワイヤートラップか」

 氷雨は一瞬で、周囲に走る光の正体を看破する。

(防御に徹しながら下がり、ここに誘導していたわけか)

 戦闘中に仕掛けられる規模のトラップではない。

 さらにいえばワイヤーも数種類のものが使用されており、見せるためのトラップと、不意を打つためのトラップが混在している。

 おそらく氷雨をここに誘導するのは既定路線だったのだろう。

「君は戦闘力に頼らない。だから僕とは相性が悪い」

 助広は十字架を振るう。

 十字架にワイヤーが引っかかり、何かが外れる音がした。

 爆発音が鳴ったのは――頭上。

「随分と貧乏臭い戦術を使うんだな」

 建物の壁が崩落し、氷雨たちに降り注ぐ。

「相手がスペックお化けだったらこういう戦法は使えないんだけどね。君にはこういう小細工が通じる」

 氷雨の身体能力は、現在のALICEたちに比べて劣っている。

 それはパワーやスピードだけではない。

 肉体強度にも表れている。

 他のALICEなら問題にならないような普通の爆弾も、氷雨にとっては有効打となりうる。

「君は『技術』という天秤に乗らない要素で僕を殺しに来た。だから僕は『前準備』で君を殺す」

 事前に優位なステージを確保する。

 しかも『対等なステージで能力を発動』させておき、それから自分が有利な戦場へと移動した。

 もし最初からここを戦場として能力を使っていたのなら、助広は『トラップを考慮した上で平等』な戦闘力を手にしていたはず。

 そうしないため、最初はトラップのないクリーンな戦場を選んだのだ。

 そんな仕込みのおかげで、現在の助広はトラップの分だけ氷雨を上回っている。

 この戦法を採用できたのは、一般武器でも氷雨には有効だからだ。

 他のALICEなら無傷とはいかなくとも、一瞬の隙を作り出すのが限界だ。

 しかし氷雨が相手なら、トラップの差が明暗を分けうる。

 もっとも――

「舐めるな」

 自由落下するガレキなど気にも留めない。

 自然な動作ですべて躱す。

 そして、サーベルを振るった。

「!」

「私と同じ肉体強度なら、このトラップの直撃は受けられないだろう?」

 氷雨のサーベルはワイヤーを切り裂いていた。

 トラップが起動する。

 左右の窓ガラスが割れる。

 飛び出してきたのは金属矢。

 後頭部に迫るそれを、氷雨は容易に躱す。

「っ……!」

 だが戦場にいるのは彼女だけではない。

 トラップエリアにいるのは助広も同じことだ。

「危ないなぁ」

 金属矢を助広は躱す。

「トラップを避ける必要などない」

 トラップに気を取られてしまえば、助広に隙を見せてしまう。

 なら――トラップは躱さない。

 むしろ、

「せっかく頑張って仕掛けたんだ。起動しないのは可哀そうだからな。私が片っ端から起動させてやろうか」

 氷雨はさらにワイヤーを断つ。

 そして複数のトラップを起動させた。

「お前の想定していないタイミングで罠を起動させる。そうなれば、お前自身にとってもトラップは牙を剥く」

 そうなれば必要なのは反射神経、対応能力。

 それは氷雨が勝っている部分――経験値の延長線上だ。

「私は発動させるトラップが何か知らない。お前は、自分の意志で発動させていないせいでトラップが起動するタイミングが分からない。さあ――どっちがこのトラップ地帯で長生きできるのか楽しみだな」

 当然、氷雨も無傷とはいかない。

 体を矢が掠める。毒があったのかわずかに体が痺れている。

 液体が顔にかかりかけたので手で防いだ。手の甲の皮膚が溶けた。

 足元からガスが噴き出した。ストッキングが擦れるだけで足に激痛が走る。

 だが氷雨だけではない。

 助広もいくつかのトラップを躱し損ねていた。

 トラップを把握している分、彼女ほどではない。

 それでもいくつか被弾している。

(このままでは私が先に死ぬだろうな……)

 傷は浅い。

 だが、いくつか浴びた薬品がまずかった。

 腕が爛れて握力が落ちている。

 足先からの違和感は少しずつ全身に回り始め、動くだけで体力が削られてゆく。

(まだ動けるうちに勝負を決める)

 氷雨は大きく跳んだ。

 壁を蹴り、助広に迫る。

「さすがに君と接近戦は御免かな」

 助広は氷雨から逃れるように距離を取る。

 ――ワイヤーの一本を断ち切って。

「っ!?」

 氷雨の全身に薬品がぶちまけられる。

 彼女の着地点を狙ってトラップを発動させていたらしい。

「ああ。今のは――」

「うるさい」

 氷雨はサーベルを振るう。

 さっきのトラップの効果など興味はない。

 もう――ここから一歩も動く必要などないのだから。

「ぐッ……!」

 助広が表情をゆがめる。

 先程の氷雨の斬撃が発動させたトラップ。

 それによって射出された金属棒が彼の足首を貫いたのだ。

「なんで――」

 あまりに正確な一撃。

 助広も、それが偶然ではないと悟ったのだろう。

 彼の目が氷雨に向けられる。

「お前は私の移動に合わせ、立ち位置を変えていた。お前のことだ、トラップの位置はすべて把握しているはず」

 氷雨は笑う。

 どうやらさっきの薬品は筋弛緩剤だったようで、立ち上がることさえままならない。

 だが今ので確信できた。

「そして、お前はいつも私の近くにあるトラップに巻き込まれない場所に立っている」


「なら簡単だ。私のいた位置と、その時にお前がいた位置を覚えておけばトラップの安全圏が見える」


 もう、逆算は終わった。

 氷雨はこの場にとどまり、助広へと向かうトラップを起動させていけばいい。

「それにお前はトラップごとに躱し方も微妙に違う。おそらく、殺傷力の高さを比較して、当たっても構わないトラップを選別していたんだろう」

 何度か、助広が他のトラップを無視してでも大きく移動したタイミングがあった。

 彼がトラップに被弾したのは、そういった不自然な回避を行った時だけ。

「おかげで、どのトラップが危ういのかもよく分かったぞ?」

 つまり、そのトラップはダメージを許容してでも確実に回避すべきものだったということ。

「それなら安全圏で、殺傷力の高いトラップを遠隔起動させてしまえば」

 もう動ける時間は少ない。

 だから氷雨は――サーベルを投げた。

 白刃は回転しながら複数のワイヤーを一気に裂いた。

 それらはすべて、助広の立ち位置を狙うもの。

 罠が一気に起動する。


「死ぬのはお前だ」


 ちなみに助広のトラップは、美裂の戦闘記録を参考にしたものだったりします。

 夜中に訓練室でコソ練してました。


 それでは次回は『一瞬の均衡』です。



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