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8章 11話 天とマリア

「……どうしたんだよ。いきなり呼び出して」

 天は草原にいた。

 無限に広がる草原に、異世界を内包したシャボン。

 ここは最果ての楽園。

 女神マリアが住まう世界だ。

 天は今日、彼女からのメッセージを月読を経由して聞いた。

 それに従う形でここまで出向いたのだ。

「ていうか、まだ素体の封印解けないのかよ。見たら解けるんじゃなかったのか?」

 天はマリアに聞いた。

 彼女の話では、素体の封印を解くことそのものはそれほど難しくないようだった。

 そして今、天たちは素体の確保に成功している。

 本来なら、今頃は封印の解除は終わっているべきなのだ。

「いやぁ。実は想定外が起こっちゃって☆」

 責めるような天の視線に、マリアは小さく舌を出す。

「想定外?」

 天は首を傾ける。

 封印など、素体についてのことはよく分からない。

 だから彼女には、マリアがなにをもって想定外と評しているのかも分からないのだ。

「あの――神楽坂。だったっけ? 彼の能力だよ」

 マリアはそう言った。

「敵と同じ強さになれる。それが封印の強度にも直結しちゃってるんだよね」

 神楽坂助広の《不可思技(ワンダー)》は《極彩色(プリズム・)の天秤(フェアリズム)》。

 どうやら敵対者と対等になるまで自分を強化する能力――らしい。

「アタシを対象にして、()()()()()()で封印されてる。だから解くのに手間取っちゃってるんだよね☆」

 人間。あるいはALICE。

 それらが全力を振り絞ろうとも、女神の力にはかなわないだろう。

 ゆえにマリアは封印を容易く解ける前提で話を進めていた。

 しかし想定外が1つ。

 それは助広が、一定条件下であれば神に匹敵する実力を発揮できること。

 神を敵と設定した彼は、神の実力で封印術を行使したのだ。

「マジかよ」

 天の表情が険しくなる。

 マリアの助力が得られると思っていただけに、その誤算は痛い。

「で。いつまでに解けるんだ?」

「んー。あと1週間は欲しいかなぁ☆」

「まあ1週間なら大丈夫……なのか?」

 1週間。

 長いようで短い。

 今から1週間の間に大きな戦いが起こる可能性は低い。

 しかし、もしも起こってしまえばマリアは間に合わないということだ。

「てか、なんで俺たちが素体を預からないといけないんだ? こっちの世界に持ってきたら奪われる心配もないのにさ」

 天は疑問を投げかける。

 現在、素体は財前邸で保管されている。

 女神の素体。

 あれを壊されてしまえば、世界にとって致命的な事態になるという。

 それならば、さっさとこの世界に避難させるべきだと思うのだが。

「素体はアタシと『入れ替わる』ための体だからね。こっちの世界に……厳密に言えば、アタシと素体が同じ世界に存在できないように作ってあるんだよ」

 マリアの答えはこうだった。

 システム、あるいは構造上の限界。

 そう言われてしまえば言い返しようがない。

「不便なもんだな」

 どうやら天たちが素体を守るというのは確定事項のようだ。

「そういえば、ライブはいつあるの?」

 マリアがふとそんなことを言い出した。

「ん? 3周年記念ライブのことか?」

「そぉそぉ」

「あー。ライブは1か月後だよ」

「へぇ」

 マリアが呟く。

 3周年記念ライブが催されるのは4月。

 今が3月であることを思えば、順当に近づいてきている。

「それまでに世界が救われると良いねぇ☆」

「それをしてくれるのが女神じゃないのか?」

 天は問う。

 女神とは、人間を救うために動いているという認識だったのだが。

「アタシは背中を押すだけだよ☆」

 マリアの答えはこうだった。

 彼女は笑顔を向けてくる。

「どうしても仕方ないときは助けてあげるけど。基本は自助努力。天ちゃんたちが自分の手で守り抜かなきゃ」

「……違いないな」

 天は納得する。

 不平等。

