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8章  プロローグ 新しい拠点

「…………優雅だな」

 天は紅茶を口にした。

 窓から外を眺めれば、そこには庭園が広がっている。

 彼女がいるのは財前貴麿が所有している邸宅だった。

 ――助広の離反。

 あの後、戦いの余波で箱庭は崩壊したという。

 修復には最低でも1年はかかるそうだ。

 そんな時、ALICEの新しい拠点として別荘を提供したのが財前貴麿というわけだ。

 ALICEの事情を知っていて、なるべく彼女たちの活動を補助できる存在。

 そう考えた時、彼が最有力であることは必然であった。

 ゆえに今、ここはALICEの新しい拠点となっている。

「とはいえ、優雅にお茶するだけってのもダメか」

 依然として、天たちはアイドルとしてのレッスンを積んでいる。

 この屋敷には防音設備や、広い部屋も多いため問題はなかった。

 とはいえ、アイドル活動だけというわけにもいかない。

 こんな時だからこそ、天たちは力を蓄えなければならないのだから。

「そういうことなら大丈夫ですよぉ」

 そんな声とともに、空になったカップに紅茶が注がれた。

 いつの間にか天の隣に立っていたのは、メイド服を着た童顔の少女――財前八千代であった。

 ――彼女は貴麿の妻らしいのだが、いまだに信じられないでいる。

「……何が大丈夫なん……ですか」

 天は一瞬言葉に詰まる。

 どうにも、八千代が年上だという事実に慣れていないのだ。

 八千代の容姿は、胸元の発育を除けば小学生くらいにしか見えないからだ。

 そんな天の戸惑いをよそに、八千代は微笑む。

「ここには仮想訓練場もあるので、自由に使ってもらって大丈夫ですよぉ」

 仮想訓練場。

 それは箱庭にも存在していた設備だ。

 限りなくリアルなヴァーチャルによる訓練。

 天たちは時間の合間を縫い、そこで戦闘技術を磨いていたのだ。

 とはいえ現代において明らかにオーバーテクノロジーだったあの部屋がこの屋敷にも存在していることに違和感がある。

(やっぱ筆頭株主となると、そのあたりの技術提供もあるのか……?)

 財前貴麿は筆頭株主。

 金銭面において、箱庭の運営にもっとも貢献している人物といえる。

 だからこそ、箱庭が開発した技術の一部を還元されているのかもしれない。

「……なんでこんなところにそんな技術があるんだ……?」

 しかし疑問も残る。

 そもそも、ここに訓練室が必要であったかということだ。

 箱庭に訓練室は必須だろう。

 だが、この邸宅のどこに必要なのか。

 仮想であるからこそ、運動不足の解消にさえならないというのに。


「えっとぉ……実は、元々その部屋は私たちの()()でしてぇ……」


「やっぱり聞きたくないっ!」

(夜の訓練に使われてたぁ……!)

 天は全力で耳をふさいだ。

「すごいですよねぇ。あそこって痛覚設定を変えたら、痛みを感じなくなったり……敏感にもなっちゃいますし」

「!?」

 天の脳裏に映像が浮かぶ。

 仮想世界により、そう……バニーガールの衣装へと着替えさせられた八千代。

 羞恥する彼女に軽く触れただけで、彼女は身を跳ねさせる。

 それにともない、体型からはアンバランスにも思える果実もぽよんと――

「アウトォォォォッ!」

「?」

 天は思わず叫んでいた。

 あまりにも犯罪的な絵面であった。

(そういえば前……俺が妻と似てるとか言ってたよな?)

 初めて貴麿と会った時のことだ。

 彼は天に対し、そんな言葉をかけていた。

 当時は年齢差のことだけを考えて恐怖していたのだが――

 天は八千代を横目で観察する。

 身長は女子として見ても小柄――天と一致。

 にもかかわらず、胸元の発育は良い――天と一致。

 美少女――自分で言うのもなんだが、一致しているだろう。

(俺、マジであの爺さんの好みと一致してる!?)

 強いていうのなら、天と八千代は美少女としての方向性が違う。

 八千代はほわほわとした癒し系だ。

 おっとりとした、小動物を思わせる美少女。

 一方で、天にはあまりそういう印象は抱かれないだろう。

 元々が男ということもあって仕草における美少女成分は薄い。

 顔立ちや態度からも、勝気な性格と思われるのが一般的だ。

 美少女というカテゴリーに分類されたとしても、二人を好む層は必ずしも一致するとは限らない。

 考えようによっては、貴麿が八千代を愛しているのは性格による側面が大きい可能性も――

(か……体で家賃を払わされる……!)

 ……残念ながら、年齢が3分の1以下なロリ巨乳を妻にしている男の目を信じることはできなかった。

(こ、これでも人気アイドルの一人だし……い、一回で……。いや、こんな豪邸の家賃だぞ……? もしかして……一日に一回……!? 下手したら仮想訓練室でトンでもないプレイを――)

「そういえば天ちゃんのライブ衣装。実はここの衣装室に保管されているんですよぉ? 今度、一緒に着てみませんかぁ?」

「ひぃぃぃぃぃっ!?」

(俺のライブ衣装がこんなところに横流しされてる!?)

 

(絶対スーハ―スーハーされてるぅっ! 顔うずめてクンクンされてるぅッ!)


 自分が着ていた服が貴麿によって凌辱されている姿が目に浮かんだ。

 ――恐怖で体がガタガタと震えだす。

「? どうなさったんですかぁ?」

「な……なんでもないです」

 ぎこちない動作で天は紅茶のカップを持ち上げる。

 手の震えのせいか、妙に荒波だった紅茶を口にする。

(む、無理ぃ……。動揺で泣きそうになってきた……)

 手足の震えが止まらない。

 残念ながら、紅茶パワーでリラックスすることはできないらしい。


 財前八千代。

・25歳とは思えないロリロリな容姿と、驚異のGカップを併せ持つ。そんな心も体もふわふわな美少女メイドさん。

 気の抜けるような言動とは裏腹に、有名大学を卒業している才女であり実家もわりとお金持ち。

 悩みは、ほぼ100%金目当てで貴麿と結婚したと思われること。

 趣味はコスプレ。しかし、貴麿から強要されていると勘違いされることもしばしば。ALICEの衣装を高額で買い取っていたりする。以前は頑張って蓮華の衣装を着ていたが、最近は天のおかげで胸元が少し楽になってホクホク。

 実は最近になって妊娠が発覚しており、友達が泣いたという。

 本人と友達の涙の理由が違っていたことに全然気づけていない天然スーパー年上好き美少女。


 それでは次回は『処遇』です。



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