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転生したら赤髪ツインテールでした。しかもトップアイドル。  作者: 白石有希
終章 デッド・オア・ラストライブ
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終章  5話 歴戦

 火花が散る。

 サーベルと十字架がぶつかり合うたび、花火のような光が閃いた。

「っと……!」

 白刃が助広の頬を掠める。

 血が出ないほどの、薄皮一枚を剝ぐような攻撃。

 それでも優位に立っているのは氷雨だった。

「――さすがに相性が悪いね」

 助広は笑みを浮かべているが、最初ほどの余裕はない。

 だが、それでも異常だ。

 十字架などという重量級の武器で、氷雨の連続攻撃をさばいているのだから。

 氷雨の想像より、彼は優れた戦闘センスを持っていた。

「敵の戦闘力に合わせ、自身を強化する能力か」

 だが、それだけのこと。

 攻めているのは氷雨。

 受けているのは助広。

 この構図は変わらない。

「単純な力ならマザー・マリアにも劣らない反面、経験といったプラスアルファを計算に入れられないのは欠点だな」

 予想ほど大きな差ではなかった。

 しかし断言できる。

 戦いにおける引き出しは、氷雨のほうがはるかに多い。

「ッ……!」

 サーベルが助広の肩を掠めた。

 今度は数滴の血液が飛ぶ。

「お前の弱点は2つだ。1つ目は、対等にする対象に『技術』が含まれていないこと」

 続いて、刃についた血を払うかのような横薙ぎの一撃。

 助広はバックステップで間合いから逃れる。

「そして、身体能力のブレが大きすぎることだ」

 氷雨は膝を曲げ、前方に体を傾ける。

 そのまま勢いよく膝を――途中まで伸ばす。

「!」

 十字架が氷雨の鼻先を掠める。

 彼女の動きを読んでいた助広が、彼女が迫るタイミングを狙って十字架を振るっていたのだ。

 だが、助広の読みさえも氷雨は読み切っていた。

 彼女が途中で加速をやめたことで、助広のスイングは空振りに終わったのだ。

「お前は敵の強さに合わせて、戦闘力が上下する」

 氷雨はまだ膝を伸ばしきっていない。

 ほんの少し。

 下半身に残ったわずかな力をかき集め、氷雨は再び加速する。

「言い換えれば、お前の体と感覚が完全に馴染んではいない」

 空振りで隙のできた助広。

 氷雨は彼の懐に入り込んだ。

 彼女はそのまま最速の一撃を振るう。

「っつ」

 助広は足元のコンクリートを砕くほどの勢いで距離を取る。

 仕切り直しのつもりか。

 助広は10メートル近い間合いを確保した。

「本来、私たちは戦いの中で『自分に出来ることと出来ないこと』を正確に理解してゆく。その誤差を削ってゆく作業こそが訓練だ」

 雑に言ってしまえば、戦いの手段など攻撃・防御・回避・カウンターくらいしかない。

 それらをジャンケンのように選択し、戦うのだ。

 読みあいを制し、相手の取った手段に優位な行動をする。

 より精度の高いパフォーマンスで、同じ手の相手を押し切る。

 戦いというものを簡略化したのなら、そういう話になってくる。

「だがお前の場合、出来ることの変動が大きすぎる。戦うたびに別人のような戦闘力を振るうことになるのだからな」


「ゆえにお前は、身体能力を100%活かしきることができない」


「生来のセンスのおかげか、大きく綻ぶことはない。しかしお前は、皮一枚を争うようなギリギリの立ち回りができない」

 妃氷雨は、己の全力を理解している。

 全力で踏み込みながら攻撃したとき、己の間合いはどれくらいか。

 自分の体格とスピードなら、どれくらいの密度の攻撃までなら体を滑り込ませられるのか。

 それは計算ではなく直感で理解している。

 だが、助広にそれはない。

 一定した力を持たないからこそ、全力で攻撃したときの間合いを正確に把握していない。