 なにも助広の言い分に賛同するわけではない。

 しかし、最初から神頼みというのも筋違いだろう。

「好きな女を守るのに他人を頼ってるんじゃ、カッコつかないよな」

 天にも守りたい少女がいるのだ。

 大切な人を守れる。

 その役目を誰にも譲りたくないと思える相手が。

「え。天ちゃんってガチレズ?」

「元の性別知ってるよなぁッ!?」

 そもそも天は男である。

 女が好きだったとしてレズと呼ばれる筋合いはない。

 むしろ妥当な嗜好だと思って欲しい。

「えー。そんなに可愛いのにぃ☆」

「お前が作った体だろ」

「隠れ巨乳なのにぃ。男の人が好きそうな体にしたのにぃ☆」

「それはマジで許さねぇ」

 胸に関しては蓮華サイズで構わなかったのだが。

 ――などと言えば蓮華から殴られそうだ。

「――ねぇ天ちゃん」

「なんだよ。話題を逸らそうとしても――」

「天ちゃん」

 マリアが天の声を遮る。

 その声音は、少しだけ真剣みを帯びていた。

「…………なんだよ」

 なんとなくマリアが語る内容が真剣なものであることを悟り、天は聞き返す。

 きっと、今から話すことこそが天をここに呼んだ理由なのだろう。

「さっき言ったよね。自助努力って」

 マリアは微笑む。

「アタシは人間の味方だよ? でも、だからこそ人間には自分の力で勝って欲しいんだよね」

 マリアは語る。

 きっとそれは当然のこと。

 自分で自分を助ける。

 その姿勢を忘れてしまえば、きっと人は堕落してしまう。

 確かに、ただの人間が世界を救うなど無理だろう。

 だからマリアが背中を押した。

 それでも自分自身で未来を切り開くという考え方そのものを失ってはいけない。

 たとえ与えられただけの武器だったとしても、それを振るう意思は自分で研ぎ澄まさねばならないのだ。

「そこで天ちゃんに提案です☆」


「アタシと修行しよ☆」


 マリアは軽快にそう言った。

「修行って……訓練なら毎日やってるけど」

 修行。あるいは訓練。

 それは当然のように天もしている。

 最近はいつもより念入りに。

 だから今さらになって修行をしようと提案されても困るという思いが強い。

「でも、それじゃ全然間に合わないよ」

「………………」

 マリアが告げたのはある意味で真実。

 そして、残酷な事実。

「天ちゃんも、本当は分かっているんでしょ?」

「……ああ」

 苦々しく天はそうこぼした。

 修行はしている。

 個人技も、連携も。

 きちんと磨き上げている。

 だが、その歩みは速いとはいえない。

 本来、訓練は地道なものだ。

 しかし間に合わないことも理解していた。

 今の天たちには、いくら時間があっても足りないくらいなのだ。

「アタシが、天ちゃんを強くしてあげるよ」


「世界を救えるくらいに」


 それらの事実を踏まえ、マリアは提案しているのだ。

 一足飛びの成長を。

 決戦までに間に合わせるための修行を。

「……ありがたいけどさ。他のメンバーにはやらないのか?」

 とはいえ疑問はある。

 ALICEは天だけではない。

 アンジェリカ。美裂。彩芽。氷雨。

 マリアとの関係の深さを考えても、蓮華や月読までも除外する理由が分からない。

 なぜ天だけでなければならないのか。

 その妥当性が見えなかった。

 なぜ天だけを呼び出さねば――

「うん。天ちゃんだけ。1番の伸びしろがあるのは天ちゃんだからね」

「伸びしろ?」

 天は首をかしげる。

 確かに、加入がもっとも遅かった天は一番実戦経験が少ない。

 そう言う意味では伸びしろがあるといえるかもしれない。

 しかしそれが、そこまで劇的な差異であるとは思えないのだが。

「そう。伸びしろ」


「だって天ちゃん」




「――まだ《不可思技》を使ってないでしょ?」


 次回は、多分気付いている人も多かった伏線回収となります。


 それでは次回は『本当の力』です。



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