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8章 エピローグ3 喰らった屍の上でオレたちは生きている

「ん……んっ……」

 周囲で巻き起こる騒音に促され、グルーミリィは目を開けた。

「んだ……こりゃ?」

 世界が崩れ始めている。

 影の城が砕け、夜空が割れている。

「どうもこうもないさ」


「世界が終わるんだ」


「……お前」

 グルーミリィは声のした方向を見る。

 そこには地面に倒れ伏したジャックがいた。

「……生きていたんだね。ミリィちゃん」

 ジャックがそう言った。

 現在、グルーミリィの両脚は千切れ落ちている。

 内臓も破裂しており、口からは血がこぼれている。

 生きてはいるが、死は近い。

「てめぇこそ……よく死んでねぇな」

「だよねぇ……」

 一方で、ジャックもひどい有様だった。

 彼の体は、脇腹がごっそりと抉られていた。

 少し揺らせば胴体が千切れそうなほどだ。

「ちっ……どっちも致命傷かよ」

 グルーミリィは床に寝転がる。

 見れば分かる。

 二人とも致命傷を負っている。

 もう死を待つばかりだ。

「ここが崩れるってことは……陛下は死んじまったのか?」

「いや。それなら、僕たち《ファージ》は死んでいるさ」

 グルーミリィたちはクルーエルによって作り出された。

 だからこそ、クルーエルが死ねばグルーミリィたちも死ぬ。

 死にかけとはいえ、彼女が生きていることこそがクルーエルの生存を証明していた。

「なら陛下は逃げられたってことか……」

「多分ね」

 この世界を破壊したということは、助広を打倒できなかったということ。

 すべてを投げ打たねばならなかったということ。

 それでも、クルーエルは生きている。

 それだけで良かった。

 彼女が生きているのならきっと《ファージ》という種族は終わらない。

 衰退しようとも、いつかやり直せるはずだ。

「ねえ、ミリィちゃん」

「あ?」

「提案があるんだけど」

 ジャックがそう切り出した。

 提案。

 正直、彼の提案がロクなものだった試しがない。

「こちとら死にかけてんだ。もしくだらない話だったら――」


「僕を、食べて欲しい」


「…………は?」

 グルーミリィは思わず聞き返す。

 あまりにも突拍子のない話だったから。

「んだよ。こんなタイミングでも性的に喰えだのふざけたこと言うつもりか?」

「いや。そのままの意味さ」

 ――僕を、()()()()()()()()()()

「…………」

「分かるだろう? このままなら、僕たちはどちらも死んでしまう」

 ジャックが微笑んだ。

「でも、君は違う。君が僕を食えば、生命維持くらいはできるはずだ」

「お前……」

 グルーミリィは言葉を失った。

 一方で、ジャックは語り続ける。

「1人生き残るか、誰も生き残らないか。迷う必要はないじゃないか」

 ジャックは崩れる世界を見上げていた。

「だから、君だけでも生き残って欲しい」


「生き残って、助けて欲しい。僕たちの家族を」


 きっとクルーエルはまだ生きている。

 おそらく、神楽坂助広も。

 まだ何も終わっていない。

 戦いは続いているのだ。

「……分かった」

 グルーミリィは身を起こす。

 そして地面を這い、ジャックへと近づく。

 血の跡を残しながら這いずり、やっと彼の下へとたどり着く。

 二人の視線が交わった。

「やっぱり、ミリィちゃんは可愛いねぇ」

「こいつを見ても……そう言えるのかよ?」

 グルーミリィが嗤う。

 釣り合があった口が裂け、巨大化してゆく。

 口から黒い化物が現れ、一口でジャックを飲み込めるほどの大口が開かれた。

「ふふ……」

 奈落のように終わりの見えない口腔を覗き、ジャックは笑う。

 こんな化物じみた姿を見て、それでも笑う。

「ああ。可愛く見せようとする子より、君みたいに大口で食べ物を頬張るような飾らない子が、僕は好きだよ」

「そうかよ……」


「ありがとな」


 告げるのは感謝。

 命を分けてもらうという行為。

 使命を継ぐという覚悟。

 再び、家族のために戦えるという喜び。

 それらを込めた感謝だ。

「ああ……僕は好きだったんだ。いつだって食べ物への感謝を忘れない。そんな君の律儀なところがさ」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ」


「こいつは、家族に向けての感謝だ」


 家族。

 クルーエルが母であるのなら、きっとグルーミリィたちは姉弟だ。

 友情なんてものは存在しないと思っていたが、それは思い違いだったらしい。

「――――いただきます」

 大口が、一気にジャックを呑み込んだ。

 苦しませぬよう、一瞬で。

 ――感じる。

 彼の体が己の血肉になっていくのを。

 千切れ落ちた手足が再生してゆく。

 体は生きることを思い出してくる。

「それじゃあ――」

 グルーミリィは立ち上がる。

 すでに世界は終焉が近い。

 もう数分ともたないだろう。

 グルーミリィはゲートを開く。

 人間の世界へと続くゲートを。

「一緒に、守りに行こうぜ」


「オレたちの、大切な家族を」


 グルーミリィが最終章に参戦します。


 それでは次回は『影は潜む』です。

 次話より終章がスタートします。


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