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8章 14話 運命と誇りの天秤4

(厄介だね)

 助広は十字架を振るう。

 一閃で《ファージ》が数体吹き飛んだ。

 しかしそれはグルーミリィが呼び出した《ファージ》の一部に過ぎない。

 視界を覆うほどの《ファージ》が助広に殺到する。

「っと」

 助広は首を傾けた。

 頬に赤い線が引かれる。

 《ファージ》の壁の後ろから、流星が放たれたのだ。

(彼女たちのフォーメーションは、前衛・中衛・後衛に分かれる)

 本来なら独立独歩の《ファージ》。

 しかし彼女たちは今、助広を前に連携攻撃を行っていた。

(グルーミリィは中衛。離れた位置で《ファージ》を召喚して、僕の視界をふさぐ。同じく中衛を務めるレディメアは、僕の視覚に潜り込んで《ファージ》の壁ごと僕を攻撃)

「はぁぁッ!」

 助広は床に十字架を突き立てる。

 そして、そのまま力任せに振り上げる。

 床が抉れ、大量の礫となり放たれた。

 方向を搾った攻撃が《ファージ》の包囲網を貫く。

「ちっ……!」

 崩れた包囲網の先で、グルーミリィが舌打ちをした。

 どうやら運良く、彼女に通じる場所を突破できたらしい。

「まずは一人目といこうか」

 助広は駆けだした。

 現在、助広は彼女たち5人と拮抗している。

 逆にいうのなら、5人のうち1人でも殺せたのなら一気に優位になる。

 誰でもいい。

 できるだけ手近なところから数を削ってゆく。

「正義は悪を見逃さんぞッ!」

 横から割って入ってきたのはマスキュラだ。

 グルーミリィを狙うはずだった攻撃は、マスキュラによって防がれる。

(前衛はマスキュラ。シンプルに速くて固い。でも、シンプルゆえに面倒だね)

 彼だけは助広の一撃を受けても簡単には崩れない。

 マスキュラは肉壁だ。

 他の味方を助広の攻撃から守る盾だ。

鈍重ならやりようもあるのだが、案外と彼は素早い。

彼のガード領域から外れてしまった《ファージ》から狩るという手法は難しそうだ。

「ならこっちは、よりシンプルな暴力だ」

 助広は一歩だけ下がる。

 それは逃避ではない。

 より力を込めた一撃のため、間合いを確保したのだ。

 助広は、ここにいる《ファージ》すべてを総合しただけの戦力を持つ。

 なら、万全の一撃をもってしてマスキュラを殺せぬはずもない。

 盾が邪魔なら、盾を砕けばいい。

 それだけのことなのだ。

「ここだ」

 マスキュラのガード下――腹へと狙いを定める。

 そして――

「赦さん」

 影に阻まれた。

 クルーエルの手から伸びた影の刃は、蛇のように助広を襲う。

 動きが読みづらく、防御するわけにもいかない。

 そうなれば必然的に、余裕を持った回避が必要となる。

 助広は一度、大きく距離を取った。

(中衛の中で一番厄介なのがクルーエルだ。上手いこと他のメンバーの隙を埋めてくる。それに消滅の影は戦力差があまり影響しないからね。無視できないから、それが狙いと分かっていても彼女の攻撃が来たら離れるしかなくなる)

「《死ね》」

 着地と同時に、助広へと黒い弾丸が迫る。

 射手はジャック。

 彼が手で作ったピストルから放たれたものだ。

 あれを受ければおそらく即死だ。

「死としての効果に限定したら、無生物で防げてしまうじゃないか」

 助広は十字架で死の弾丸を防ぐ。

 当然、生物ではない十字架は死になどしない。

 あれがもし『壊せ』などの言霊だったのなら、他の対応が必要だっただろう。

 一方で『死』の言霊は掠れば終わりだが、対処法そのものはある。

「今のは悪手だったね。僕なら――」

「そうでもないさ」


「ガードで足が止まっているよ?」


 ジャックはそう告げる。

 どうやら彼の目的は助広を殺すことではなく、助広を守勢に回らせることだったらしい。

 盾にした十字架越しにクルーエルが見えた。

 彼女は影の太刀を腰だめに構えている。

「逃がさないよ」

 聞こえたのはレディメアの声。

 同時に、助広の左右が岩壁に阻まれる。

 レディメアが創造により、助広の逃げ場をふさいだのだ。

「終わりだ」

 横一閃。

 クルーエルが影を振り抜いた。

 影はスイングとともに伸び、大きく間合いを広げる。

(左右。背後、上も駄目だね)

 それぞれ、岩壁が助広を拒んでいる。

 しかし留まれば、影の斬撃は助広を両断することだろう。

「なら下だ」

 助広は足踏みで床を踏みぬいた。

 全身を包む浮遊感。

 重力に従い、彼の体は階下へと落ちていった。



「下に逃げたみたいだね」

 ジャックは地面をのぞき込む。

「下から奇襲でもしかけるつもりかな?」

 床が砕かれたことによる砂埃で、様子は分からない。

 階下から気配は感じないが、助広があれで死ぬとは思えない。

「――そこで待っていろ」

 クルーエルが踏み出す。

 もしも助広が奇襲の気をうかがっているのなら。

 待つ義理はない。

 彼女は床に空いた穴へと歩みだす。

「いや陛下ッ! ここは俺が行こうッ! 正義を解さない悪人のことだ。下の階の天井に張り付き、我々が穴に近づくのを待っているかもしれないからなッ!」

「……赦す」

 マスキュラの提案にクルーエルは許可を出す。

 彼の言う通り、助広が穴から落ちたとは限らない。

 落ちたふりをして、絶好のタイミングを待っている可能性もある。

「悪人討つべしッ!」

 マスキュラは一気に跳んだ。

 そのまま床の穴の手前あたりに――拳で着地した。

 パンチによってさらに床が崩落する。

「こんな穴を覗き込むなどという愚行、正義は犯さんッ!」

 階下の状況を確認するため、穴を覗き込めば隙となる。

 なら穴を広げてしまえばいい。

 天井に張り付いて隠れているのなら崩落に巻き込まれる。

 そうでなくとも、穴が広がれば隠れる余地はなくなる。

 助広がどんな策を弄していたとしても対応できる手段。

 そう思われたが――


「ああ……。やっと天秤が傾いた」


 声が聞こえた。

 聞こえたのは――上からだ。

「ごめんね。隣の部屋の天井。壊して来ちゃった」

 男――助広が落ちてくる。

 彼は下に落ちてからすぐ、隣の部屋に移動していたのだ。

 そして隣の部屋の天井を打ち抜き、隠れて上がって来ていた。

 そのままさらに上のフロアへ同じ手段で向かう。

 助広はそうして今、クルーエルたちの頭上を取っていた。

「これで――」

 助広の着地点にいたのは――マスキュラ。

 彼は階下にいるであろう助広を探すため、下を向いている。

 その姿はまるで、ギロチンに首を差し出しているかのようだった。


「まずは一人目だ」


 忠告する間もなく、マスキュラの首は十字架に斬り落とされた。


 助広と《ファージ》の戦いは続きます。


 それでは次回は『運命と誇りの天秤5』です。



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