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8章 13話 運命と誇りの天秤3

 横薙ぎに十字架が振るわれる。

 それに対してマスキュラは腕を交差させ――

「正義は決してぐほぉぁッ――!?」

 ――上半身だけが吹っ飛ばされた。

 残された下半身が膝をついて崩れ落ちる。

「なんか開幕一発で死にやがったぞ」

「まあ、アレは一回死んでからが本番みたいなところあるしねぇ」

 同族の死を前にして、グルーミリィとレディメアは暢気な言葉を交わす。

 マスキュラ・レスリング。

 彼の能力は、倒れた状態でテンカウントを終えられてしまうと死ぬというもの。

「ファイブゥゥゥゥッ!」

 そして、一度だけファイブカウントで蘇生できるというもの。

 そうやって蘇生された彼は、以前とは比べ物にならない強靭さを得る。

 能力の持続時間は一時間。

 だがそれに見合う戦闘力を有している。

「正義に歯向かうとはッ! さては貴様、悪だなッ!」

 マスキュラは叫ぶ。

 彼の肌は黒く染まり、6本の腕が掲げられている。

「正義だとか悪だとか、そんな差別主義者と一緒にされるのはごめんだね」

 マスキュラの変貌にも同様なく、助広は笑っていた。

「あの筋肉馬鹿はともかく。あんなの喰らったら、オレたちは一発でお陀仏だろうな」

 グルーミリィは助広から軽く距離を取る。

 強化前とはいえ、一撃でマスキュラを殺したのだ。

 クルーエルはともかく、肉体強度で劣る他のメンバーは喰らった部位次第では即死だ。

「そもそも、現実世界じゃアタシの能力は使いにくいんだけど」

 レディメアはため息を吐く。

 彼女の能力は夢。

 夢に敵を閉じ込め、夢の中でならあらゆる創造を可能とする力。

 しかしここは現実の世界。

 夢による干渉を受けづらいのだ。

「なら僕が整えてあげるよ」

 そう宣言したのはジャックだ。

 彼は口の端を吊り上げ――唱えた。


「《侵蝕せよ》」


 世界が一変する。

 景色は変わっていない。

 だが――鳥肌が立った。

 グルーミリィは本能で察知する。

 世界の摂理が歪んだことを。

「ここを中心とした半径500メートルの空間を『夢の世界と再定義』しておいた。能力の制限はもうないよ」

「ありがと――っと!」

 レディメアの背後で星がきらめく。

 それは流星となり、助広を狙う。

「おっと」

 助広はその場で跳んだ。

 流星は彼の足元をすり抜け、射貫くことはない。

「すばしっこい奴だな」

 グリーミリィは笑う。

 助広が躱した流星は、そのまま彼女を目指して飛来する。

 しかし彼女は回避動作に移らない。

 ただ口を開いた。

「ま、すぐに食い殺してやるさ」

 グルーミリィの口が巨大化する。

 厳密に言えば、彼女の口から『口の化物』が出てきた。

 大きく開かれた口腔から、黒い化物がせり出し――流星を飲み込んだ。

 空間ごとの捕食。

 それこそがグルーミリィの能力。

 そしてもう一つ。

「最期にこれでも食らってやがれ」

 グルーミリィの掌が裂け、口が現れた。

 ――彼女の『胃袋』は異空間となっており、彼女が作り出す口の奥で共有されている。

 グルーミリィの掌から流星が放たれる。

 先程、口から飲み込んだ攻撃を、掌の口から吐き出したのだ。

 それにより、流星が折り返すような軌道で助広を狙う。

「まだまだだよ」

 しなるような勢いで振るわれる十字架。

 たった一振りで助広は流星を一掃する。

「とんだフィジカルゴリラだぜ」

 風圧でグルーミリィの金髪が揺れた。

 空中で、崩れた姿勢で振るった一撃の威力がこれなのだ。

 直撃したら致命的だ。

「僕の《極彩色(プリズム・)の天秤(フェアリズム)》は、僕と敵を平等にする」


「今の僕は、君たち5人分の戦闘力を持っているんだ」


 助広は笑う。

 彼の能力は、敵と同じレベルにまで戦闘力を引き上げること。

 どうやらそこには『数の不利』も含まれているようで、彼はこの場にいるグルーミリィたち全員の総合計に近い戦闘力を有していた。

「なるほどな」

 上から声が聞こえる。

 それは、助広の頭上を位置取っていたクルーエルの声。

 彼女は天井に張り付き、助広を見下ろしていた。

「だが5人分とはいえ、5人ではないのだろう?」

 クルーエルの掌で影が収束する。

 影は形を変え、糸のように伸びる。

「危ない、危ない」

 幾条もの影を、助広は横に跳んで躱す。

(そうだ。こいつの戦闘力がオレたちと拮抗していたとしても、アイツが一人であることに変わりはない)

 腕は2本。足も2本。

 360度見えているわけではない。

 そうなれば――

(囲めばそのまま殺せる)

 戦闘力が同じだとしても、そこに連携というプラスアルファがあったのなら。

 勝敗を決めるには充分だ。

(それにこいつは『身体能力を上げてバランスを取る』ことしかできねぇ)


(勝機があるとしたら『オレたち固有の能力』だ)


 助広は彼女たちと同じくらいの力がある。

 だが、同じ力ではない。

 空間ごとの捕食、夢を操ること、言語の現実化、一定条件下における強制死亡、消滅の影。

 そのどれ一つとして持たないのだ。

 そこに勝機がある。

(そうと決まれば、出し惜しみなしだな)

 レディメアは立ち止まる。

 そして、


 ――そこら中に口が開いた。


 口の中から大量の《ファージ》があふれてくる。

 その数は10や20では終わらない。

「幼女の口から出たモンに殺されるんだ」


「本望だろ。オッサン」


 よく考えると、実はグルーミリィの能力を語るのは初めてだったりするかもしれません。


 それでは次回は『運命と誇りの天秤4』です。



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