 自分の力の、速度の限界を知らない。

 彼にとって限界とは、固定のものではないからだ。

 敵次第で、いくらでも変動するものだからだ。

「お前を倒すのに必要なのは戦闘力ではなく、完成度」

 ゆえに、そこが穴となる。

 ほんの数ミリかもしれない。

 だが、助広のその領域に踏み込めない。

 己を知らないからこそ、未知の領域に触れられない。

 だが氷雨は違う。

 その1ミリを争う世界で戦える。

「はは……!」

 助広は笑う。

 いつものへらりとした笑みではない。

 本当に面白そうに、腹を抱えて笑う。

「やっぱりだ」

 彼は口角を吊り上げ、十字架を肩に担いだ。

「正直、今回の戦いで一番苦戦するのは君だと思っていたよ。だから最初に殺しに来たんだ」

 十字架が路地の壁を削ってゆく。

 砕けたコンクリートの破片とともに埃が舞う。

「それは良い判断だったな。最後の最後に計画が頓挫したのでは、さぞ悔しいだろうからな。どうせ夢破れるなら、早いほうが良いだろう」

 氷雨は嘲笑う。

 己の優位を示すように。

「――苦戦するとは思ったけど、所詮は決まりきった勝利に飽きないためのスパイスみたいなものだよ。ただの作業じゃ眠くなっちゃうからね」

 助広も笑みを崩さない。

 まだ、優位と誇るには早すぎると釘を刺すように。

「口の減らない男だ」

 氷雨はサーベルを構える。

 足を擦るようにして間合いを調節する。

 助広の攻撃が届かないギリギリの間合いまで。

 無言の間。 

 だが漫然と時を過ごしているのではない。

 今、二人の間ではいくつもの読み合いが行われている。

 時折、氷雨は鼻先で助広の間合いを撫でる。

 そうやって助広の反応を引き出す。

 ほんのわずかでも、彼の不用意な対応を見せたのなら――

「!」

 繰り返される間合いの衝突。

 その中で、一瞬だけ綻びが見えた。

 一向に始まらない攻防の中、助広の対応がほんのわずかに気を抜いた。

 連続したやり取りに『慣れ』が見えた。

 どうせ今度もフェイクだろう。

 そんな思考が、わずかに対応を甘くした。

 それを氷雨は見逃さない。

 彼女は一気に助広の有効射程よりさらに内側に滑り込む。

「口が減らない、ねぇ。そういう君は手が減らないね」

 助広は十字架を盾にして攻撃をやり過ごす。

「負け惜しみか? お前が手も足も出せていないだけだろう」

 氷雨は刺突を中心に攻撃の手を休めない。

 突きというのは有効打となる部位は少ない。

 ほんの一点しか攻撃できないのだから当然だ。

 同時に、防ぐ側にとっても厄介なのが刺突である。

 スイングの延長線上で待ち構えていればいい斬撃とは違う。

 敵の狙う一点を読み、そこを正確に防がねばならないのだから。

「どうしたんだ? 攻撃してきても構わんぞ?」

 氷雨は同じ個所を狙わない。

 刺突を繰り返しながらも、狙う部位は不作為に。

 そうやってガードを揺さぶり、突破口をこじ開ける。

「構わないさ」

 助広は十字架で刺突を防ぐ。

 彼は寸分違わず正面からサーベルを受け止めた。

 一瞬の均衡。

 そのタイミングを狙い、助広は十字架で勢いよく地面を叩いた。

「ちっ……」

 地面が砕け、煙幕のように砂利が舞う。

 これでは手痛い反撃を喰らいかねない。

 氷雨は舌打ちすると、いったん距離を取った。

「ほら。感じるかい?」

 砂煙が晴れてゆく。

 そこにいたのは、両手を広げて微笑む助広。

 彼は愛おしむように宣言する。


「ほら――天秤が釣り合ってゆくよ」


 路地裏に、幾条もの光が走った。


 助広の能力は『いつも通り』がなく、全力の出力も毎回のように変動します。

 そのためかなりのセンスがなければ転んだりして上手く戦えません。


 それでは次回は『盤外戦術』です。



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